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キンプリ?「いえ、キングあんこプリンです」 思わず笑ってしまう彫刻【超老芸術 #3】

クスッと笑ってしまう作品を作るのは静岡・焼津市の岩﨑祐司さん、77歳。最新作はアイドルグループ「King & Prince(キングアンドプリンス)」ではなく、「キングあんこプリン.ショー」。高齢になってから芸術を開花させる「超老芸術家」の一人です。

キングあんこプリン.ショー

高齢になってから突如アートの才能を爆発させる人、高齢になっても情熱が枯れるどころか、より激しさを増して創作活動に没頭する人を「超老芸術家」と呼びます。

【超老芸術 #2】「ある日バッハを聞いて突然描き出した」元焼き肉店主の運命の日

テレしずWasabeeは超老芸術の名付け親でアーツカウンシルしずおかの櫛野展正さんが発掘した、プロではないが、もっと光があたるべき人たちをシリーズで紹介します。

「言葉遊び」の彫刻たち まずは代表作

ギャラリーくすくす(静岡・焼津市)

静岡・焼津市にある「ギャラリーくすくす」を訪れると、ところ狭しと並んだ作品にまず驚きます。その数約300点。

これが岩﨑さんが作った作品全てではありません。今までに330種類、約900点を制作しました。

壁にもテーブルにもぎっしり並んだ作品

ではさっそく作品を見て見ましょう。

代表作は「ローマの休日」ならぬ「リョーマの休日」。バイクに乗っているのはオードリー・ヘプバーンではなく、渋い表情の坂本龍馬です。龍馬ですが、なぜかしっくりきています。

リョーマの休日

一瞬意味がわからなくなったのが、「赤い靴を吐いてた女の子」。童謡「赤い靴」の有名なフレーズ「赤い靴、履いてた、女の子。異人さんに連れられて行っちゃった」のパロディーです。

赤い靴吐いてた女の子

この作品には別バージョンもあります。それが「赤い靴を掃いてた女の子」。どこにそんな赤い靴が落ちていたのでしょうか。掃き集めた赤い靴が山になっています。

赤い靴掃いてた女の子
【画像】岩崎さんの作品をもっと見る

岩﨑祐司さん:
日本語は同じ言葉で意味が変わるので、おもしろいんです。好きで彫り始めたら、だれも追随する人がいなかったという、世界にただ一人の笑刻家です

思いつくまま言葉遊びを彫り込んだ作品を、岩﨑さんは「笑刻(しょうこく)」と名付けました。

ウリ言葉にカイ言葉

一週間悩んで「そんなバナナ」

膨大な数の作品を作り続けている岩崎祐司さんですが、彫刻を専門に学んでいたわけではなく、家業は自転車店でした。祖父は船大工で、岩崎さん自身も手先の器用さを受け継ぎ、日曜大工が好きでした。

最初は観音像を彫っていた

35歳の時に初めて彫刻にチャレンジします。最初はテキストを見ながら観音像を彫りました。しかし他の人と同じものでは飽き足らず、50歳ごろから自分らしい面白い作品を作りたいと思い始めたそうです。

アイデアを書き留めたノート見る

岩﨑祐司さん:
棚とかそういうものでなく、なにか鑑賞できるものを作りたくなったんです。一週間ほど悩んで思いついた作品が「そんなバナナ」。バナナをむいたらトウモロコシだったと!

作品第1号 そんなバナナ

岩﨑さんは昔からダジャレや言葉遊びが好きで、ノートにネタを書きためていました。そのおかしな言葉たちをどう立体作品にするのかが、岩﨑さんの真骨頂。べたべたなギャグも妙に丁寧な作品として仕上げてしまうから、笑いがこみ上げます。

これを芸術作品を展示している喫茶店の友人に見せたところ「おもしろいじゃないか」と気に入られ、作品展を開くようになったのが笑刻活動の始まりです。

岩﨑さんのネタ帳

もっと見よう!厳選こだわりの作品

岩﨑さんのネタ帳には「変な名前シリーズ」もあります。

「小田マリ」が「お黙り」にも聞こえることから思いついた作品が「イカリ妖怪『小田マリ』」です。「お黙り!」と怒鳴っているような迫力ある表情に圧倒されます。

イカリ妖怪「小田マリ」

岩﨑さんお気に入りの作品は、ひときは背の高い「手にナシ」。「手品師」の手にナシが乗っている・・・だから「手にナシ」。アート作品として造形も気に入っている、力作です。

手にナシ

そして最新作は冒頭で紹介したKing & Princeの平野紫耀さん(※5月22日にグループ脱退)をモデルとした作品「キングあんこプリン.ショー」です。

平野紫耀さんがテレビ番組のロケに来た際に作った作品ですが、その後は平野さんのファンがひっきりなしに訪れるようになりました。それまで笑刻に関心がなかった家族の態度も一変し、見直されたと笑います。

キングあんこプリン.ショー

笑刻が生まれる場所

これらの作品が生まれる場所は、ギャラリーの裏手にある2~3畳ほどの工房です。

作業に集中できそうな隠れ家的スペース。木の香りが充満し、床には削りかすが積もっています。作業机の上にはさまざまな種類のノミやノートが置かれていました。

作業場スペース

岩﨑祐司さん:
木との真剣勝負です。使うのはクスノキだけ。匂いが良く、折れにくい一方で彫りやすいんです

粗彫り、中彫り、仕上げと、彫りの作業は短いものでも5~6日、長いものは1カ月半かかります。

作業に使用する道具

一度失敗してしまったら修正が効かない木彫制作ですが、岩﨑さんは失敗したことがないと話します。

難しいのは、例えば「むらさきしきぶとん」のような空洞があるデザインです。1本の木から全て彫り出しているので、細い部分が折れてしまったらイチから作り直しです。

むらさきしきぶとん 横からみるとわかる空洞部分が難しい

コツは集中の度合いを変えること。最初はザックリと。細かくなるにつれて集中力を高め、作業にメリハリを付けています。

下書き段階の作品

「笑顔と元気を届けるアート」を全国各地に

ミニチュア作品のお土産も

今では生活のほとんどの時間を制作に充てている岩﨑さん。力がいる作業なので72、 3歳でやめるつもりでしたが、気がついたら既に77歳。今は80歳まで続けたいと考えています。

岩﨑祐司さん:
面白いかな、うけるかな、と思いながら制作しています。人が考えつかないようなことを彫りたいんです。「笑顔と元気を届けるアート」として全国各地でイベントを開いて、実物を見て笑顔になってほしいと思います

岩﨑さんを見ていると、自分の思いに素直だと感じます。だからこそ自分が本当に好きなことを見つけることができ、それに打ち込む時間を手に入れた引退後、超老芸術を開花させているのではないでしょうか。

岩﨑さんの作品から言葉の面白さ感じ、笑顔になる人がまだ増えていきそうです。

■店名 ギャラリーくすくす
■住所 静岡県焼津市上泉1068
■連絡先 054-631-9696
■営業時間 10:00~18:00
■定休日 日 (事前予約があれば、日曜も見学可)
■入場無料

【もっと詳しくみる】ギャラリーくすくすのHP
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