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「お父さんではなく戦友」登山で育まれた親子の絆と人間力 【テレビ寺子屋】

娘との初登山で地吹雪に見舞われた登山家の野口健さんは、弱気の娘に「していい無理」と「してはいけない無理」について説きました。内気だった娘が父親を戦友と呼ぶのは、強い絆が築かれたからでした。

テレビ静岡で3月17日に放送された「テレビ寺子屋」では登山家の野口健さんが、娘との登山を通して変化した親子の関係性について語りました。

過酷だった娘との初登山

登山家・野口健さん:
僕には絵子という娘がいます。彼女が小学校3年生くらいの時、初めての登山で冬の八ヶ岳に連れて行きました。麓の民宿に宿泊し翌朝出ようとするとすごく吹雪いていて、登山口で気温が氷点下17度。山頂まで行くのは無理だと思いましたが、出発してすぐの樹林帯を抜けると山小屋があるので、そこまで行こうと決めました。

そのことは娘には内緒にして地吹雪の中を登っていくと、「指が痛い」と訴えます。「痛いと感じるのは神経が生きているからだ。痛いのはオッケーだよ」と言うと、途中からは僕に言うのはあきらめ、神様に祈り始めました。

「お父さんは40年も生きている。でも絵子にはあしたが来ないかも、今夜も来ないかも」などと言ってメソメソ泣いています。

「していい無理」と「してはいけない無理」

なんとか樹林帯を抜けて山小屋に着き、娘に「今日はここまで」と言うと、「どうして?」と聞いてきます。

「『無理』という言葉があるよね。お父さんの中では『8の字』のように見える。下の丸はしていい無理で、その上にはしてはいけない無理がある。何かを成し遂げるためには、最大限無理しないと結果は出ないけれど、してはいけない無理の世界に入ると、山では死ぬのは簡単だから、今日はもう下りるんだ」と言っても、当時は小学生ですからよくわからないですよね。「ああ、生きて帰れる」と喜んでいました。

父親から戦友へ

「これはもう山に行きたいと言わないだろうな」と思っていたのですが、娘は登りたいと言ったので、そこからトレーニングを積みながら一緒にいろんな山に登り続けています。

彼女が小さい時は内気であまりしゃべらず、僕が帰るとすぐに母親の後ろに隠れるような子だったのですが、あるとき僕のことを「もうお父さんではなくて、『戦友』になった」と言ったのです。

「今まではお父さんは私のことを助けてきたけど、これからは私がお父さんを助ける側にきっと回る」と。偉そうですが、ただ、お互い1本のロープで命を賭けているというところで「戦友」という意識をもつわけです。

父親と年頃の娘の関係は、なかなか難しいと聞きますが、娘が包み隠さず自分の弱みも全部話すので、「実は僕もこんなことで最近落ち込んでいて」というようなことをお互いにすごくしゃべります。

登山で養われる人間力

どこまでがしていい無理、どこから先がしてはいけない無理かというのは、どの世界でも人生でも当てはまる話だと思うのですが、山はそこを突きつけられます。娘にはピタッと感性に響いたんだと思うんです。

山登りは、自己判断力や、生き抜く力、人間として生きていくための力を本当に養えます。

「おそらく何年か後には一緒にエベレストに登っていることになっているのだろうな」などと想像しつつ、これからも娘と共に冒険をしていきたいと思っています。

野口健:1973年アメリカ生まれ。1999年エベレスト登頂に成功し、7大陸最高峰世界最年少登頂記録を25歳で樹立。近年は、ヒマラヤや富士山の清掃活動に加え、被災地支援などの社会貢献活動を行っている。

※この記事は3月17日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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