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静岡県の川勝平太 知事は新年を迎えるにあたり単独インタビューに応じた。知事の政治姿勢をめぐり県議会との溝が深まっているが、最大会派について「野党」「異常」と評するなど2024年も波乱含みの様相を呈している。
すべての始まりは“コシヒカリ”発言
2023年ほど県議会が空転した年も珍しいのではないだろうか。
7月12日。この日はこれまでの静岡県議会の歴史の中で“最も長い”1日となった。川勝知事に対する不信任決議案が提出されたからだ。知事に不信任案が突きつけられるのは県政史上50年ぶりの出来事だった。
なぜこのような事態に至ったかと言えば、すべては川勝知事の言動に端を発する。
2021年11月。非自民系候補の選挙応援で、御殿場市について「あちらはコシヒカリしかない」「あちらは観光しかありません」などと暴言を吐いた川勝知事に対して、県議会は「本県の特定地域を差別し辱め、本県を分断するような発言により県民の心を深く傷つけた」として辞職を勧告した。
辞職勧告決議を受け、川勝知事は「全力で職責を全うする」と述べた上で「自らにペナルティを科すと考えるわけですが、差し当たって年末の手当・ボーナスとか12月の俸給は全額、
県民の皆様にお返しする、返上する」と宣言。
ところが2023年7月になっても“約束”が実行されていないことが明るみになり、県議会、特に最大会派の自民改革会議が問題視した。
しかし、川勝知事は「給与を返上するための条例案を提案したいとの思いは変わっていない」と釈明し、さらに県議会の総務委員会でこの問題を指摘する意見があったことに触れ「条例案を審議いただける環境に変わったと認識した」と持論を展開。
議会に責任を転嫁するかのような言い分に我慢ならなかった自民改革会議は何度も協議を重ね、最終的に不信任決議案の提出を決意する。
結果的には可決ラインに「1」届かず否決されたが、川勝知事と歩調を合わせる第2会派・ふじのくに県民クラブを除く50人が賛成票を投じ、午前10時半に始まった本会議が閉じられた時には時計の針は深夜1時前を指していた。
発端は常に川勝知事の言動や態度
“薄氷”の否決となったことを受け、その後は「議会とのコミュニケーションを密にする」とたびたび口にするようになった川勝知事。
「だが」である。10月には、経済界との懇談の場で知事肝いりの東アジア文化都市事業に関連して「三島に東アジア文化都市の発展的継承センターを置く」「国の土地を譲ってもらおうと詰めの段階に入っている」などと発言していたことが発覚。
これは県議会に諮っていない案件で、また事業化も予算化もされていなかったため、10月13日の本会議で川勝知事に対する緊急質問が行われることになり、午前中に終わるはずだった審議を終えたのは午後7時半頃だった。
さらに、県議会・総務委員会は川勝知事の発言内容について調査した結果、「不用意であることが明らかになった」と前置きした上で「何も決まっていないことを『詰めの段階』などとする発言が県議会や県当局はもとより、関係する多方面に混乱をもたらしたことは事実」として、発言の速やかな訂正と今後は軽率・不用意な発言を慎むよう申し入れたが、知事はこれを拒否した。
このため12月6日の本会議では自民改革会議が主導し、県議全員の連名で川勝知事に発言の訂正を求める決議案を提出。全会一致で可決するに至った。
こうしてわずか半年の間に起きた出来事を列挙してみると、常に川勝知事の言動や態度が発端となっていることがわかる。
問われる言動の重さとトップの自覚
にもかかわらず、当の本人にはあまりその自覚は無いようだ。それどころか、新年を迎えるにあたり応じた単独インタビューでは、自民改革会議との対立を煽るかのような発言も飛び出した。
川勝知事はまず自民改革会議について「野党」と評し、「数の力で『川勝を弾劾する』というのは続いている。野党とはいえ40人弱(正しくは41人)いますから」と私見を披露。
そして「一種の異常な事態。政局を意識して、すべてそちらに持っていく。こういう不健全なものは県民のためにならない」と、まるで“自民改革会議が悪い”と言わんばかりに気色ばみ、「ですから機会あるごとにコミュニケーションを図る。一応、県民の代表ということなので会見(面会)を拒否することはしないと思う。信頼関係が出来ている人もいる」と自信をのぞかせた。
足元を見れば長引く円安や物価高に苦しむ県民は多い。
だからこそ、県民がいま望んでいることは川勝知事の不適切な発言をめぐる枝葉末節な議論ではなく、経済対策をはじめとした“真っ当”な政策論争のはずだ。
2023年12月に前述の通り川勝知事への発言訂正が決議された際、中沢公彦 議長は「6月・9月・12月と毎議会のごとく問題を起こしていることは大変遺憾で厳しく申し入れます」と知事に直接決議文を手渡す“異例”の対応を取ったが、知事に己の“言動”が県議会の停滞を招いているという自覚がないのだとすれば、2024年も同様の問題が繰り返されてしまうことが危惧される。
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