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がんの原因はPFOA?発がん疑念物質を素手で12年扱い退職後に発病「会社は検査や健康のフォローを」

発がん性が懸念されている化学物質PFOAを素手で12年間扱った化学工場の従業員が退職後に舌がんになった。男性は「会社は元従業員すべての検査や健康フォローをしてほしい」と訴える。化学工場は10年前にPFOAの使用をやめたが、周辺の井戸水からは現在も高濃度で検出され、市は飲用として使わないよう呼びかけた。

日本の暫定目標値は2020年から

発がん性が疑われる化学物質PFAS

PFASは人工的に作られた有機フッ素化合物の総称で、その中で特にPFOAとPFOSは、水や油をはじき熱に強いためフライパンのコーティング加工や食品のパッケージ、泡消火器などによく使われた。
「毒性が強い」との指摘があり、現在日本では製造や輸入が原則禁止されているが、自然界では分解されず地下水や河川に残り続けている。

PFOA(提供:京都大学・原田浩二准教授)

PFOAは1990年代末にアメリカの化学メーカー「デュポン社」が、この物質の流失により工場周辺の住民に健康被害が出たことから注目され始めた。のべ3500人を超える住民を原告とした裁判が行われ、大学教授などで設立された科学委員会が健康被害を認め、2017年にデュポン社が賠償金6億ドル超を支払うことになった。

化学工場周辺の水路(静岡市清水区)

日本が用水路や河川などの公共用水域での「暫定目標値」を決めたのも2020年と比較的新しい。国が定めるPFAS(PFOA+PFOS)の暫定目標値は1リットル中に0.00005ミリグラム(50ナノグラム/リットル)。これは体重50キロの人が水を一生涯にわたって毎日2リットル飲んだとしても、この濃度以下であれば健康に悪影響が生じないと考えられる水準を基に設定された値だ。

工場周辺の井戸で目標値の26倍

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

デュポン社の傘下でPFOAを扱っていたのが、静岡市清水区にある三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場だ。10年前の2013年まで製造工程で扱っていた。

静岡市は2023年11月、工場周辺の井戸5カ所で調査をし4カ所で目標値の7~26倍の濃度で検出されたと発表した。
また工場側が敷地内の複数の井戸を調べたこところ、すべての井戸で目標値を大きく超えていたという。具体的な数値を三井・ケマーズフロロプロダクツは公表していない。

静岡市の井戸水調査結果

静岡市は、工場敷地内のPFOAが地下水に溶け出し、敷地外の地下水にも拡散したとみている。5カ所の井戸はすべて散水用で飲用には利用されておらず、静岡市は「調査した井戸の利用による健康被害は発生していない」と推定する。

ただ、工場周辺には調査対象以外の井戸もあり、それらの井戸が飲用に使用されている場合もありうることから、静岡市は工場のある三保地区の井戸については、当分の間 飲用を控えるよう注意を呼びかけている。

工場周辺の井戸

静岡市は調査対象の井戸を5カ所から三保地区に隣接する地区も含めて23カ所に拡大し、影響の範囲を調べる。またモニタリング井戸を2カ所設けて毎日濃度を分析するとともに、工場排水のモニタリング調査も行い、井戸や工場排水の濃度が目標値以下になるよう、事業者側に求めていく。さらに市・事業者・地元自治会で連絡会を設け、不安を募らせる住民に現状や対策を説明していく。

井戸調査結果を説明する難波市長(11月8日)

静岡市・難波喬司市長:
(暫定目標値の)26倍は極めて大きいレベルではない。健康被害が直ちに発生する状況ではなく、冷静に受け止めたうえでの対応が必要だと思う。ただ少ない量であっても、できる限り飲用はしない方が望ましいので、三保地区での井戸水の飲用は控えていただく

難波市長が調査結果の記者会見で「健康被害が直ちに発生する状況ではない」とした理由のひとつが、環境省の「PFOS、PFOAに関するQ&A集(2023年7月版)」だ。
その中には、「国内において、PFOS・PFOAの摂取が主たる要因とみられる個人の健康被害が発生した事例は、確認されていない。一部の自治体で、過去PFOS・PFOAが検出された浄水場から水の供給を受けている市町村と、それ以外の市町村について、がんの罹患率などを比較したが、特に差がある状況ではなかった」と説明している。

米国では“がんとの関連”指摘

アメリカから入手した資料

ただアメリカでは少し事情が違う。
前述のデュポン社の裁判で健康被害を認めた科学委員会は、「PFOAを多く接種していた人たちには、腎臓がん・精巣がん・妊娠高血圧症候群・甲状腺疾患・血液中のコレステロール上昇・潰瘍性大腸炎の6つの病気が認められた」と指摘した。

アメリカで問題になっていた頃、清水工場でも親会社からの要請で2008年から2010年にかけて一部の従業員に対して血液検査を実施した。会社側は検査結果を公表していないが、テレビ静岡が入手した資料によると、延べ24人に血液検査がおこなわれ、その結果24人全員が血中に含まれるPFOAの値がアメリカの学術機関が示す健康リスクが高まるとされる指標値を上回った。中には指標値の418倍の値が検出された従業員もいた。

三井・ケマーズフロロプロダクツは「PFOAの使用は2013年をもって終了した。これまでに従業員の健康被害は報告されていない」と説明している。

12年間 素手で扱って退職後がんに

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場で12年間 POFAを扱っていた男性に話を聞くことができた。

静岡市に住む70代の男性で、18歳から30歳位まで12年ほどPFOAを取り扱う仕事をしていたそうだ。
男性は当時、フライパンのテフロン加工で知られる「テフロン」と呼ばれるフッ素樹脂を製造する仕事をしていて、PFOAはその材料として使われていた。

元従業員が携わっていた製造工程

テフロンは直径が約1mで幅が2~3mの重合釜と呼ばれる機械の中にまず純水を入れ、そこに重合開始剤と固形状態のワックス、そして計量した粉状のPFOAを入れてつくる。

男性は厚手のポリエチレンの袋に入ったPFOAを、ステンレスのスコップですくってビーカーで200~300gずつ計量し、水に溶かして重合釜に入れていた。できあがった液体を冷やしたり乾燥させたりする作業もしていた。

元従業員の70代男性

PFOAはしっとりとした粉状で、少し茶色だったという。上司から危険性についての話はなく、男性は手袋や防塵マスクなどはせず素手で触っていたそうだ。
男性は「粉だけれど小麦粉みたいにフワッとしてないですよ。しっとりしていて、吸い込んだという記憶がなかった」と話す。
男性は退職後、舌がんになった。

元従業員の70代男性:
「がんが発生するかもしれない」という不安があって。今も知らないまま生活している(元従業員の)人たちもいるんじゃないかな。会社としては私を含めすべての人たちの検査や健康のフォローをしてほしい

PFOAとがんの因果関係はわからないが、男性は会社側に元従業員に対する追跡調査をするよう求めている。

発がん性が疑われるPFOA

健康影響に関する血中濃度の基準は、研究が進んでいるアメリカにはあるが、日本にはない。
工場周辺の井戸から暫定目標値を上回るPFOAが検出された静岡市の難波市長は、記者会見で市民の血中濃度の検査をするか聞かれ、「予定はないが、希望する人がいれば対応を考えたい」と答えていた。

工場が扱いをやめてから10年も経って、目標値の26倍の濃度が検出されたPFOA。扱っていた頃の井戸水の濃度は今よりももっと高かったことが予想される。そうした井戸水を10年以上 飲み続けている人もいるのではないだろうか。

PFOAを扱っていた元従業員や周辺の住民たちの健康に影響がないと言い切れるのだろうか。

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