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発がん性懸念PFOAが工員の血液から指標値の418倍検出 体重激減の人も 工場周辺住民は困惑 静岡市

発がん性が疑われる化学物質PFOAを扱っていた工場で、従業員の血液から指標値の418倍のPFOAが検出されていたことがわかった。体重激減を訴える元従業員もいる。静岡市の調査でも周辺の水路から基準を上回る濃度で検出され、住民は不安を募らせている。

広く使われた物質に発がん性の疑念

PFASは有機フッ素化合物の総称

「PFAS(ピーファス)」は人工的に作られた有機フッ素化合物の総称で、その種類は4700種類以上だ。その中で特にPFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)は、水や油をはじき熱に強いため、1940年代からフライパンのコーティング加工や食品のパッケージ、防水スプレーや泡消火器などによく使われた。

PFOSとPFOAは製造・輸入禁止

人体から検出されることも多かったため研究が進み、その結果「毒性が強い」との指摘があり、日本ではPFOSが2010年から、PFOAが2021年から製造や輸入が原則禁止された。

現在はほとんどが使用されていない。ただ自然界では分解されず、土壌に沈着したものが地下水に行きつき河川などに流れ出て残り続けることが問題となっている。

PFOA

この問題は1990年代にアメリカの化学メーカー「デュポン社」が、PFOAの流出により工場周辺の住民に健康被害が出たことから注目され始めた。のべ3500人を超える住民を原告とした裁判が行われ、大学教授などで設立された科学委員会が健康被害を認め、2017年にデュポン社が賠償金6億ドル超を支払うことになった。

また科学委員会は「PFOAを多く接種していた人たちには、腎臓がん・精巣がん・妊娠高血圧症候群・甲状腺疾患・血液中のコレステロール上昇・潰瘍性大腸炎の6つの病気が認められた」と指摘した。

工員の血液から指標値の418倍検出

三井・ケアーズフロロプロダクツ清水工場

そのデュポン社の傘下で当時稼働していた工場が静岡市清水区にある。三井・ケアーズフロロプロダクツ清水工場だ。発がん性が疑われるPFOAを製品の製造過程で使用していた。

このため工場ではアメリカにあった親会社からの要請で2008年から2010年にかけて一部の従業員に対して血液検査を実施した。

アメリカから入手した資料

会社側は検査結果を公表していないが、テレビ静岡が入手した資料によると、延べ24人に血液検査がおこなわれ、その結果24人全員が血中に含まれるPFOAの値がアメリカの学術機関が示す健康リスクが高まるとされる指標値を上回った。

アメリカから入手した資料

中には指標値の418倍の値が検出された従業員もいた。

三井・ケマーズフロロプロダクツは「PFOAの使用は2013年をもって終了した。これまでに従業員の健康被害は報告されていない」と説明している。

2年間で体重10kg減 胃にポリープも

清水工場の元従業員

PFOAを扱っていた当時、この工場でどのような作業が行われていたのだろうか。2010年から約2年間働いていた60代男性に話を聞くことができた。

元従業員は下請け会社の社員で、ポリタンクに小分けされた液体をフォークリフトに積み込んで所定の場所まで運ぶ仕事をしていた。「おそらくその液体がPFOAではなかったか」と言う。会社から液体についての説明はなかった。ポリタンクから漏れた液体を拭く作業も指示されていて、最初は素手でふいていたが皮膚に触れた際にヒリヒリしたため、途中から自分でマスクと手袋を用意したそうだ。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場 元従業員:
液体漏れしているやつを屋外でからぶき雑巾で拭き取って、積み込む作業をしていました。10kg近く体重が減少しました。急激な疲れを感じ、作業服でそのまま帰ってきて食事をしてバタンと寝てしまうような状況が続きました

男性は2年間で10kg近く体重が落ち、疲れやぼーっとした状態が日常的に続き、退職を決断した。退職後に大腸と胃にポリープが見つかり切除したそうだ。

「動物実験でPFOAにより体重減少」

京都大学大学院 ・原田浩二准教授

PFOAは体にどのような影響を及ぼすのだろうか、専門家に聞いた。

京都大学大学院 医療研究科
原田浩二 准教授:
動物実験においてはPFOAは非常に体重を減少させる効果が認められています

原田准教授は人体への影響は未解明とした上で「アメリカでは高濃度のPFOAやPFOSが血中で認められた患者の健康状態を確認したところ、腎臓がんや精巣がん、潰瘍性大腸炎など6つの病気にかかった患者が多数認められた」と説明した。

アメリカから入手した資料

テレビ静岡が入手した資料によると、清水工場では2002年に敷地外の側溝から最大で指標値の6120倍となるPFOAが検出されたことが記録されている。

原田准教授は「一度汚染が生じるとそれが完全に消えるには恐らく数十年の期間を見込まないといけない。(汚染が)どこから発生しているのか、それをどのように除去できるのかという点で対応を考えていくことが必要」と指摘する。

静岡市が調査 周辺水路で指針値の5倍超

工場周辺の水路

工場がある静岡市は2023年10月に市内5つの河川と工場の周辺の水路で水質調査を行い、その結果 工場周辺の水路で国が定めた公共用水域の暫定指針値の5.4倍のPFOAが検出されたと11月1日に発表した。

また三井・ケマーズフロロプロダクツが行った工場から外部へ排水する地点の水質調査では、2023年2月から8月までの間に指針値の2~10倍の濃度のPFOAが検出されたという。さらに工場が対策をとった9月以降も、測定した20日間のうち5日間で指針値を超えたそうだ。

工場周辺の住民

周辺住民からは「会社や市に早く説明してもらいたい」「井戸水があるので不安」などの声があがる。

市は事業者と地元自治会とで連絡会を設置し、対応を話し合うことを決めた。

さらに調査を継続し、その範囲も広げる。

工場周辺の水路の濃度が工場内に比べ高い傾向があり、市と事業者で原因を調査する。また工場周辺の住宅の井戸を調査して地下水への対策も検討する他、工場から海へつながる場所の水質も調べる。

「直ちに健康被害が出る恐れはない」

調査結果を説明する静岡市・難波市長

難波市長は「直ちに健康被害が出る恐れはない」と強調する。

静岡市・難波喬司 市長:
危機感をもって対応することが必要ですけれども、直ちに措置を取る必要がある状況ではないということなので、これから適切に対応していくことが大事だ

工場周辺の水路

PFOAは水質汚濁防止法で「指定物質」に分類されている。「指定物質」とは「有害物質」ではないが、「河川や用水路などの公共用水域に多量に排出されることにより人の健康や生活環境に被害を生ずるおそれがある物質」だ。

国が定めるPFOAの暫定指針値は1リットル中に0.00005ミリグラム(50ナノグラム/リットル)。これは体重50キロの人が水を一生涯にわたって毎日2リットル飲んだとしても、この濃度以下であれば健康に悪影響が生じないと考えられる水準を基に設定された値だという。

その5倍超の濃度の影響をどうみるか。

PFOA(提供:京都大学 原田准教授)

環境省は「PFOS、PFOAに関するQ&A集(2023年7月版)」で、「国内において、PFOS、PFOAの摂取が主たる要因とみられる個人の健康被害が発生した事例は、確認されていない。一部の自治体で、過去PFOS、PFOAが検出された浄水場から水の供給を受けている市町村と、それ以外の市町村について、がんの罹患率などを比較したが、特に差がある状況ではなかった」と説明している。

ただ健康影響に関する血中濃度の基準は、研究が進んでいるアメリカにはあるが日本にはない。

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