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スコールが降るオランウータン舎 円山動物園「ボルネオの森」が伝える“森の危機”【テレビ寺子屋】

動物園の展示方法は進化しています。単に動物の姿や行動を見せるだけでなく、「環境が動物を育んでいる」ことを伝える展示へ。札幌市にある円山動物園の「オランウータンとボルネオの森」はその先駆的な例です。

左)北村花絵アナウンサー 右)小菅正夫さん

テレビ静岡で2025年7月6日に放送されたテレビ寺子屋では、札幌市円山動物園参与の小菅正夫さんが、オランウータンの生態と彼らを取り巻く環境保全の重要性について語りました。

「オランウータンとボルネオの森」とは

札幌市円山動物園 参与・小菅正夫さん:
これまで動物園では、動物の姿を見せる「形態展示」や、動物固有の動きを見せる「行動展示」を行ってきました。

でも、野生動物というのは特定の自然環境の中で暮らしているわけですから、姿や行動だけ見えても「環境が動物を育んでいる」ことが伝わらない。

そのため動物園には、動物を通して環境も伝えられる展示が必要なんじゃないかと思うようになりました。そこで円山動物園に作ったのが「オランウータンとボルネオの森」という施設で、オスのテイジロウ、メスのレンボー、その子供のレイトの3頭が暮らしています。

3頭のオランウータン

オランウータンの生息地のひとつであるボルネオ島は、赤道直下にある世界で3番目に大きな島で、「生物多様性の宝庫」と言われ、多種多様な動植物が生息しています。

熱帯雨林気候で、多くの動物を支える植物は1万5000種を超えます。この環境を再現しようというのが「オランウータンとボルネオの森」です。

ボルネオの森

まず、館内にはガラス張りの天井から太陽光がどんどん入ってきて、たくさんの植物が育っています。

とにかく植物が多いのですが、「森」という環境をつくる理由のほかに、植物がちゃんと生きていることで、オランウータンにとって良い環境が維持できているかどうかの基準にもなっています。

1日数回降り注ぐスコール

次に、冷暖房を工夫することで環境の多様性を作り、居心地の良い場所をオランウータン自身が選べるようにしました。こういった環境をつくるのに、ただお金をかければよいというものではなく、今の時代はエネルギーも大切です。

外気を直接取り込まず、地中に埋めたパイプを通すことで、夏は冷やしてから、冬は温めてから館内に取り込み、さらに断熱材を使用することで電力の消費を抑えて省エネ対策に取り組んでいます。

そして、温度だけでなく湿度もとても重要です。ボルネオのような高い湿度を維持するために、館内には1日数回スコールが降ります。

館内にスコールを降らせる

お客さんの通る道にも降るから、子供が走り回ったりして、これを目当てに来る人もけっこういるんですよ。

「森のヒト」が生きられる環境を守る

また、オランウータンは基本的に樹の上で暮らしているので、さまざまな活動ができるよう、移動しやすい細い木や、編み込みのロープ、消防署で廃棄されたホースなどを用意しました。

遊具で遊ぶオランウータン

子供のレイトは、地面に降りたのを見たことがないくらい、空中で生活しています。

「森のヒト」という意味のオランウータンは、いま絶滅の危機にあって、生息数は100年前と比べると20%ほどにまでに減ってしまっています。

人間の経済活動により生息地の森が減少しているのも理由のひとつです。

人は寒ければ暖房を付けたりして心地よい環境を作り出せますが、動物はその環境の中でしか生きられません。

豊かな森という環境があれば、オランウータンは自由に動いて心地よく暮らしていけるわけです。やっぱり森をしっかりと残していくのが重要だなと思いますね。

テレビ寺子屋で講義を行う小菅正夫さん

小菅正夫:1948年北海道生まれ。北海道大学獣医学部卒業後、旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。飼育係長、副園長を経て、1995年園長に就任。現在は札幌市環境局参与円山動物園担当。

※この記事は2025年7月6日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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