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動物園の主役の一つであるゾウ。北海道の旭山動物園を「行動展示」などで一躍有名にした元園長で獣医師の小菅正夫さんが、円山動物園で成功したゾウの繁殖の舞台裏を語りました。人間の子供たちのように、子ゾウも大人たちを一つにする本能を持っているそうです。

テレビ静岡で6月22日に放送されたテレビ寺子屋では、札幌市円山動物園参与の小菅正夫さんが、円山動物園で実現したアジアゾウの出産と成長について語りました。
ミャンマーから来た4頭の象たち
札幌市円山動物園 参与・小菅正夫さん:
動物園を代表する生き物のひとつに「ゾウ」がいると思います。私は旭山動物園を定年退職後、ゾウのことをもっと学びたいと思い、スマトラ島で専門家に弟子入りしていろいろ教わりました。その知識がいま円山動物園でとても役に立っています。
2018年、ミャンマーと日本の国際交流が始まって60周年の記念に、円山動物園にアジアゾウを迎えることが決まりました。繁殖のことを考えると、相性の良い群れであることが重要です。

さらに人との関係が良いことが大切なので、円山動物園の職員と飼育員も一緒にミャンマーへ行き、群れのリーダーで最年長のメス「シュティン」とその娘の「ニャイン」、若いメスの「パール」、そしてオスの「シーシュ」の4頭に決まりました。
新しく建てたゾウ舎には、ゾウが泳げる深さ3mのプール、地面は深さ1mの砂、餌は上から吊るなど、自然の中で過ごすのと変わらない生活が送れるよう工夫しました。
また、新しい飼育方法も取り入れました。基本的には象と同じ空間に入らず、柵越しにケアしながら飼育する。これを「準間接飼育」と言い、象にとっても人にとっても安全で良い飼育方法だと、今は評価されています。

不安と希望が交錯した出産の瞬間
2022年の春頃、パールの妊娠が分かりました。準間接飼育での出産は日本では初めてのことで、すぐに赤ちゃんを助けに入れないなど、不安要素がいくつもありましたが、みんなで話し合った結果「この出産はうまくいくか分からないけれど、若いニャインに見せることで次につなげよう」と決めました。

2023年8月19日、夜10時頃に陣痛が始まりました。出産まで数時間かかると思っていたら、なんと30分位で産まれました。
パールは本当に冷静で、出産後すぐに羊水で濡れている赤ちゃんに砂をかけ、そしてポンっと軽く蹴ります。1mぐらいコロコロと転がるけれど、地面が砂だから怪我もなく、何回かやっているうちに10分ほどで赤ちゃんが自分で立ち上がりました。パールは初産でしたが、完璧なお母さんでした。

赤ちゃん「タオ」が紡ぐ仲間の輪
赤ちゃんは「タオ」と名付けられました。生後2カ月頃から他のゾウと一緒にしたところ、バラバラに過ごしていた大人のゾウが、タオに誘われて集まっていきます。
要するに、タオが群れをつくっている。大人が子供を守るために群れをつくるのだと思っていましたが、子供に備わった本能的なもので「自分を守らせる群れ」を子供がつくるんです。

人のグループでも赤ちゃんがいたら、大人が笑顔になったり協力し合ったりしますよね。そういう力を持っているのが子供だと思います。
日本の動物園のゾウを大切に育てることで、それがミャンマーのゾウ、ひいてはアジアゾウ全体の保全になっていくことが私の願いです。

小菅正夫:1948年北海道生まれ。北海道大学獣医学部卒業後、旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。飼育係長、副園長を経て、1995年園長に就任。現在は札幌市環境局参与円山動物園担当。
※この記事は2025年6月22日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています
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