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長年教師として子供たちと接してきた児童文化研究家の吉岡たすくさんは、その経験から子供の話を「聞く」ことで本心を探ることができると気付いたそうです。キリギリスが迷子ではないかと心配する少女や、小鳥に秘密を話す男の子など、心温まるエピソードを振り返ります。
7月30日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋では、過去の放送から選りすぐりの回をご紹介しました。
研究のきっかけとなった子供の一言
児童文化研究家の吉岡たすくさんは、1977年の番組スタートから「テレビ寺子屋」に出演。小学校の教師経験を生かしたエピソードで人気を集め、1998年までの間に出演回数は500回を数えました。
吉岡先生の講演をまとめた本「すくすく子育て」の冒頭にはこんな一節があります。
~人間はどんな人からでも、どんなことからでも、学ぶことができるのですね。
私は学校の先生として、子供たちと40年つきあってきました。考えてみますと幼い子供たちからも、ずいぶんといろんな事を学ばせてもらいました。
「先生、僕に分かるように話してね」と言ったケンイチくん。この言葉から、私は今日まで「話の研究」をつづけることになったのです。ケンイチくんのひとことは、私の歩く道を示してくれたものでした。~
話の研究家である吉岡先生。「昔の寺子屋の雰囲気と、その温かな心のつながりをテレビを通して伝えたい」と思いながら公開録画に臨んでいたそうです。
今回は「子供の言葉」をキーワードに吉岡さんの話を振り返ります。
マユちゃんとキリギリス
児童文化研究家・吉岡たすくさん:
マユちゃんがひとりごとを言っているのを時々聞きます。
子供たちが運動場で遊んでいますが、マユちゃんは校舎の横の草むらに一人でいます。何をしているのかなと行ってみると、僕が後ろにいるのに気づかないでしゃべっています。
ひとりごとではなくキリギリスにしゃべっていました。人がいないから、ひとりごとのように見えていたのです。
「キリギリスさん、散歩に来たの?一人で?迷子になったの?困ったね。マユちゃんもあんたのお家どこか分からないわ。一緒に探してあげようか?」と言ったんですね。するとキリギリスがパーッと飛びました。
それを見て「あ、思い出したの?大丈夫かな?早く帰りなさいよ。お母さん心配しているわよ。一人で出て来るんじゃないの。さようなら」と言っていました。
この言葉にはすごくキリギリスへの優しさを感じます。これは単なるひとりごとではないような気がします。
みのるくんの秘密
二学期の途中に、みのるくんという子がお父さんの転勤で大阪に転居してきて、ある幼稚園に入園しました。
「友達できたのかな、先生とうまくいっているかな、泣いてないかな」と、毎日心配していたお母さん。
4日目のこと、みのるくんが元気よく帰ってきて「僕ね、友達できたよ」と言うのです。そして続けて「ただおくんっていう子なんだけど、僕、ただおくんの秘密を聞いちゃった」と言います。
「お母さんにその秘密を聞かせてくれる?」と言うと、「だめ、秘密だから誰にも話さないようにって約束したもの」と、みのるくん。
「そう、聞きたいけど約束だものね、誰にもしゃべったらだめよ」と言うお母さんに「でも母ちゃん、しゃべりたいんだよ。もうしゃべっちゃった」。
「えっ、誰かに話したの?誰に?」と聞くとみのるくんは、「きょう帰りにね。小さな森みたいのがあるでしょ、あそこに椿の花が咲いてるよね。そこに小鳥がとまってたの。人に言ったら約束を破るけれど、小鳥ならいいだろうと思って、小鳥に全部話しちゃった」と言います。
「小鳥聞いてた?」「首振ってた」。「小鳥に話してどうだった?」「すっとした」。
僕は、みのるくんはいい子だなあと思います。
心を表す子供の言葉
「子供の言葉を聞いていると、お世辞も嘘も言わず自分の思ったことをポンと言ってくれますから、言葉を通して心を探ることができます。言葉そのものが心を表します。ですから、子供の話を『聞く』ということを大事にしてほしいのです」と吉岡先生は語ります。
吉岡たすく:大阪で小学校の教諭・校長などを40年以上務める。幼児教育と童話を研究するかたわら執筆活動と全国各地での講演活動を続けた。番組開始当初からレギュラー講師を22年間務め、小学校教師の経験を元に独自の子育て論を展開。1998年に番組を降板し、2000年5月逝去。
※この記事はテレビ静岡で2023年7月30日に放送された「テレビ寺子屋」をもとに作成しています。