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育児に参加する父親が増えています。しかし母親たちが抱えてきたのと同じ不安やストレスを、いま父親たちも感じ始め、その様相はまるで「海図なき航海」をしているかのようだと専門家は指摘します。
1月14日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋では恵泉女学園大学の学長を務める大日向雅美さんが、育児に携わる父親たちが抱える“揺れ”にどう対処していくか話しました。
「育児したい」 男性からの声
恵泉女学園大学 学長・大日向雅美さん:
最近、男性の育児がいろいろと話題になっています。2021年に育児介護休業法の改正法が成立し、翌年から雇用環境の整備や、産後パパ育休に育児休業の分割取得など、段階的に進んでいます。
でも、なぜ改正が必要なのでしょうか。
男性の育児休業取得率は徐々に増えてきてはいるものの、まだまだ女性のワンオペ育児はなくならず、育児休業後の就業継続が難しかったり、社会的活躍がなかなか進まなかったりしています。
もう一つ、男性からの「育児したい、子供と関わりたい」という声も強くなってきていて、その気持ちに応える。子供のためにも父子関係を小さい時から地道に重ねていくことが必要です。それなのに現実は厳しいのです。父親たちはいま、どんな心境、状況に置かれているのでしょうか。
揺れる父親たち
実は、父親たちはとても揺れてます。「イクメン」という言葉が流行語大賞になった2010年から十数年が経ち、積極的に育児をやって喜びを語るお父さんたちも増えました。子育て広場にも土日にはパパたちが集まり、離乳食をどうやって作るのかなど情報交換をしています。
ただそれにともない、育児不安やストレスを訴える父親も増えています。朝早くから家事をしてお弁当も作って、子供たちの保育園の送り迎えもして、一生懸命自分で抱え込んでしまう。保育園で熱を出すと、「すみません」と帰らないといけない。
「仕事も中途半端、どんなにやっても家のことも子供のことも中途半端。もうどうしたらいいのかわからない」という、お母さんたちが訴えてきた悩みを抱えている男性たち。
その対極で、いわゆる「昔ながらのお父さん」のような人もいます。「やっぱり男性は仕事、稼いでなんぼでしょう。自分が仕事をしているから、妻も子供も生活できている」「まあやりたいけれど、育休なんて取ったら評価が下がり職場で働きづらくなる。現実の厳しさをもっと見てください」という男性。
「海図なき航海」さまよう父親
いま男性たちは「海図なき航海」をさまよっているのだと思います。
女性は「お母さんとなったら自分を捨てて特に子供が小さい時には育児に専念して当たり前、母親はこうあるべきだ」という押し付けられるようなモデルがありました。でも、男性たちは仕事一辺倒でそれ以外の生き方を考える機会がなかなか持てなかったのではないでしょうか。
子供に対し父親として毅然と厳しくか、それとも友達感覚がいいのか、どう接していいかわからない。妻に対しても、夫としてどういう関わりをしたらいいんだろうか? 妻もいろいろ悩み、母親だけではない人生を生きたいと考えている。どういうところから会話を始めたらいいのだろうか。
“揺れ”は良いチャンス
「仕事も子育ても」の悩みは女性だけではなくなり、男性も生き方を巡り揺れています。でも、この「揺れ」はとてもいいチャンスだと思っています。新しい時代を作る原動力にしてもらえるのではないでしょうか。
「男らしくない」などと思わないで、胸を張って揺れ、チャレンジする。どの世代でもいつからでもスタートを切れると思っています。
大日向雅美:1950年生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。2016年、恵泉女学院大学学長に。専門は発達心理学。母親の育児ストレスや育児不安を研究。子育てひろばの施設長も務める。
※この記事は1月14日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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