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「1合目よりは少し進んだ」川勝知事がリニア問題の“現在地”に言及 再びルート変更を示唆?発言の真意は

2027年の品川・名古屋間の開業が絶望的となっているリニア中央新幹線。工事に当たっては様々な問題が露見しているが、とりわけ静岡工区は工事すら始まっていない。静岡県が水資源や生物への影響を懸念しているためだ。

突然の怒り 議論がこう着して丸6年

南アルプスの山々

「水問題に関して具体的な対応なく、静岡県民に誠意を示す姿勢が無いことに対して心から憤っている」

2017年10月10日。すべての始まりは川勝平太 知事による、この一言だった。

県内で工事を始めるに当たって必要なJR東海・県・利水団体との協定締結が間近と見られていた中で突如として怒りを爆発させた。

あれからちょうど6年。静岡工区の工事は今も着工していない。

静岡県が問題視したのはトンネル工事に伴う大井川の水資源への影響と南アルプスに生息する動植物への影響だ。

この間、県がJRに求めたトンネル湧水の戻し方や突発湧水への対応など、いわゆる“47項目”に関する議論がこう着したため、仲介に入った国土交通省の提案によって有識者会議が設置された。水に関する議論は2020年4月から全13回の会議を経て「トンネル湧水量の全量を大井川に戻すことで中下流域の河川流量は維持される」などといった報告書が出され、生物に関する議論も9月26日に開かれた会議で報告書案が示されている。ただ、県は「まだまだ気になっている部分がある」と反発し、「課題を積み残したままで『案』が取れることはないと考えている」と、“拙速”な議論の取りまとめにならないよう牽制した。

2年半で議論は進展するも…

定例会見に臨む川勝知事(10月10日)

こうした中、川勝知事は“奇しくも”6年前と同じ10月10日に行われた定例記者会見で「県が求めていることは、基本的には(生物への影響について)回避・提言を適切に評価するために、必要な生態系への影響予測評価をしっかりと行って、県民が安心できるレベルの報告書をまとめてもらうこと」と改めてクギを刺した。

その上で、有識者会議が始まって以降の2年半について「状況は変化しているという印象を持っている。議論が着実に前に進んでいると受け止めている」と評したものの「引き続き対話を要する事項として県が示した47項目、これはすべて議論するというのが当時の鉄道局長と合意したこと。そうしたことから見ると(全体の)1合目よりは少し進んだという感じ。まだ47項目の本当に入り口という感じを持っている」と私見を述べた。

ここで出席した記者たちには1つの疑問が浮かぶ。それは川勝知事が4選を果たした2021年6月の選挙戦で、リニア問題について「今任期中に解決を目指す」ことをたびたび口にしていたからだ。しかし、任期も折り返しを過ぎた中、現時点で議論が“1合目の少し先”であるならば、“登頂”など夢のまた夢。

この点について突かれた川勝知事は「意思決定者が今の事態をどのように考えているか。国策である南アルプスの自然環境の保全、国家的な責務である、あるいは国際的な責務であるユネスコのエコパークを保全するというのは、文字通り国家が関与していること。これと民間会社がやっている経営の自由・投資の自主性という、その自由をどう両立させるかという“ボールはJR東海にある”」とし、「決して私たちが遅らせているのではない。ですから、民間企業の決定の自主性を明確に出してほしい」と要望した。

再びルート変更に言及?

この発言に記者たちはさらに困惑する。なぜなら、この発言はかつて川勝知事が主張していた“ルート変更”や“山梨・品川間の部分開業”を匂わせるものだからだ。ただ、2022年に静岡県がリニアの建設促進期成同盟会に加盟した際、知事は「現行ルートでの整備を前提とする」ことなどを各会員に約束し、入会を認められたという経緯がある。このため、発言の真意を問われた川勝知事だったが「本当に必要なのはリーダーシップ。従来決めたことをそのまま脇目もふらず邁進して、場合によっては前に崖があることを知らずに突き進んでいって、崖下に落ちてはならない」と持論を展開しつつ、回答を避けた。

一方で、この会見では「私がJR東海の意思決定者であれば、現在の川勝と膝を突き合わせて話して、その場で解決策を出せる自信がある」とも語った川勝知事。

リニア問題に関する真意とゴールはどこにあるのか。その答えは今のところ知事本人以外、誰にも見えていない。

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