
静岡市で前市長の大号令により動き出した海洋・地球総合ミュージアム構想。清水の地に新たな“海の拠点”を造るという壮大な計画だったが、表明から9年が経ち、いま幻のものとなりかけている。
3月31日。
静岡市の難波喬司 市長は、同市清水区に建設を予定している海洋・地球総合ミュージアムについて、現在の計画を白紙にすることを表明した。
業務の継続ができないと判断し、今後は特別目的会社との契約解消に向けた協議を進めていくという。
これにより計画は事実上、振り出しへと戻った。
そもそもの始まりは2017年、清水港に教育や観光、さらには研究機能を兼ね備えた新たな“海の拠点”を作ろうと田辺信宏 前市長の大号令によって動き出した海洋・地球総合ミュージアム構想。
田辺前市長は当時、「世界レベルの海洋研究がここで拓かれ、それに連なる人材を東海大学が育成し、海洋学を目指す多くの若者が静岡を目指してくれることを期待している」と、その意義を強調していた。
ただ、2020年に新型コロナウイルスの感染が拡大すると事態は暗転。
財政のひっ迫に伴い、事業は一時凍結となった。
それでも、その2年後。
田辺前市長は事業の継続を決断すると、5階建ての施設に全国でも有数の規模となる大型水槽を設置した上で、サメや駿河湾に生息する海洋生物を展示する計画を表明。
「ここを訪れるすべての人が学びや驚きを通してつながり、世界中から人が集まる場所にしていきたい」と意気込んだ。
ところが、運営側がアミューズメント要素を押し出すことを望んだため、研究面で力を貸してくれるはずだった東海大学の協力が得られないことに。
さらに、昨今の物価高が直撃し、総事業費は約70億円増える見込みとなった。
こうした中、2026年3月に運営を担う特別目的会社が出したのは「事業の継続は不可能」という答えだ。
これを受け、市も契約の解除へと舵を切ることを決め、難波市長は「物価高騰に対して市も特別目的会社も対処する方法がないということ。市が負担するにも限度額がある。特別目的会社が負担するにも限度額がある。両者どちらも、それ以上増やしようがない」と説明した。
この判断に清水区の住民からは「なんとか早く良い方法を見つけて、実現するといい」といった期待の声や「清水はあまり活気がないので、ああいうのくらいは欲しかった」という嘆きの声が聞かれる。
ただ、同区選出の風間重樹 市議は「本来、どの程度の規模の施設を、どの程度の予算で造るのか、そして目的はしっかりしているのかという議論。また、具体的な施設の内容をしっかり詰めるべきであった」と計画が見切り発車の状態で進められてしまったと指摘し、「『何としても建てたい』『何としても田辺市長(当時)の考えを実現したい』という多少の焦りが(当局に)あったことは否めない」と振り返った。
風間市議自身は清水区に“海洋文化施設”そのものは「必要」との考えを持っているが、内容については吟味が必要との立場で、「アミューズメントよりも教育などに重点を置く施設を、より小規模な形で造っていくことが理にかなっているのではないか」と話す。
海洋・地球総合ミュージアムが建設されるはずだった日の出地区をめぐっては、すぐ隣に体感型動物園iZooを運営するレップジャパンが体験型水族館の開業を目指していて、白輪剛史 社長は「今後さらなる検討をすると聞いているので、どんなものができるのか注視しながら、我々も出来ることがあれば出来る限りの協力をしたい」と市が土地の新たな活用方法を早期に示してくれることに期待を寄せる。
一方で、難波市長が「プロジェクトマネジメントが悪いのではなく、事業構造がどうしても上手くいかない構造を内包している」と嘆息するなど、事あるごとに不満を漏らしてきたのが特別目的会社との契約内容だ。
建設コストが上昇した際に対処する仕組みが盛り込まれていない上、赤字が生じた時に市が損失の一部を負担するロスシェアが設定されていたからで、3月6日の定例会見では「はっきり言うが契約がおかしい。“必ずやらなければいけないわけではない”事業をやる時に、赤字が出たら赤字部分を市がロスシェアするということを契約すること自体がどうかしている」と切り捨てた。
この点について、契約を結んだ当時の田辺前市長に取材を申し込んだが、「答えられない」と今後も含めて一切応じない姿勢を示している。
静岡市は海洋・地球総合ミュージアム構想自体が白紙になったわけではないと強調しているが、市民の生活が厳しさを増す中で本当に施設が必要なのか?
他方、清水区のにぎわい創出を民間に丸投げして良いのか?
市には重い課題が突き付けられている。
