渡部陽一
健やか

「心地のよい情報こそ要注意」戦場カメラマンが語る “情報の力”と“危険性”【テレビ寺子屋】

戦場カメラマン・渡部陽一さんが、現代の戦場における情報の重要性と、フェイクニュースの危険について語ります。「心地の良い情報こそ要注意」という渡部さんのメッセージとは。

左)テレビ静岡・北村花絵アナウンサー 右)戦場カメラマン・渡部陽一さん

テレビ静岡で2025年12月14日に放送されたテレビ寺子屋では、戦場カメラマンの渡部陽一さんが、戦場のSNSとコミュニケーションについて語りました。

現代の戦場と情報の力

戦場カメラマン・渡部陽一さん:
戦場カメラマンとして約33年間、世界中の戦場を自分の目で確認し、そこに暮らす人々の声を聞き、写真を撮り続けてきました。

現代の戦争は、ロボット・AI・人工知能が使用され、戦場の上空には24時間365日、無人機・無人ドローン・無人爆撃機が飛び回っています。もちろん武器や兵力は戦いの土台になりますが、それ以上に「情報を管理した側が、戦争を優位に整え、進めることができる」、これが特徴のひとつと言えます。

イメージ画像 戦争

では、情報の持つ力とはいったいどんなものなのでしょうか?

戦場で兵士たちを支えるSNS

戦場であるウクライナやパレスチナ、ガザなどでもネット環境があり、私たちと同じように携帯電話やパソコンからアプリケーション、SNSを使用しています。そこに暮らす人々だけでなく、取材をする僕たちカメラマン、そして最前線にいる兵士にとっても情報は重要なものです。

渡部陽一さん

例えば、前線で激しい戦闘が終わってキャンプ地に戻ると、兵士たちはテレビ電話をつなげて、故郷にいる両親や子供たち、恋人と話します。そうすると、タフで屈強に見える兵士たちが、突然ボロボロ泣き出したり、もう帰りたいと口にしたり、感情がむき出しになります。

また20歳前後の若い兵士たちは、次の戦場に行くまでのわずかな待機時間でも、自宅にいるようにネットでゲームをしたり、メールをしたりしています。彼らと話をするといまどきの普通の若者で、自分の子供のようだと思ってしまうほどです。

イメージ画像 スマートフォン

情報があるからこそ、戦場にいても自分を保つことができる。また、食料が配給される場所や、避難経路を共有して、安全を確保することができる。

いまや情報は人々にとって、衣・食・住と同じライフラインだと言えます。もう排除することはできないくらい、私たちは情報に支えられ、情報に守られているのです。

フェイクニュースの危険と向き合う

ただ、情報には恐ろしさとリスクも伴います。情報は生き物のようなもので、事実だけではなく、演出たっぷりのフェイクが浸透し、なにが本当かわからない状況になっています。

こんな「情報の海」の中で、無意識のうちに自分にとって「心地のよい情報」に引っ張られていることがあるのです。

渡部陽一さん

僕もカメラマンとして何度もフェイクニュースに騙されそうになりました。例えば戦争が起きたとき、まるで映画のワンシーンのような光景の写真や映像がリアルタイムで入ってくる。それを見て、僕は即座に思いました。「こんなことがあるのか? ありえない、でもカメラマンとして自分もこれを撮影したい」。

これは無意識のうちに情報に引っ張られているときの特徴で、この瞬間こそブレーキのスイッチが必要です。冷静に考えたら、33年間の戦場報道の中で、そんな映画のような光景は見たことがありません。「心地のよい情報こそ要注意」、これが、僕が伝えたい最大のメッセージです。

イメージ画像 情報の真偽

そして、発信する側が気をつけなくてはいけないことは、クリックする前に「ひと呼吸して間を置く」ということ。自分だったらどう感じるかを想像して、見る側に寄り添い、発信力を自分でコントロールする。

情報は大切な力で便利だからこそ、その危険にしっかりと向き合って、自分や大切な人を守る責任を、あらためて自分の中にしみ込ませてほしいと思います。

渡部陽一さん

渡部陽一:1972年静岡県生まれ。明治学院大学法学部卒業。学生時代から世界の紛争地域を専門に取材を続ける。戦争の悲劇、そこで暮らす人々の生きた声に耳を傾け、極限の状況に立たされる家族の絆を写真で伝えている。

※この記事は2025年12月14日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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