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誰が守る? 荒れた登山道 歴史の道「二本杉歩道」復活へ参加できるツアー 静岡・河津町

全国で登山道の荒廃が問題となっています。原因は登山者が踏み荒らしてしまうこと、そして近年の異常気象です。行政による整備は全く追いつきません。こうした中、一般の人が参加して道を整備するツアーが、伊豆半島の天城山周辺で初めて開催されました。

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「登山道」を観察するツアー

秋が深まる人気のハイキングスポット伊豆の八丁池。こちらのグループの視線の先は、紅葉ではなく「登山道」です。

観察するのは「登山道」

例えば山の中で、同じ場所、同じ方向に並んで2本の道があることがあります。一方は正しい登山道ですが、「歩きにくい」という理由で道を外れた人たちによって、あらたな道ができてしまうのです。

複線化した登山道

一行を案内する登山道の整備団体「天城トレイルワーカーズ」の代表・倉原卓也さんが、登山道の状況を参加者に説明します。

天城トレイルワーカーズ・倉原卓也さん:
ひとり歩いたら他の人も新たな道に行くじゃないですか。今となっては、ほぼそちらがメインルートになってしまっています

人が踏みしめる力「踏圧」によって、もろくなった地面。そこに異常気象による雨が追い打ちをかけ、荒れ果てた登山道が全国で増えています。

天城トレイルワーカーズ・倉原さん:
ぼくもそうですが土を削りながら歩いているんです。通ることによってどんどん踏み固められて水が流れやすくなり、そこに植物が生えなくなります

これは一般の人に登山道の実情を知ってもらい、整備にも力を貸してもらおうというツアーです。普段から登山やトレイルランニングで山を利用する人たちが、県外からも集まりました。

参加者:
登山が好きなんですが、もう一歩踏み込んだ形で整備されている人の視点をちゃんと学びたかった

別の参加者:
段差があったり削られているところもよく見ているので、ちょっと学んで助けになりたいなと思っていました

この日は、登山家の花谷泰広さんもゲストとして参加。花谷さんは一般の人も巻き込んで登山道を守る活動を、山梨県でいち早く展開してきました。

登山家・花谷泰広さん:
同じような問題が各地で起こっていて、もはや地域の人たちだけでは、もうとても追いつかない状態。一般の人たちに来てもらうことで、修復するスピードが上がっていくことが期待できます

登山家(北杜山守隊 代表)・花谷泰広さん

10年前から閉鎖続く「二本杉歩道」

2日目、一行が向かったのは「通行止め」の看板が立つ河津町の「二本杉歩道」です。台風により崖崩れが起き、2014年から通行止めとなっています。

天城トレイルワーカーズ・倉原さん:
歩道を管理する河津町が修復をしようとしたんですけれども、すごくお金がかかってしまうと。棚上げ状態で十年以上経ってしまったという形ですね

通行止めとなって10年がたつ二本杉歩道

幕末に脚光 二本杉歩道の歴史

二本杉歩道ができたのは江戸末期。この道が一躍脚光を浴びることになったのは幕末です。

アメリカの駐日初代総領事・ハリスがこの道を通って江戸に向かいました。

下田市史編さん室・高橋廣明さん:
下田が開港すると日本の要人たちが天城を越えて(江戸から)やって来ます。松平定信の時も400人と言われていますが、(米初代総領事)ハリスの時も350人ぐらいだと言われています

また幕末の思想家・吉田松陰も、意外な状況で二本杉歩道を通りました。

下田市史編さん室・高橋さん:
「足には絆(足かせ)を打ち 身には綱をかけ 手に手錠をおろし唐丸籠にのす」。非常に厳重に運んでいるわけですよね

松陰は下田に停泊中の、ペリー率いる黒船に密航を企て失敗。江戸に移送される際、二本杉歩道を囚われの身となって通りました。

地元のガイドは、そんな歴史の道が長く閉鎖されている現状を嘆きます。

河津ふるさと案内人・土屋光示さん:
昔の方がここを歩いたんだなと、苦労して天城を越えたんだなというのがわかる道ですね。災害とか多くて手が回らないのかもしれないけれども、歴史の道として、復活させてもらいたいなという思いです

「近自然工法」で植生を復活

炭焼きの窯跡、石垣、崩れた橋。悪路を1時間半歩いた先で、この日整備する場所にたどり着きました。

整備の指導をする「天城トレイルワーカーズ」は、本業がアウトドアガイドや造園業の地元有志で、これまでたった4人で整備を担ってきました。

天城トレイルワーカーズ・倉原さん:
「近自然工法」呼ばれるものを目指して工事をしています。石を積んだり木を使ったりして工事をすると同時に、その回りの植物を復活させたい。植物が復活することによって山が安定する。その中に人間が通れる最低限の道がある。結果的に人間にとっても歩きやすい道になっている

「せーの! せーの!」岩を引き揚げるかけ声が、谷にひびきます。

60kg以上ある岩を、何度も引き揚げたり、石積みを組んだり。

重機を使って斜面をコンクリートで覆うような土木工事ではなく、最低限の道具と、自然の中にある材料を使って登山道の土台を安定させます。

重い石も一致団結して引き揚げる

天城トレイルワーカーズ:
谷積みと言いますが谷の形にする、そうすると上に次の石がハマりやすい

約3時間の活動では、完成には至らなかったものの、石積みの姿が見えてきました。

参加した女性:
力を合わせて作業するのが魅力だと思います。こんな私でも登山道整備に関われるということで

参加した男性:
達成感という一言では言い表せない何かがあるんだと思います

別の参加者:
今まで登山をすることによって崩してしまっていると思うので、今後そういうところに気を付けながら歩きたいと思いました

天城トレイルワーカーズ・倉原さん:
すごく心強く感じました。行政を動かして開通に近づける力になると思いますので、いろんな人の力を借りて開通を進めていきたいと思っています

災害級の雨が頻発する時代、歩く人の意識が変われば、荒れた登山道の景色も変わってくるはずです。

シカによって山が荒れている

登山道は本来だれに管理責任があるのでしょうか。

まずは地権者がいます。道の部分を国や自治体が借りて登山道にしています。二本杉歩道の場合は国が地権者、河津町が管理者です。管理者に責任があるのですが、実際は整備にかける予算が少ないのが現状です。

登山道といっても、管理者がいない道も多くあり、制度にまず問題があります。

伊豆の登山道が荒れるもう一つの原因が、増えすぎたシカではないかと言われています。この森に入って、登山家の花谷さんは「不気味さを感じる」と言いました。それは、ほとんどの場所で下層の植物がなかったからです。   

シカの防護柵で囲った所がありますが、その中は笹や小さな樹木がびっしり生えているんです。これが本来の山の姿だったはずですが、シカが全てを食べてしまったので、地面がむき出しになって、雨による浸食がひどいのではないかと言われています。
  
花谷さんは「もはや登山道だけ整備すればいいという問題ではない。」と話していました。

テレビ静岡は、登山道整備団体と一般の人とを結ぶ「しずおか山守隊」を結成し、今回の取り組みを支援しました。関心のある方は「しずおか山守隊」で検索してみてください。

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