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激震!県リニア担当の元幹部が静岡市に“電撃移籍” 難波市長の事実上の引き抜きに川勝知事の胸中は 静岡

10月22日に静岡県を退職した元理事が、11月20日からリニア新幹線をはじめとした環境問題の対応に当たる静岡市の環境政策監に起用される見通しとなった。年度途中の事実上の“引き抜き”に県には衝撃が走っている。

静岡県庁で突如内示された“人事異動”

静岡県庁 本館

10月17日。静岡県庁である“人事異動”が内示された。

そこには、くらし・環境部で南アルプス環境保全担当の理事を務める織部康宏 氏が22日付で退職する旨が記されていた。

まず、織部氏が何者かという説明が必要だろう。織部氏は2017年4月にくらし・環境部の環境局長に着任し、本格的にリニア中央新幹線に関わる問題に対応するようになった。2017年といえば、奇しくも川勝平太 知事が突如としてJR東海への怒りをあらわにし、今日まで続くリニア問題のきっかけとなった年。

環境局長を3年務めた織部氏は2020年3月の定年退職後も南アルプス環境保全担当として県に残り、リニア問題の対応に当たってきた。川勝知事にとっては“懐刀”といえる存在で、当時の幹部職員を含めて時には「リニア問題の助さん・格さん」と評したり、時には「リニア三銃士」と評したりと信頼の厚さをうかがわせる人物だ。

年度途中での退職を決断した織部康宏 氏(2018年撮影)

他方、静岡市の難波喬司 市長とは難波市長が副知事ならびに県理事在任中にリニア問題をめぐる実務を二人三脚でこなした間柄で、難波市長にとっても“腹心”的な存在だった。それゆえに市長選の立候補に向けて難波市長が県を去った2022年11月頃、織部氏が「自分も辞めたい」とこぼしていたのは一部の県幹部の間では有名な話だ。

とはいえ2023年度も理事を引き受けただけに、年度途中という異例のタイミングでの退職には県職員に少なからず動揺が走った。ただ、直接話を聞いてみても「今は何も話せない」というだけだった織部氏。

多くを語らない織部氏 そこには…

織部氏に”移籍”を打診した静岡市・難波喬司 市長

しかし、関係者への取材で織部氏が“多くを語れない”理由があることがわかった。そして、そこには難波市長の存在が絡んでいる。

難波市長といえば川勝知事と“蜜月”関係にあると思われがちだが、実はそういうわけでもない。現に難波市長は副知事の退任を目前に控えていた当時、「知事と直接話をする機会はほとんどない」「報告は部局長に任せている」と口にしていた。

知事の側近から政令指定都市の首長へと立場が変わったこともあってか、最近もリニア問題をめぐり県と方向性が一致する場面がないわけではないが、国土交通省の元技術官僚としての知識を存分に発揮して県の姿勢や意見に異を唱える場面が目立つ。

そんな難波市長が陰で“獲得”を狙っていたのが織部氏だ。

最初にアプローチを仕掛けたのが市長就任直後の2023年春頃。だが、この時は二元代表制における“首長の所作”がわかっていなかったのか、市議会に対して何ら根回しや調整をしていないにも関わらずインタビューでリニア問題に関連し「環境影響評価を統括するポストを新設する」と答えたことが最大会派の怒りを買い、撤回せざるを得ない状況となった。また、織部氏自身もその時点ではすぐに県を退職できないと考えていたという。

その後、難波市長は6月になって「7月1日付の採用ではどうか?」と再度打診。時を同じくして市幹部を通じて県の森貴志 副知事に対して同様の打診をしたものの、難色を示された。退職そのものは“織部氏の意思”によって決められるが、難波市長は「このタイミングで織部氏が退職することは県に迷惑をかける」と判断し、森副知事に「今は断念する」と申し入れた。

「このタイミングであれば…」

それから、また2カ月が過ぎた8月31日。難波市長は織部氏に三度目の正直と言わんばかりに声を掛けた。内容は「県議会9月定例会閉会後(10月14日以降)ではどうか?」というものだった。

県幹部によれば、織部氏はリニア問題の1つで、県が求めている“全量戻し”の方法としてJR東海が示した田代ダムの取水抑制案について、JRがダムを管理する東京電力リニューアブルパワーとの協議状況を大井川流域の関係市町に説明するなど“一定の目途がついた”として「このタイミングであれば県を退職できる」と判断したという。

思わぬ誤算…ほとぼり冷めるのを待ち

静岡市役所

ところが、織部氏が県を退職する間際になって、難波市長にとって思いもよらない誤算が生じる。

10月20日。地元放送局が「静岡市が織部氏を起用する」旨の先行報道をしてしまう。だが、この段階で難波市長はまだ市議会への報告はおろか、当局の職員に対して織部氏の採用に向けた事務手続きに関する指示すらしておらず、織部氏が市職員に内定したという事実もなかった。ましてや、当時アメリカ出張中だった難波市長。帰国後に根回しを始めようとしていた矢先の出来事だった。

当然のことながら春先の一件があるだけに市議会の最大会派は再び激怒。このため、難波市長は“ほとぼりが冷める”のを待たざるを得なかった。

事実上の引き抜き…川勝知事の胸中は

”懐刀”を失った静岡県・川勝平太 知事

そして、11月中旬になってようやく必要な調整や手続きが済み、11月20日から織部氏を局次長級の環境政策監として迎え入れる状況が整った。

関係者によると任期は2027年3月31日までの3年4カ月あまりで、リニア中央新幹線の工事に伴う環境影響評価や地球温暖化対策に関わる事業の展開、静岡市が予定するプラスチックごみの分別回収に関わる業務などを担当するという。

6月に織部氏に関する打診が静岡市から県にあった際、「他から声がかかることは良いこと」と話したという川勝知事。だが、心中はおだやかではなかっただろう。難波市長による事実上の“懐刀”の引き抜きが、今後の静岡県の“リニア行政”にどのような影響を及ぼすのか。先行きは不透明だ。

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