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【伊豆の国・江川邸】江戸時代の「コーヒイ」の味は?反射炉とパンだけじゃない! 江川英龍の功績

幕末に活躍し、日本初のパンを焼いたことでも知られる韮山代官・江川太郎左衛門英龍(ひでたつ)。英龍に関する新たな情報があると聞いて江川邸に向かいました。それは今では当たり前となった西洋文化「コーヒイ」、つまりコーヒーの焙煎でした。

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英龍像の前に立つにむらリポーター
江川英龍の像とにむらリポーター

日本初のパンを焼いた江川英龍とは

コーヒーの話の前に、まずは江川太郎左衛門英龍が何者か説明しましょう。

坦庵(たんあん)の呼び名でも知られる英龍は、幕末にヨーロッパの最先端の知識である蘭学をいち早く取り入れ、韮山代官から異例の出世を遂げた人物です。

パン祖・江川英龍


江川英龍は「パン祖」と呼ばれることがあります。

パン祖とは?

英龍は江戸時代末期、黒船来航に代表される欧米列強の脅威に備え、国防のために韮山反射炉の建設を主導した功績で知られています。


そして、兵隊の携行食として日本で初めてパンを焼いたことから「パン祖」という名でも親しまれています。

パン祖・江川英龍が日本で初めてパンを完成させたのは1842年のことですが、実はその1年前の1841年には、すでに試作品が作られていました。

江川邸で保管されていた英龍直筆のメモ書きには、試作品のレシピが記されています。

英龍パン4種類
直筆レシピをもとに再現された「英龍パン」

この貴重な史料をもとに、あの硬い「パン祖のパン」が完成する1年前に試作されていたパンが、現代に再現されています。

オランダの家庭料理を改良「ハンネコック」

再現された試作品の中でも特に注目すべきは「ハンネコック(150円)」です。

英龍パンのハンネコック
ハンネコック(150円)

江川邸 学芸員・橋本敬之さん
新たな情報として、これが今でもオランダで食べられているケーキだということがわかったんです

オランダで長く生活していた人が江川邸を訪れた際に、「ハンネコック」とよく似た「パンネクック」というケーキをよく焼いていたと教えてくれたといいます。

江川邸の学芸員・橋本敬之さん

それはクレープより少し厚く、ホットケーキより少し薄いパンケーキで、現在もオランダの家庭料理として親しまれています。

橋本さんは、江川英龍がその「パンネクック」を兵隊の携行食にするため、長期保存ができるようアレンジしようとしていたのではないかと考えています。

右がオランダの家庭料理「パンネクック」

発見! コーヒー文化も伝えていた

パン試作品のレシピだけでなく、さらに驚きの資料が発見されました。

それは江川英龍直筆の「コーヒー」に関する資料です。

江川英龍直筆の資料

カタカナで「コーヒイ」と書かれ、その横には「豆ノイリ候もの(豆をいるもの)」という記載があります。

描かれているのは、コーヒー豆をいる「コーヒー豆の焙煎器」です。

焙煎器とパーコレーターのスケッチ
英龍直筆のスケッチ 左)焙煎器 右)パーコレーター

そして、右側には「パーコレーター」の図も描かれています。

パーコレーターとは、19世紀初めにフランスで考案されたコーヒーを抽出する道具です。

パーコレーター
パーコレーター

資料には、沸騰したお湯がパイプを伝って上昇し、噴水のように噴き出している様子まで詳細に描かれています。

英龍が19世紀半ばには、すでにこの方法でコーヒーを飲んでいたかもしれないのです。

江戸時代のコーヒーを再現してみた

江川邸では、当時日本が輸入していたオランダ領インドネシアのコーヒー豆を使い、「江川英龍コーヒー 100g(1400円)」として販売しています。

江川英龍コーヒーのパッケージ
江川英龍コーヒー 100g (1400円)

今回はこの特別なコーヒーを、実際にパーコレーターで入れてみることにしました。

パーコレーターは、加熱によって沸騰したお湯がパイプを伝って上昇し、そのお湯がコーヒー豆の上に落ちて循環することでコーヒーを抽出する器具です。

パーコレーターでコーヒーを入れる

江川邸 学芸員・橋本敬之さん
これを何回も何回も繰り返すとコーヒーが煎じられるんです

現在ではキャンプ用品としても使われているパーコレーターは、直火でコーヒーを抽出するのが特徴です。

そこで英龍に倣って、再現された「カネールコック」と一緒にコーヒーを飲んでみました。

にむらリポーター:
どちらかというと濃く抽出されています。コクがあり、酸味のバランスもよく、おいしいです

コーヒーを味わうにむらリポーター

残念ながら、英龍がこのコーヒーをどのように感じたか、その感想は史料に残っていません。

しかし橋本さんは、彼がパンやカステラと一緒に楽しんでいたのではないかと考えているそうです。

カネールコックとコーヒー
英龍もこの組み合わせを楽しんでいた?

カネールコックは少しパサパサしますが、シナモンの香りが上品です。深煎りのコーヒーの組み合わせは相性抜群だったのではないでしょうか。

ここでふと疑問が浮かびました。当時も現代のようなマグカップでコーヒーを飲んでいたのでしょうか?

橋本さんは「お茶碗でしょうね」と笑います。

にむらリポーターと橋本さん
英龍の時代にマグカップはなかったかも

完全な「江戸時代の再現」とはいきませんでしたが、幕末の偉人が味わったであろうコーヒーの風味と、その時代の雰囲気を十分に楽しむことができました。

先進的な食文化を伝えた江川英龍の偉業

パン祖・江川英龍は、日本初のパンを焼いただけでなく、コーヒー文化も伝えた先駆者でした。

西洋の食文化を日本に取り入れ、日本に根付かせる礎を築いたのです。

英龍像(韮山反射炉)

江川邸に残されたこれらの貴重な史料からは、彼の先見性と情熱を感じることができます。

ぜひ訪れて、幕末のロマンと、英龍が伝えた新時代の味覚を五感で感じてみてください。

■施設名 江川邸
■住所 静岡県伊豆の国市韮山韮山1番地
■時間 9:00~16:30
■定休日 水
■入場 大人750円 小中学生300円
■問合せ  055-940-2200

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