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発がん性が指摘されている化学物質PFOAを長年扱ってきた工場の元従業員の血液から高濃度のPFOAが検出された。元従業員は退職後に舌がんを発症したがPFOAとの関係は不明だ。元従業員は「自己責任と言わないでちゃんと見てもらいたい」「誠意ある対応を求めたい」と工場に注文をつける。
PFOAの危険性を指摘した弁護士
PFOAは有機フッ素化合物PFASの一種で、水や油をはじき熱に強いためフライパンのコーティング加工や食品パッケージなどに使われた。現在、日本では製造や輸入が禁止されている。
WHO(世界保健機関)のがん研究機関は2023年12月、PFOAを「発がん性がある」とした。
PFOAは1990年代末にアメリカの化学メーカー「デュポン社」の工場周辺で住民の健康被害や家畜への異常が出たことから注目され始めた。
住民がデュポンを相手取って裁判を起こした。
集団訴訟の住民側の弁護人を務めたロバート・ビロット弁護士は、その経緯を著書「毒の水~PFAS汚染に立ち向かったある弁護士の20年」(訳 旦祐介氏・花伝社)に記し映画にもなった。
裁判の中で住民7万人を対象にした疫学調査が行われ、大学教授などで組織する科学委員会が6つの病気についてPFOAとの関連を認めた。腎臓がん・精巣がん・妊娠高血圧症候群・甲状腺疾患・血液中のコレステロール上昇・潰瘍性大腸炎の6つだ。
裁判では、こうした病気にかかった人など3500人余りが健康被害を認定され、2017年デュポンは6億7070万ドルの賠償金を支払うことで和解した。
著書では腎臓がんと診断された59歳の女性(2015年の裁判当時)が、160万ドルの賠償を認められたことが記されている。17年間、PFOAに汚染された水を飲んだ彼女のPFOA血中濃度は19.5ppb(19.5ng/ml)だったという。
元従業員の血液から平均値20倍超
そのデュポンと関連がある化学工場が静岡市清水区にある。「三井・ケマーズフロロプロダクツ」だ。
以前の社名は「三井・デュポンフロロケミカル」で、2018年に現在の社名「三井・ケマーズフロロプロダクツ」に変更した。50%を出資するケマーズは、デュポンがテフロン部門を切り離して作った会社だ。
PFOAは1965年から2013年まで48年間扱ってきた。
2024年2月、会社は元従業員などを対象に血液検査を実施した。
約30年間にわたりPFOAを扱っていた元従業員の男性は、血漿中の濃度が約48ng/ml だった。
PFOAに関しては環境省が血中濃度の全国調査をしていて、2022年の調査の全国の平均値は2.0ng/mlだ(対象89人、血漿中濃度)。元従業員の血中濃度は全国平均値の20倍以上。
PFOAの毒性に関する研究が進んでいるアメリカの学術機関が「健康リスクがある」とする指標値20ng/mlと比べても約2.5倍にあたる。
退職後40年経っても高濃度
元従業員の鈴木さん(77)も、血液の血漿から29.7ng/mlのPFOAが検出された。日本の全国平均値の約15倍で、アメリカの学術機関が「健康リスクがある」とする指標値20ngも上回る。
鈴木さんは高校卒業後に入社してから13年間PFOAを扱う作業をしていた。フライパンのテフロン加工で知られる「テフロン」と呼ばれるフッ素樹脂を製造する仕事をしていて、PFOAはその材料だった。
上司から危険性についての話はなく、手袋や防塵マスクをせず、素手で粉状のPFOAを扱っていたという。
鈴木さんは30歳代に退職してから40年あまりたった今回の調査で高濃度が検出されたことについて、「一時期 長年使っていて、(その仕事を)離れていたとしてもまだ体に残っているということは、1つの資料として大事だと思う」と話す。
PFOAは体内や自然界で分解されにくく残り続けることから「永遠の化学物質」とも言われている。
「会社はちゃんとみてもらいたい」
鈴木さんは2021年に舌がんとわかったが、PFOAとの因果関係がわからず不安は残ったままだという。
元従業員・鈴木さん:
因果関係がないのが苦しいですけど、ただ検査して数値が出てきて自分の数値が高いのか低いのか、危ないのか危なくないのかわからないまま終わってしまうのでは何の意味もない。(がんが)PFOAの関係で起きているのか、個人の生活の乱れできているのか、体質的な問題なのかもわからないので、それは会社として、自己責任だと言わないでちゃんと見てもらいたい
鈴木さんによるとPFOAを扱わない職場にいた元同僚の血中濃度は10ng/ml未満だったそうで、「PFOAを扱う、扱わないで血中濃度に違いがあるのか知りたい」と話す。
鈴木さんは三井・ケマーズフロロプロダクツに対し毎年検査を実施することや元従業員のそれぞれの血液検査の結果と業務内容との関連を分析して公表するなど、「誠意ある対応を求めたい」としている。
使用やめて10年 今も残る影響
清水工場では約10年前にPFOAの使用をやめたが、50年近く使ってきた影響は今も周辺に残っている。
2023年の静岡市の調査では、工場に隣接する市営雨水ポンプ場の海への排水から国の暫定目標値の220倍の濃度が検出されたほか、周辺の水路で54倍、井戸で26倍の高濃度が検出された。
静岡市と三井・ケマーズフロロプロダクツは雨水ポンプ場に浄化装置を設置したほか、市は周辺の井戸水を飲用に使わないよう住民に呼びかけている。
また、工場では地下水が外に流出しないよう周辺との敷地境界への遮水壁の設置を検討している。
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