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人と話をしていてもいまいち言葉が伝わっていない、という経験はありませんか。そんな時は、古典の力を借りてみるのがおすすめです。
9月24日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋では、明治大学文学部教授で「声に出して読みたい日本語」などの著書でも有名な齋藤孝さんが、「話が深い人」になれる方法を語りました。
「すこぶる良い」と言える小学生
明治大学文学部教授・齋藤孝さん:
「話が浅いですね」と言われたらイヤですよね。そもそも「話が浅い」とは何なのだろうと考えると、話が本質に届いていないのです。話をしていたら、すべってすべって結局何だったのか分からないというのが、一つ話が浅い人の特徴です。
それから、その話だけで終わってしまい展開していかない、それも問題です。「展開力」と「本質力」が欲しいわけです。
本を読むというのは、一番簡単に話が深くなる手段です。例えば夏目漱石を読んでいると、漱石の語彙(ごい)が乗り移ってきます。
以前、小学生に「坊っちゃん」をすべて音読してもらいました。6時間かけて終わったときに、子供たちが「すこぶる良かった」、「甚だ面白かった」と感想を言うんです。もうこれだけで知性が感じられます。こんな言葉を使う小学生はいないわけです。「お、どうした?」と聞きたくなりますよね。
漱石の語彙が入るだけで、その言葉が話を深くするというところがあります。きちんとした人格の人が書いた本というのが重要です。語彙が増えてくると、話全体が整ってきます。
言葉はみんなのものです。読んでいる本が深ければ、自然と話は深くなります。ちょっと古典を引用してみるのがいいと思います。
「古典力」で言葉を深めよう
例えば部活で指導していて、途中であきらめてしまいそうになった子供がいるとして、「あきらめないで頑張ってね」と言うのはいいんです。でも一般的な言葉すぎて寂しいですよね。
そこで、「今、女(なんじ)は画(かぎ)れり」と言ったとします。「え、何のことですか?」となりますよね。「いま、君は自分で自分の限界を区切っちゃったんだよ」。
この出典は「論語」、孔子の言葉です。「先生の言っていることは分かりますけど、なかなか実行するのは難しいです」と弟子が言うと、先生(孔子)が「今、女は画れり」と言いました。「本気だったら途中で倒れるはずなんだ、でもお前は倒れていない。まだ全力を出し切ってないじゃないか」というわけです。ただ「がんばれよ」と声をかけるよりは話が深くなります。
この「古典力」というのはとても重要なものなので、ぜひみなさんは身に付けていただきたい。古典から引用する「引用力」でもあります。
自分の経験を加える
古典から引用する力を持てば、かなり話が深くなります。ただ、それだけだと、「教養はあるけど、なんかうるさそうな人だな」となってしまいます。そこで、自分や周りの人のエピソードをくっつけてみましょう。
これまでの人生で得た知恵や、自分が経験した出来事という視点から物事を見ると、自然と深くなるのです。その人の意見は生きたものになります。
右から左に知識を流していくだけではなくて、1回自分の経験に落とし込む、どんなことでも自分に引き付けて話す練習をするというのは大事です。とりあえず、自分のエピソードをくっつけるのです。
実は「話が浅い」というのは、「話が深い」ということを目標にトレーニングしていなかっただけなのだと思います。ぜひ、深い話ができるようトレーニングしてみてください。
齋藤孝:1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大学院教育学研究科博士課程等を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。「声に出して読みたい日本語」ほか、著書多数。
※この記事は9月24日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。