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県が懸念示す発生土置き場…実は地権者がJRに提案した場所だった!県議会最大会派の視察で明らかに 静岡

いまだ着工できていないリニア中央新幹線の静岡工区。静岡県が問題視しているのは主に大井川の水資源への影響と南アルプスの自然や生物への影響だが、ここに来て第3の問題として持ち出しているのが発生土置き場だ。

東京ドーム3個分の土砂はどこに?

燕沢発生土置き場(静岡市葵区)

路線の8割以上が地下を通るリニア中央新幹線。このため、当然のことながら通常の鉄道工事以上に“発生土”が生じる。

静岡工区の全長は約8.9キロ。ここでは先進坑や本坑、導水路トンネルなどの掘削によって約370万立方メートル、東京ドーム3個分の土砂が発生すると見込まれていて、JR東海は、このうち360万立方メートル分について大井川上流にある燕沢発生土置き場(約13万8000平方メートル)に盛り土するとしている。

ただ、静岡県は燕沢に施工される予定の盛り土について、ホームページで「70メートルもの高盛土は、南アルプスという脆弱な地質・地形を考慮すると、長期的には盛土崩壊や土砂が大井川に流れ込み、濁水や河川閉塞も危惧されます」と懸念を示し、8月に開かれた県の専門部会では「1カ所に大量に置くのがいいのか、もう一度検討してもらえれば」と注文を付けた。

県は燕沢発生土置き場に懸念示すも…

シミュレーション結果を力説する難波市長(10月13日)

これに対し、燕沢発生土置き場がある静岡市の難波喬司 市長は真逆の見解を示す。難波市長は土木工学を専門とする国土交通省の元技術官僚だ。2014年からは県の副知事を2期8年務めていてリニア中央新幹線をめぐる問題に精通している。

その難波市長は独自のシミュレーション結果を基に、JR東海が計画している措置は「全体として大きな問題はない」と断言したほか、国交省が設置した有識者会議も「予測内容・計画をもとに、保全措置、モニタリングを行い、それぞれの結果を各段階にフィードバックし、必要な見直しを行うとのJR東海の進め方は適切であると判断できる」と報告書案に記し、最終的な取りまとめを座長に一任した。

燕沢と藤島沢の位置関係

一方で、トンネルを掘るとヒ素など自然由来の重金属を含む“要対策土”が発生する場合があるため、JR東海は要対策土の置き場について燕沢よりも下流にある藤島沢を候補地としている。

要対策土は二重の遮水シートで覆って盛り土し流出を防ぐ計画となっていて、この方法はこれまでに新幹線や道路建設の現場で数多く採用実績があるという。

しかし、県は2022年7月に施行された「県盛土等の規制に関する条例」で要対策土の盛り土は禁止されていることを理由にJR東海に対して計画の見直しを求めている。

視察で明らかになった“驚き”の事実

自民改革会議による視察(11月15日)

こうした中、県議会の最大会派・自民改革会議の有志が11月15日に燕沢発生土置き場と藤島発生土置き場を視察した。案内したのはJR東海の担当者と“地権者”だ。

実は南アルプストンネルの掘削予定地や周辺の山林は静岡県のものでも、静岡市のものでもなく、民有地であることはあまり知られていない。一帯の山林を所有するのは十山(じゅうざん)という民間企業。特種東海製紙の南アルプス事業部を新設分割した会社で、山林管理やウイスキー製造を手掛けている。

十山・鈴木康平 取締役

それは燕沢発生土置き場に到着した時のことだった。一行は十山の鈴木康平 取締役から“驚くべき”一言を耳にする。

「この山の価値を高めるために、どこに発生土置き場を作ったらいいのかということを社内で検討に検討を重ね、ツバクロ(燕沢)と下流側の何カ所かをJRに候補として提示した」

さらに鈴木取締役は「少し先は急峻な山となっていて、私たちからすると使い勝手が悪かった。JRの盛り土によって勾配・傾斜は元の山に比べると緩くなり、管理用の道路も付けてくれることになっている。また平らに整地もしてくれるということで、当社としても使い勝手がよい場所になるし、有効活用できるのではないかと思う」とも述べた。

県は関係者の思いを代弁できているか?

川勝知事は地権者と「意見交換している」と言ったが…(11月9日)

視察を終え、「県盛土条例はリニア以外の工事でも足かせになっているという話も聞いている」と明かしつつ「県民にとってのベストは何かを精査して詰めていかなければならない。冷静に見なければいけない一方で、多角的に見ることも必要」と話した自民改革会議の増田享大 代表。

この発生土置き場をめぐっては、11月9日の定例記者会見で地権者との協議状況を問われ、川勝平太 知事は「インフォーマルな形だが意見交換している」と回答したが、十山の鈴木取締役は「少しご無沙汰ではないのかと正直思ったりするので、もうちょっと密にできたらいいなと思う」と吐露した。

県、殊に川勝知事はこれまで常々、自分たちが地権者や流域市町、住民の“代弁者”であると主張してきた。ところが、今回の視察で浮かび上がったのは、その発言の信ぴょう性だ。

熱海市を襲った土石流災害(2021年7月)

そもそも、県が藤島発生土置き場に対して“盾”としている県盛土条例は2021年に熱海市で起きた土石流災害をきっかけに制定された。だが、JR東海は条例制定のはるか前から発生土置き場の候補地を県に示している。それに熱海市の土石流は“違法”な盛り土が引き金となっていて、JR東海の土砂処理計画とは同列に扱うには少し無理がある。

鈴木取締役は言う。「自然環境への配慮は大前提だが、それを(JRが)やってくれるということを踏まえて工事を受け入れると決めている。このリニア工事をチャンスととらえ、林道の工事もJRにお願いし、実現している。また、残念だが自然環境の変化を受け入れなければいけない部分もあるというつもりでもいる。周辺の土砂災害の懸念についても県は何千年に一度というような話をするが富士山の噴火の確率の方がよほど高いのではないか」と。

地権者の思いは、県に、そして川勝知事に届くのだろうか。

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