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198cmの長身から投げ下ろすストレートを武器に、創部初の甲子園出場を目指す高校生エースが静岡県にいる。2024年の春の時点で最速152kmの直球に磨きをかけ、「夏までに158kmにしたい」と意気込む。彼には日本のプロ野球はもちろん、メジャーの球団も関心を示している。
規格外の高さ ストレートが武器
2024年3月、静岡県大会出場をかけた県予選2回戦で御殿場西高校と対戦した知徳高校。
球場中の視線がマウンドに集まっていた。
知徳のエース・小船翼 投手は三者連続の三振と抜群の立ち上がりを見せれば、最後の打者も見逃しの三振。18奪三振の完投勝利をあげ知徳高校は県大会進出を決めた。
試合後のインタビューで小船投手は「自分の魅力は真っすぐなので、真っすぐでどんどん押せるピッチングをしていきたい」と話した。
小船投手は身長198cm。大谷翔平選手の193cmやダルビッシュ有選手の196cmよりも高い。規格外の高さから振り下ろされる角度の付いたストレートは最速152kmだ。
その身体的な才能をめぐる噂は瞬く間に全国に広がり、プロ12球団はもちろん、海を越えアメリカのメジャーリーグ2球団からも調査が入るなど大きな注目を集めている。
小船投手は「春に155km、夏に158kmくらいいきたい。プロ野球で活躍できるような投手になりたい」と目標を語る。
大きな体に柔軟性も兼ね備え
そんな彼は生まれた時からビッグだった。出生時の体重は4692gと既にビッグベイビー。
その後も順調に成長を続け、小学校で170cm、中学生で190cm、そして高校生の現在は198cmと成長を続けている。足のサイズも32cmだ。
野球を始めたのは5歳の頃で、同じ高校に通っていた6歳上の兄の影響だそうだ。
ただ、決して体格の大きさだけが強みではない。それが柔軟性だ。
2023年12月からヨガに取り組み、しなやかな投球フォームにつながるようトレーニングを積んできた。呼吸法も見直し、大きな体をムダなく使えるよう、自らの身体と向き合ってきた。
小船選手は「大きい筋肉だけでなく、体全体の細かい筋肉まで使っているなという感覚。(県予選の)御殿場西戦のときは体力的にはそんなに疲れてはいなかった」とヨガの効果を実感している。
野球ノートで内面も成長
身体と向き合うと同時に内面と向き合うことで成長を続けてきた。
4月2日の練習試合。相手は春夏5回の甲子園優勝を誇る東海大相模。全国屈指の強豪に対して、小船投手は3回まで無失点の好投を見せた。
ところが、その後味方のエラーもあって大量失点。入りが良かっただけに悔いが残る敗戦となった。
小船選手は「思う部分はいろいろありますけど、そう(感情的に)なってもしょうがないので。次につなげることが練習試合なので」と話していた。
後日、彼は野球ノートに「歴史を作る」という題名の後、細かな字でびっしりと反省点や目標などを書き込んだ。
「東海大相模戦もそうです。エラーの後を抑えられるピッチャーになりたい」
小船選手に野球のどこに魅力を感じるのか尋ねると、「完璧がないから。完璧に抑えることも打つこともできない。だから頑張ることもできる」と返ってきた。
エースとチームメートの絆
熱い思いを秘めながら、冷静に自分を見つめて練習に取り組む小船選手。それは、チームメートにも伝わっていた。
知徳高校・初鹿文彦 監督:
小船の姿を見て、周りも「負けていられないぞ」と。チームの中でも「絶対に小船をプロに行かせるんだ、活躍させるんだ」と(いう思いがあり)、小船は「皆を甲子園に連れて行くぞ」と
小船選手は神奈川出身で、チームメートと寮で共同生活を送っている。寝食を共にし、お互いを深く理解してきたからこそ信頼関係が築かれた。
チームメートは「普段はゆったりしているマイペース」「マウンドでの姿は高1の時と変わった。(以前は)おどおどしていた感じだけど、今はエースの感じがすごい」と話す。
エースはチームのために、チームはエースのために。
そこには「甲子園出場」と「プロ野球選手の誕生」という、知徳高校 創部初のビッグな夢を叶える思いが込められている。
知徳高校3年・小船翼 投手:
チームとしては夏の甲子園に出られるように。その目標に向けて自分としてはチームを勝たせる投球ができたら
そして、4月21日。県大会の初戦となる2回戦・浜松城北工との一戦では14奪三振の好投を見せ完封勝利。球速も自己最速となる152kmを記録し、2015年夏に日大三島時代の小澤怜史 投手(現ヤクルト)が記録した県内公式戦最速記録に並んだ。
3回戦で2023年夏・準優勝の東海大静岡翔洋に敗れたものの、チームとしては6年ぶりに夏のシード権を獲得している。
小船投手は、新たなる歴史を刻む1年へ飛躍を誓う。