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日本野球機構(NPB)は9月29日に開いたオーナー会議で、静岡市を本拠地とするプロ野球の2軍チームの新規参入を承認した。日本のプロ野球においてチーム数が増えるのは実に66年ぶりの出来事だ。
66年ぶりにプロ野球チームが増加へ
9月29日。NPBのオーナー会議は、清水庵原球場(静岡市清水区)を本拠地とし、都内で企業支援などを手掛けるハヤテグループの子会社・ハヤテ223(ふじさん)が運営を担う球団が、来シーズンからウエスタン・リーグに参入することを承認した。監督や選手の確保といった課題はあるものの、オーナー会議の後藤高志 議長は「すそ野が拡大し、地域が発展していくことについては私も大変期待している」と述べた。
新球団の誕生はハヤテグループにとって悲願であることは言うまでもないが、本拠地となる静岡市にとっても“10年来の夢”だ。
10年余りの努力が結実した静岡市
その始まりは田辺信宏 前市長が初当選した時に掲げた“球団誘致構想”で、そこには「プロスポーツを街づくりのための心の公共財として活用し、地元チームを持つ喜びやほこりを、子供たちの郷土を愛する心を育むことにつなげたい」という思いがあったという。
それから10年あまり、静岡市は有識者との勉強会やNPBとの人脈構築を重ねてきた。すると2022年11月、静岡市にとって千載一遇のチャンスが舞い込む。NPBがファーム・リーグの拡大構想を打ち出し、新球団を公募すると発表したのだ。
その後、ハヤテグループが正式に参入意思を表明。2023年4月には球団の運営会社・ハヤテ223を設立するとともに、静岡市も「プロ野球球団創設推進室」を組織し、スポーツの推進を軸に地元の農産物のPRや子供たちへの教育などを行う包括連携協定を締結。
7月には「試合日の周辺道路の混雑について住民の理解を協力して得ていくこと」や「静岡市以外の球場で試合をする場合は、開催地の自治体も運営に携わること」などを盛り込んだ連携協定が静岡県も含めた三者の間で結ばれ、ハヤテ223の杉原行洋 社長は「静岡市民を大切にしつつ、浜松もそう。東は熱海から西は湖西まで、オール静岡で県民に愛されるような球団を目指していきたい」と意気込んだ。
この自治体との結びつきの強さというのは、オーナー会議で評価されたポイントの1つでもある。
参入内定も課題は山積 首脳陣は人選中
参入内定を受け、10月2日に会見を開いた杉原社長は「これは始まりに過ぎないというか始まってすらいない」と破顔することなく「これから地に足つけて頑張っていきたい」と口にした。掲げたキーワードは“新しい挑戦”で、「例えば元選手でなくともデータ分析に強いとか、あるいは他のスポーツで多大な功績をあげているとか、そういった人にも願わくば興味を持ってもらい、まったく新しい角度での挑戦が出来たらと思っている」という。
現在は監督やコーチなどの人選を進めているほか、11月初旬には球団独自のトライアウトを実施して選手を獲得する方針だが、「若者でもう一度NPBに挑戦したい、あるいはドラフトにかからなかったものの野球で食べていきたいという若者が集まる場にして、その選手たちが『静岡で育って巣立つ』というNPBに人材を輩出することで野球振興に貢献したい」とする一方、「リーグに参加する以上、勝敗にも徹底的にこだわっていきたい。圧倒的に負け試合ばかりではファンもガッカリするし、リーグのレベルが均衡しないと人材の育成に当たらないということで、バランスが非常に難しい」と本音をこぼし、この点については首脳陣が固まった中で協議し、「リーグにとっても意味がある。静岡県にとっても意味がある。若者にとっても意味がある球団を作っていく」と話した。
また、“NPBに参加”といっても1軍と2軍とでは観客動員数に天と地ほどの差があるのは紛れもない事実で、杉原社長自身も認識しているが「我々が参加するのはファーム・リーグであり、いわゆるセ・リーグ、パ・リーグの華やかな興業が打てるか、まだわからない。ただ、静岡県にとってはセ・リーグ、パ・リーグもなければ、イースタンでもウエスタンでもない、正確には1軍・2軍ではなく『唯一無二の職業球団』になることを掲げているので、カテゴリーを問わず野球ファンに足を運んでもらえたらきっと経営も安定すると思うし、実際そうやって球団の存在意義を出していきたい」と述べ、スポンサーの獲得についても「汗をかいて、靴をすり減らして、必死に回りたい」と前向きだ。
NPBには数年で球団単体としての損益分岐を目指すと伝えていて、「球団が独自に経済的に自立していけるようなモデルを作りたいし、作らないといけないと思っている。それまでの資金はハヤテグループが全面的にバックアップして走る」という。
球団が示した3つのキーコンセプト
ハヤテ223はホームページに新球団のキーコンセプトとして、以下の3つを示している。
▼挑戦:全員が夢や目標に挑戦し、2つと無いそれぞれの人生を生きる
▼育成:夢を追いかける若者とそれを導く指導者が挑戦し、学び、育つ場となる
▼推し:ファンの皆様に、選手と球団の挑戦を後押しする喜びを感じて頂く
今後、球団名やチームロゴなどが発表される予定だが、一体どんなチームが誕生するのか。静岡県初のプロ野球チームに、野球関係者のみならず、市民・県民も注目している。
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