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いまだ着工が見通せないリニア中央新幹線 静岡工区。こうした中、「私がJRの意思決定者であれば解決策を出せる自信はある」と述べた川勝知事だが、この点について県議会で問われると“逃げ”の答弁に終始した。
封殺されたのに…解決策=ルート変更?
「もし私が、これ大きなビッグイフですけど、JRの意思決定者であれば現在の川勝と膝を突き合わせて話し、その場で解決策を出せる自信はある」
2023年10月10日。静岡県の川勝平太 知事は定例記者会見の場で膠着するリニア中央新幹線 静岡工区をめぐる問題について、このように豪語した。
ただ、記者から「その自信はどこから来るのか?」と尋ねられた川勝知事は「現状を分析しているから」と答えたものの、結局、会見の最後までその“解決策”を具体的に示すことはなかった。
実は、この問題について過去にも何度か「腹案がある」と言及している川勝知事。
そして、それは持論として語り続けて来た“静岡県を避ける”ルートへの変更だと見られてきた。
しかし、2022年7月に静岡県がリニア中央新幹線建設促進期成同盟会に入会した際、川勝知事が「現行ルートでの整備を前提とする」ことなどを約束したため加盟を認められたという経緯があることから、事実上この“ルート変更案”は封殺され、川勝知事自身も「こちらが新幹線のルートをどうすると言う資格も立場も責任も義務もない。私が先導することはない」と述べていた。
だからこそ、川勝知事の言う“解決策”とは何を指すのか、多くの人が疑問を抱いていた。
県議会が“解決策”を追及するも…
こうした中、12月12日に開かれた県議会12月定例会の一般質問で自民改革会議の中田次城 議員がこの疑問をぶつけた。
ところが川勝知事は「JR東海との対話を速やかに進めるために、意思決定者である丹羽社長には強いリーダーシップを持って取り組んでほしいとの思いを述べたものである」と答弁。
ここで、改めて冒頭の発言を見てみよう。川勝知事は「もし私が」「これ大きなビッグイフですけど」と、“わざわざ”仮定の話であると前置きした上で「JRの意思決定者であれば(中略)解決策を出せる自信はある」と続けていることから、誰が聞いても「思いを述べたもの」とは受け取らないだろう。
解決策=ルート変更でないと言うが…
当然のことながら、納得がいかない中田議員は「あの時、知事は何らかの具体的な『こうあれば解決できるのだ』ということが自分の頭の中によぎって言わなければ、あんな発言はできない」と厳しく詰め寄り、さらに「ルート変更ということを意識して言ったのか?言っていないのか?それとも他に具体的な妙案があって言ったのか?」と再質問した。
これに対して、川勝知事は「現在のルートを前提にして促進期成同盟会に入っており、現在のルートを前提にして(県の)専門部会で議論してもらっているわけなので、ルート変更は念頭にない」と否定した一方、“具体的”な解決策には触れずじまい。
それどころか、驚くべきことに「現在はコロナ、エネルギー・資材の高騰、1.5兆円の増資、財投(財政投融資)、これら2011年に国交省がJR東海に認可した時の事情とは大きく異なっている。従って『いったん留まって改めて考え直す必要がある』ということはぜひ丹羽社長とも膝を交えて話すことが出来れば」と、“リニア推進論者”を自認しておきながらも建設の促進を否定するかのような発言まで飛び出した。
議員が…議長が…知事の姿勢に苦言
最後に中田議員が「要するに『その場で解決できる』とする具体的なものはないということ。あまりにも知事が発言の重みを考えずに、軽々しくいろいろなことを期待させるようなことを言う。では、その解決策とは何なのか?でも、それを聞けば答えられないじゃないですか!(解決策は)ないじゃないですか!議員が質問したことについて真正面から答えてこない。答えられない。逃げるんですよ!」と苦言を呈したが、川勝知事は頑として譲らず「意思決定者は私ではない。従って私がそれを言うのは失礼であるというか資格がない」と口にすると議場の失笑を買った。
県議会では再質問は2回までという会議規則があるため、中田議員の追及はここまでとなったが、一般質問終了後の議会運営委員会では川勝知事の姿勢を問題視。
このため再答弁を求めることになったが、川勝知事の発言を前に中沢公彦 議長は「前日(11日)の質問に対する答弁の際、わかりにくい答弁であったことから、私から知事に簡潔に答弁する旨を注意したところだが、本日午前中の質問の答弁の際、議長がわかりやすい答弁を促しているにも関わらず、知事は明確な答弁をされなかった。このようなことが繰り返されることは誠に遺憾であり、議会軽視につながる不誠実な対応と言わざるを得ない」と注意した。
政治家の言葉の重みとは?
その後、再答弁に立った川勝知事。「現行ルートを前提にした上で、出来るところから、つまり開通できる状況になった部分から開通させることが営業実績となり、解決策となると考えている」「できるところからやるということから、実験線の延伸・完成が1つの例示になる。(計画を)変えることは社長にしかできない」と、部分開業こそ解決策であるとの見解を述べた。
だが、またしても疑問が浮かぶ。
この山梨・神奈川間の“部分開業案”というのは川勝知事がかつて唱えていた持論であるが、2022年11月に列車に電力を供給する変電所ができていないため困難であるとの見方を示し、記者からの「JR東海が目指す東京・名古屋間の開業に理解を示すのか?」という質問にも「そういうことも言える」と述べていて、一度は“引っ込めた”案だったはずだからだ。
それに、仮に部分開業が実現したとしても静岡工区にはまったく関係のない話であり、部分開業がどうして静岡工区の問題の解決策に成り得るのかわかる人はいないだろう。
政治家にとって“言葉”とは“命”である。
中田議員の指摘にもあったが、川勝知事は一体その重みをどれくらい理解しているのだろうか?
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