茶臼小屋
でかける

ラスト40分で天国へ 地獄の激登りの先はお花畑で雷鳥親子が歓迎【南アルプス・茶臼岳】

茶臼岳というと栃木・那須岳の茶臼岳が有名ですが、静岡県の南アルプスにも茶臼岳があります。地獄のような激登りですが、ラスト40分は急展開が。すてきな茶臼小屋のスタッフのおかげで充実した山旅となりました。秋に行われる登山道を修復するツアーの募集も始まっています。

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茶臼岳は目立たない? 位置と概要

茶臼岳(標高2604m)があるのは、南アルプスの静岡県と長野県の県境。

上河内岳山頂から見た茶臼岳

日本海から太平洋まで縦断する過酷な山岳レース「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」の最後の山岳区間としてご存じの方もいるかもしれません。

日本百名山として知られる聖岳と光岳の間にあり、茶臼岳自体は日本三百名山。正直、目立たない山です。

※国土地理院地図に山の名前と小屋名を添付

しかしこの山、あなどってはいけません。

そもそもアクセスが難しい南アルプスの静岡県域にあり、勾配は日本三大急登の甲斐駒ケ岳・黒戸尾根を超えると言われています。

今回の登山DATA
登った山:茶臼岳(2604m)
     上河内岳(2803.4m)
タイム:1日目 約7時間(うち休憩1時間)
    2日目 約7時間(うち休憩45分)  
距離:1日目 約10.2km 
   2日目 約14km

茶臼小屋まで“3つの苦”

まず茶臼小屋までの山道について3つポイントを絞って、どう大変なのか書きます。ただし、どうかいやにならず、最後まで読んでください。なぜなら苦労が報われる景色がその後に待っているからです。

登山口までの運転が苦

スタート地点となる「沼平ゲート」は県道60号線・南アルプス公園線の起点です。ここまでは一般車で入れるのですが、すれ違いも難しいくねくね山道を静岡市街地から2時間半運転しなければなりません。

一つ目の苦は登山口までのアクセス。

運転が苦手な人は、まだ登ってもいないのに、ここまででかなりのストレスを受けることでしょう。

県道60号の起点「沼平ゲート」(静岡市葵区田代)

スリル感あり過ぎ「大吊橋」が苦

無料の駐車場に車を止めたら、舗装された平たんな林道を40分歩いて登山口へ。

待ち受けているのが2つめの苦、長さ181mの「畑薙大吊橋」です。

中央に見える白い線が畑薙大吊橋

その高度感、長さ、揺れ具合、一流です!

揺れが増幅されるので、できれば他の人とは一緒に渡りたくないと思いました。

せっかくここまで来たのに、つり橋を渡れずに引き返す登山者もいるそうです。

畑薙大吊橋 足元は金属板2枚だけ

以前は足元が木の板1枚だった時もあるそうなので、金属板2枚の現在はましと言えるのではないでしょうか。

とにかく途中で写真を撮ろうと試みる方は、くれぐれも落とさないように気をつけましょう。

終わらないつづら折りが苦

登山道を歩き始めて1時間半、「ウソッコ沢小屋」に到着します。3つ目の苦、激登りが始まります。

急傾斜にかけられた階段というかハシゴは崩れかけ、なんと心もとないことでしょう。グラつかないか確かめながら、恐る恐る登ります。

そしてほとんどの工程が、終わらないつづら折りの急登。あなたの脚と心を苦しめていきます。

単調なつづら折りがあなたを苦しめます

樹林帯の中、どこまでも終わらないつづら折り。折って、折り返して、また折って。

眺望など望めません。

終わりの見えないつづら折りに心が耐えられなくなってしまいます。

木立を見上げながら休憩
登っても登っても景色が変わりません

あまりの急傾斜に珍しく靴ずれを起こしながら、足元だけを見つめて、無心で登りました。

しかし、どんな登山道にも終わりがあります。

登山口から5時間半。

だんだんと木の背丈が低くなり、足元にお花が姿を現し始めます。そして、風にのって人の笑い声が遠くから聞こえてきました。山小屋が近いに違いありません。

ラスト40分の急展開 雷鳥親子に遭遇 

茶臼小屋
茶臼小屋(静岡市葵区) 小屋から富士山も見える

樹林を抜けて、突然小屋が姿を表しました。

茶臼小屋は、山頂まで約40分の南斜面に建っています。

小屋開き直前だったこの日は、手伝いの人たちもいて、にぎやかな雰囲気。テント泊や冬季小屋を使う一般登山者もいました。意外にも若者グループが多く、南アルプスの静岡県域は熟練の山男たちの楽園、というイメージが少し変わります。

小屋周辺のお花

周囲にはシナノキンバイやシシウドが咲き、小屋の隣ではこの日ヘリで空輸されたばかりの飲み物が、豊富な湧き水にひたされて、キンキンに冷えていました。

小屋の人によると、茶臼小屋は水が豊富で飲料水に困ったことがないそうです。

小屋に荷物を置いて身を軽くしたら、頂上までは残り40分です。

先ほどまでの重い足取りはどこへやら。ここからは高山らしい登山道となります。スキップしたいほど気持ちが晴れやかになり、天国のようなキラキラした登山道を歩いていきます。

ほどなく茂みの中から「クックー」というかわいらしい声が。ライチョウです。

茶臼小屋のそばで見かけたライチョウ親子

しかも3羽のヒナを連れていました。ヒナはあっちに行ったり、こっちに行ったり、3羽バラバラに好きな方向に歩き回るので、お母さんは大変そうです。

このエリアは世界のライチョウの生息域の南限です。温暖化が進み、少し前までは茶臼岳より南の光岳でも確認されていましたが、最近では目撃されなくなったそうです。

同じ親子を翌日にも見かけました

この親子が本当に一番南に暮らすライチョウかもしれないと思うと、暑い中、子育てに奮闘するお母さんライチョウを応援せずにはいられませんでした。

ちなみに茶臼小屋にはライチョウの目撃マップがあります。「見かけた」と小屋のスタッフに伝えると、地図に表示できるほか、記念のシールがもらえます。

なんと今シーズン最初の目撃者だったので、栄えある一番の表示を貼らせてもらいました。

ライチョウ親子のおかげで、ますます気持ちも前向きになり、山頂まではあっという間でした。景色は抜群。

北側にそびえる上河内岳(かみこうちだけ)と聖岳(ひじりだけ)の眺望が素晴らしく、南アルプスらしい深い緑のどっしりとした山体に圧倒されます。

山頂からの眺め
右が上河内岳(2803m) 中央が聖岳(3013m)

南東に目を向ければ今朝登り始めた畑薙大吊橋がある畑薙湖が小さく見えます。そして雲の上には富士山が顔を出していました。

茶臼小屋の楽しい仲間たち

茶臼岳は日帰りするには大変な山なので、ぜひ山小屋に1泊してください。

コロナ以降は食事を提供していないので素泊まりのみですが、宿泊スペースは吹き抜け2階構造の、気持ちのいい小屋です。

2階構造の吹き抜けになっている大部屋

小屋番は3人。ベテランの女性スタッフ1人と、その人に口説かれ小屋番になったという、元静岡県警山岳遭難救助隊の副隊長・名倉健兒さん。

そして、平日は静岡市内で会社勤めをしながら、週末ごとに小屋と下界とを行き来する、信じられないほどパワフルな宮川典子さん。しかも小屋の荷物を歩荷してくるそうです。

茶臼小屋スタッフ 左)宮川典子さん 右)名倉健兒さん

名倉さんを慕う人たちが集まる「茶臼山の会」があり、この日は小屋開けの手伝いに十数名が泊まっていました。

名倉さんは県警史上最長記録となる35年間、山岳遭難救助隊として南アルプスの山々を歩き尽くしました。

自分には合わないと思っていた小屋番の仕事ですが、やってみると楽しくて、夏の3カ月間が3週間に思えるほどあっという間に過ぎていくそうです。

小屋番・名倉健兒さん:
毎日新しい人が来て出会いがあるんですよ。アットホームな宿の雰囲気が好きなんです

小屋開けの手伝いにきた仲間たちと夕食の一杯

名倉さん自ら考案したオリジナルの茶臼小屋グッズもお見逃しなく。

今シーズン新たに登場したのは「ライチョウの手ぬぐい(1500円)」です。茶臼岳で普段トレーニングをしている山岳ランナー・望月将悟さん(TJAR4連覇)のサインがプリントされています。

面白いのは「なめんじゃね~ぞ!! 南アルプス三大急登 茶臼岳」と書かれた「Tシャツ(2500円)」です。

ここまで登ってきたからこそ、その言葉が染みわたります。

さらにオコジョやライチョウの3Dピンバッジも名倉さんの発案で2025年から登場です。

グッズの売上は貴重な小屋の収入源とのこと。気に入ったものがあれば、ぜひどうぞ。

茶臼岳・上河内岳ピンバッジ(各800円 セット1500円) 
絵ハガキ(切手付き300円)は特別な消印付きで小屋から投函

後悔しません 上河内岳まで行っちゃって!

翌朝、名倉さんやその仲間たちに勧められ、予定にはなかった上河内岳(かみこうちだけ)に足を伸ばしました。

脚の疲れが残ってはいましたが、前の日に茶臼岳山頂から見た美しい山の姿が気になっていました。

上河内岳は茶臼岳の1つ北にある標高2803mの山で、小屋から往復3時間の距離にあります。

小屋を出た午前4時には一面ガスで覆われていましたが、「もうすぐ晴れるよ」との名倉さんの言葉通り、歩いているうちに青空が見えてきました。

途中平坦なくぼ地にお花畑があります。ここには「亀甲状土」という地形が広がっています。

カミコ石と呼ばれる上河内岳にそっくりの岩があるのでお見逃しなく。

上河内岳とカミコ石

上河内岳の山頂からはさらに南アルプス深南部の赤石岳や荒川岳がよく見えます。

せっかく茶臼岳の激登りを乗り越えてきたのなら、上河内岳の眺望も見ておかない手はありません。帰りの茶臼小屋から登山口までは平均5時間程度を要するので、時間が許せばぜひ行ってみてください。

上河内岳山頂より 正面奥に見えるのが赤石岳と荒川岳

茶臼岳登山道の整備に参加しませんか 

さて、下山もまた過酷です。名倉さんは小屋で働き始めた当初は登山者に「茶臼岳には気軽に来て」と言っていたそうです。しかし今は考えが変わりました。

小屋番・名倉健兒さん:
崩壊して道がなくなった場所もあります。昔と違って危ないところが多くなってしまいました。2024年は死亡した登山者も出ています

数年前の土砂崩れで登山道が埋まってしまった箇所

南アルプスの深南部は元々急峻な谷が多く崩れやすい地形ですが、ここ数年でさらに崩れる登山道が増えました。道を管理している静岡市の補修も、しばらく入っていません。

名倉さんも壊れたつり橋を補修していますが、6.7kmにわたる急登全てには手が回りません。

2025年秋には一般の人に参加してもらい、登山道の修復を手伝ってもらうツアーが計画されていて、現在募集が行われています。

南アルプスの穴場的な山・茶臼岳を、多くの人に知ってもらい、共に守っていく機会になるかもしれません。

!CAUTION!
◎事前にしっかり計画をたて、自治体に登山計画書を提出してください。
◎初心者向けのルートではありません。適切な服装と装備で登山に臨んでください。
◎時期や天候によってコースの状況が変わっている可能性があります。インターネットなどで最新の状況を確認してください。
◎静岡県全域でクマの目撃情報が相次いでいます。クマ鈴、クマ撃退スプレーを携帯しましょう。

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