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リニア開業で東海道新幹線は? 国の増便予測に川勝知事「お粗末」、静岡市長「評価したい」 真逆な2人

静岡県が着工を認めず、開業のめどが立っていないリニア新幹線。静岡県にもメリットがあることを示すためだろうか、国はリニア開業でダイヤに余裕が生まれる東海道新幹線の増便予測を公表した。ただ静岡県の川勝知事と、県内で唯一リニアの工事現場がある静岡市の難波市長の反応は正反対だった。

岸田首相が年頭会見で調査を約束

岸田首相の年頭記者会見(1月4日)

東海道新幹線の静岡県内の停車本数がリニア開業後にどう増えるかの調査は、岸田文雄首相が2023年の年頭記者会見で言い出し、10月20日に国土交通省が調査結果を発表した。

リニア中央新幹線 山梨実験線

それによれば、リニア開業後に「のぞみ」号の需要がリニア新幹線にシフトすることで、東海道新幹線の輸送量が約3割減少すると見込まれる。その輸送力の“余裕”を活用すれば、静岡県内の駅における停車本数が増えるとされ、想定では1.5倍としている。

リニア開業後の東海道新幹線の増便予測

静岡駅では1日80本、浜松駅では74本となる計算で、新幹線がおおむね12分に1本停まることになる。静岡駅では現在の1時間に3本が5本になる。これにより待ち時間の短縮や在来線との乗り継ぎの利便性向上につながり、県外からの来訪者の増加や県内での利用者増加が期待できるため、経済波及効果は10年間で1679億円が見込まれるとされた。

知事「お粗末 小学生でもできる」

川勝知事の記者会見(10月23日)

この予測に静岡県の川勝知事が噛みついた。10月23日の定例記者会見で、記者に感想を聞かれ、川勝知事は「国交省の発表には呆れた。内容がお粗末」と酷評した。

その理由について、現状の停車本数に“1.5倍”を乗じる掛け算は「小学生でもできる」とした上で、静岡県内の各駅に新幹線が停まる本数については「スマホで簡単に調べられる。半日、長くても1日あれば調べることが可能。それをどうして10月までかかったのか?」と疑問を呈し、「あまりにも簡単な仕事なので国交省が忘れていた」と私見を披露した。

さらに、調査結果はあくまで仮定の話であることから「実現できるかどうかわからないことを10カ月かけて行ったことがお粗末で呆れている」と重ねて批判した。

静岡市長「困難な予測をやっていただいた」

JR東海・丹羽俊介社長

この国交省の予測について、当のJR東海の丹羽俊介社長は10月30日の定例会見で「静岡県全体の停車回数の想定の数字については違和感がなく、あり得る範囲のものであると考えている」と、予測どおりの増便について前向きな考えを示した。

難波市長の記者会見(11月6日)

こうした経緯を踏まえ、静岡市の難波喬司市長は11月6日の定例会見で川勝知事との真逆な感想を述べた。
難波市長は、もともと国交省の大臣官房技術総括審議官まで務めた技官で、川勝知事のもとで2期8年間 副知事を務めたあと、2023年4月に静岡市長に転身している。国交省が予測を発表した10月20日は海外出張中で、記者の質問に答えるのはこの会見が初めてだ。

難波市長は、JR東海・丹羽社長の定例会見での発言を踏まえ「現実性があるものだと思う」と感想を述べた。そして「停車回数をどうするかは、その前の需要予測が非常に大事になるが、かなり困難な作業になるものです。私自身も、かつていろいろなことでやりましたが、前提の起き方など非常に困難な予測になる。それを(国交省に)しっかりやっていただいたことは評価をしたい。停車回数についても出していただいたので、それは評価の形でうけとめたい」と話した。

静岡県内の駅の乗車人員は?

JR静岡駅

ただ難波市長は、「リニア開通による増便に期待するのではなく、県も市も今やらねばならないことがある」として、静岡駅の乗降客が少ないことに目を向けた。

難波市長は、「ひかりは今インバウンドで非常に混んでいる。でも静岡駅で降りていただけない。ダイヤを編成する側がどういう判断をするかは、降りてもらえるから停車するわけで、降りてもらえるような状態にすることが非常に大事」と自戒を込めているかのように述べた。

1日の乗車人員

東海道新幹線の駅の1日の乗車人員に関するJR東海の調査がある(2018年調べ)。東京10万人、新大阪8万人、名古屋7万人に対し、静岡県内は最も多い静岡駅が2万人余り、三島・新富士・掛川は4000人台だ。

難波市長は「リニア開業で停車本数が増える時を待つ必要はなく、今この時点で(乗降客を)増やす努力をしていかないといけない。それは静岡市にとっても静岡県にとっても非常に大きな課題で、観光や経済の活性化に努めたい」と述べた。

リニア新幹線が通る南アルプス

リニア新幹線をめぐっては、このところ、静岡県と静岡市長で意見の食い違いが目立つ。
JR東海が南アルプスのトンネル工事で出る土砂の置き場に予定している大井川上流の場所について、県は周辺で起きる恐れがある大規模土石流の影響を心配して難色を示しているのに対し、土砂置き場がある静岡市の難波市長は「大きな問題はない」とする。

ボーリング調査で持論を語る難波市長(2023年6月)

またJR東海が山梨県内で計画している静岡県との県境付近のボーリング調査については、県が「県内の地下水が山梨県側に流出する可能性がある」として中止を求めているのに対し、難波市長は「県境まで調査を進めても問題はない」としている。

東海道新幹線

どちらの意見が正解か判断できないが、リニア開業に伴う新幹線増便を待たずに静岡駅や県内のその他の駅の乗降客数を増やす努力を、県も静岡市もやらなければならないのは異論のないところだろう。

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