目次
浜名湖では海草のアマモを育てて、かつての生態系を取り戻す「浜名湖ワンダーレイク・プロジェクト」が進められています。産官学や地元の人たちが参画していますが、2025年度からは浜松市内12ロータリークラブも参加。6月に行われた調査では一部で“アマモの森”が復活していることが確認され、関係者を喜ばせています。
【画像】記事中に掲載していない画像も! この記事のギャラリーページへ浜名湖のアサリが激減! 原因の一つは「アマモ」の減少
浜名湖で潮干狩りをした思い出がある人も多いのではないでしょうか。そのアサリが近年、激減しています。2018年に1798tだった水揚量は、2023年には374tと、約5分の1になっているのです。

アサリだけではなく、エビやそのほかの水中生物の個体数も減少しています。浜名湖でいったい何が起きているのでしょうか。
原因の一つと考えられているのが「アマモ」という海草の減少です。アマモは比較的浅いエリアに生える海草で、アサリの稚貝や幼魚などの隠れ家になったり栄養分になったりすることから、「海のゆりかご」とも呼ばれています。

アマモをはじめとする水中植物が繁殖している場所を「藻場(もば)」といいます。藻場は生態系を支える重要な役割を担っていますが、浜名湖では減少しています。そのため水中生物が減っているのです。
そんな浜名湖の実態を危惧し、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために活動している団体があります。それが「浜名湖ワンダーレイク・プロジェクト」です。

浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトは、浜名湖のアマモの定点調査や、小学校と連携した「アマモの再生教室」、ワークショップなどを通じて、藻場の復活と浜名湖の生態系の実態を広く知ってもらうための活動を行っています。
浜松市内12ロータリークラブがプロジェクトに参加
浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトにはすでに多くの人たちが関わっていますが、このたび、新たな協力者が現れました。浜松地区で活動する12ロータリークラブです。
ロータリーは全世界200以上の国にネットワークを持つ奉仕団体で、世界各国に支部があります。浜松市内12ロータリークラブもその一つです。
浜松中ロータリークラブが浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトと連携し、アマモ再生プロジェクトを始動する理由を、幹事の眞瀬悦邦さんに聞きました。
浜松中ロータリークラブ 幹事・眞瀬悦邦さん:
子供のころ、夏になると浜名湖で毎日泳ぎ、アサリをとっては家族で食べていました。中学生になると友達と釣りをして、釣った魚は自分でさばいて食べていました。けれど、気がつけばアサリはとれなくなり、魚は釣れなくなりました。子供のころの豊かな浜名湖を取り戻したい、そのために何かできることはないかと思っていたところ、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトを知ったのです

2024年、眞瀬さんは浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトが開催した「アマモ探検ツアー」に参加します。
そこで、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトの活動と、浜名湖の生態系の異変にはアマモの減少が関係していることを知り、「ロータリーとしてアマモの再生に協力したい」と思ったと話します。
【関連記事】アマモを増やして生き物を救え! 貸切列車と船で行く「アマモ探検ツアー」に行ってみた

浜松市内12ロータリークラブは現在、「RI2620地区静岡第5グループ合同奉仕事業」としてアマモ再生のためにさまざまな取り組みを進めています。
5月30日には、浜名湖の実態についてもっとよく知るため、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクト有識者委員会委員長の徳増隆二さんを招いてアマモの基調講演会を開きました。
基調講演の様子は、浜松市内のすべてのロータリークラブにも動画で配信され、浜名湖の現状と課題が共有されました。

調査船に同乗! 眞瀬さんが見た浜名湖の実態
6月13日には、浜松中ロータリークラブを代表して、眞瀬さんが浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトの調査船に同乗。アマモの実態を視察しました。
今回の調査は2隻体制で、1隻には静岡大学農学部の笹浪知宏教授率いる研究チームと眞瀬さんが、もう1隻には、ドローンの撮影チームが乗り込みました。

この日は4つのポイントを調査します。弁天島海浜公園の船着き場から出発すること約20分、最初のポイントに到着しました。
ダイバーが潜って30cm×30cmの枠を湖底に沈め、枠内のアマモを採取します。また、異なる地点のアマモもサンプルとして10本ずつ採取します。

ダイバーからアマモを受け取った笹浪教授は長さを計測し、採取地点を記したタグを付けていきます。
静岡大学・笹浪知宏 教授:
採取したアマモのサンプルは研究所に持ち帰ってDNAを抽出します。そのDNAを手がかりに、浜名湖で繁殖してくれる強いアマモの苗を作ります

教授の作業を手伝いながら、眞瀬さんがこんな話をしてくれました。
浜松中ロータリークラブ・眞瀬さん:
私が子供のころは、浜名湖にはアマモがびっしりと生えていました。アマモをとって畑の肥料にしていたりもしたんですよ

浜名湖のそばで生まれ育った眞瀬さんにとって、アマモは“当たり前”の存在でした。それがなぜ、減少してしまったのでしょうか。
静岡大学・笹浪 教授:
アマモは全国的に減少しています。その原因としては、温暖化や水中の栄養分の変化など考えられますが、はっきりとしたことはわかっていません。ただ浜名湖の場合は、2018年の台風24号でアマモが根こそぎ流されてしまったことが、急激な減少の一因ではないかと考えています

アマモの根元にアサリ復活 一部で「アマモの森」も
調査中、ダイバーが採取したアマモを見て歓声が上がる場面がありました。アマモの根元に小さなアサリがいくつも付いていたのです。
プロジェクトのメンバーの一人は「本当にうれしい。自分たちの活動がむくわれた思いがする」と話してくれました。

さらに、4つめのポイントでは、船の上からでもわかるほどアマモがびっしりと茂っていました。「これはすごい!」と眞瀬さんも大興奮です。
ある種類の植物が地表面をおおっている割合を「被度(ひど)」といいます。ドローンで撮影された映像を見ると、その一画のアマモの被度はほぼ100%。水中はまるで「アマモの森」のようです。

このあたりのアマモは丈も高く、湖面まで伸びています。湖面まで伸びたアマモが波を打ち消しているため、一帯は鏡のように凪いでいます。
このような状況を地元の漁師は「白たを引く」と言うそうです。「た」は方言とのことなので、「凪いだ湖面が白い色を引いたように見える」といった意味なのでしょう。

それにしても、2025年になってなぜアマモが戻ってきたのでしょうか。気になります。
静岡大学・笹浪 教授:
考えられる理由は大きく2つあります。1つは海流の変化です。長く続いていた黒潮大蛇行が終息して海水温が下がり、アマモの生息に適した温度になったことが大量発生につながったのではないでしょうか。また、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトではこれまで、採取したアマモの一部の苗から種を採取し、より強い苗を育て湖に戻す活動を行ってきました。その成果が少しずつ出てきたのではないかと考えています
この日の調査は、乗船前の打ち合わせも含めると5時間にもおよびました。

浜松中ロータリークラブ・眞瀬さん:
調査では実に地道な作業が行われていることを知り、本当に頭が下がる思いです。アマモが減少した理由はいろいろ考えられると教えていただきましたが、突き詰めれば私たち人間のせいといえます。人間のせいでアマモが減少したのであれば、再生のために人間が手助けするのは当然です
「まずは少しでも多くの人に浜名湖の実態とアマモ再生のための活動を知ってもらいたい」と話す眞瀬さん。浜松中ロータリークラブはさまざまな取り組みを行う予定です。

8月以降、会員とそのファミリーを集めて、アマモの苗発芽活動、アマモを学ぶ教室、発芽したアマモの苗を実験水槽に植え替える活動などを企画しています。
また、実験水槽への看板協賛などを通じて、浜名湖ワンダーレイク・プロジェクトを応援していく予定とのこと。
浜名湖の環境を取り戻すための活動の輪は、ますます広がっています。
sponsored by 浜松市内12ロータリークラブ
【もっと見る! アマモの記事】
