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静岡・三島市に8年前にオープンした「割烹だいだい」は、なかなか予約の取れない人気店でしたが、3月に清水町に移転してリニューアルオープン。訪れてみると、最寄駅から離れた、看板もない隠れ家のような店でした。
まるで隠れ家! 看板のない店
清水町「新宿」のバス停を目印に、階段を降りて行くと普通の住宅に見える一軒家があります。3月にオープンした「おゝ河」です。
近隣に有料パーキングは見当たりませんが、店舗裏手の駐車場に5台止められます。
入り口には、レトロなブラケットライトが表札を優しく照らしています。
ひっそりとした隠れ家感で、ワクワクしながら扉を開けました。
店内に入ると外の雰囲気とは打って変わって、明るく広々としたカウンター席が14席。
中央には調理の様子がどの席からも見えるオープンキッチンがあります。どのお客さんとも顔を合わせ会話ができる配置は、新店舗の重要なコンセプトでもあったそうです。
新店舗おゝ河では店内にそば打ち部屋も完備。前店舗の頃から大人気だった、自家製そばも健在です。
そして、店主のこだわり、トイレは男女別です!
目指すのは自由な店!
コロナ禍以降、コース料理のみ、同時刻一斉スタートの店が増えました。
しかし、おゝ河ではアラカルトで食べたい物を食べたいだけ注文できます。店主が目指すのは「自由な店」です。
一般的に、メニューには決められた価格と分量がありますが、ここではお客さんのニーズに合わせてくれる気遣いがありました。
この日も、メニューには季節の食材が並び春らしさを感じます。その日の仕入れによってメニューも毎日更新します。
黒板メニューを見ると店主が目指す「自由」がなにか、納得できました。
書かれているのは食材のみです。焼いても、蒸しても、揚げても良し! お客さんのその時の気分で食べたいように調理する。お刺身も「少しだけちょうだい」のリクエストに対応してくれます。
だからメニューには金額がないのです。
強く握ったら割れてしまいそうな、うすはりのビールグラス。ジョッキで飲む生ビールはなく、ビールは瓶のみ。酒類にもかなりこだわっている店だからこそグラスも一流です。
瓶ビールの方が高級感あるでしょ? と笑顔で語る店主。
店内にはワインセラーも完備。割烹料理店とは思えないワインの品ぞろえです。
和食と相性の良いワインとシャンパンが並んでいました。
おまかせコース9900円をご紹介
コースはおまかせの9900円、事前の予約は不要です。
先付けは旬のものを使った2品、沖縄の新もずく酢と、ウドのきんぴらでした。和食ならではの季節感、春は多くの山菜がメニューに並びます。
お造りは、カツオ、赤貝、赤イカ、しめサバ。店主が刺身を切るタイミングでお弟子さんが中伊豆の生ワサビをおろしてくれます。
ワサビの辛味は時間が経つと失われてしまいます。提供する寸前におろして最高においしい状態で食べて欲しいという店主のこだわりを感じました。
椀のふたを開けると、フワッと立ち上がる湯気。
磯の香りが広がります。旬のタケノコとフレッシュな山椒(さんしょう)の爽やかさが見事に調和していました。
甘鯛の塩焼きは、パリパリの皮とふっくらした身にうっすら塩味。なんとも上品な仕上がりです。
魚は沼津港だけでなく豊洲市場からも取り寄せているそうです。
「桜鯛道明寺の桜蒸し」は、その名の通り春にピッタリのお椀料理です。
産卵期を迎えたこの時期のマダイはサクラダイと呼ばれます。透明感のある銀餡(ぎんあん)は店主自慢のだしと桜葉の風味で何とも春らしい一品です。
サクラエビのかき揚げはサクサクですが、エビの弾力もしっかりあって、もっちりした食感。
エビ本来の甘味が強く、レモンを絞ってさっぱりと食べることができる一品でした。
しめのそばは、だしのつけ汁に加えて自家製カレーもチョイス。
アラカルトで頼んでも、ほとんどのお客さんが、しめにそばを注文していました。そばは外一(そといち)。そば粉10に対して、つなぎの小麦粉が1と言う本格そばです。
デザートは、甘さ控えめのあんこが嬉しい、自家製のイチゴもなかでした。
最後のデザートまで手を抜かない職人魂はさすがです。
調理場はステージ「ライブ感を大事にしたい」
高校を卒業し、大物政治家も足を運ぶ銀座の高級割烹料理店で、料理人人生をスタートした店主の大河知大さん。
33歳まで修行を積み、その後故郷である三島の地で自身の店を持つ準備を進めながら、熱海の割烹旅館で2年間、さらに腕を磨きました。
35歳で割烹だいだいをオープン。42歳のいま、第2ステージとなるおゝ河をオープンしました。
新店舗では“ライブ感”を大事にしたいと語る大河さん。「調理の過程、お皿に盛られて提供されるまでを見てもらいたい」と話します。
腕に自信があるからこそのオープンキッチン。見ていて飽きないプロの仕事です。
おゝ河 店主・大河知大さん:
店側からお客さんに食べて欲しい料理を提供するのではなく、お客さんがその日、その時、食べたい物を食べて欲しいと思っています
お客さんと会話をしながら、その日の気分で発せられる「ねえ、その魚なに? 少し食べたいなぁ。焼いてくれる?」そんなリクエストにも応える、客ファーストの店でした。
自身の店を「おしゃべり割烹」と表現する店主が、あえてカウンター席にこだわった理由がわかります。
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一方で、「週休3日にして調理師もしっかり休みが取れる店にしたい。飲食業界では改革的な働き方を目指したい」とも話し、飲食店のあり方も真剣に考えています。
「三島でどこかおいしいお店知らない?」の問いかけに必ず名前が出てくる程の人気店が、新天地で更にグレードアップ。お客さんにも働き手にも優しい、飲食業界のモデルとなる店でした。
■店名 おゝ河
■住所 静岡県清水町新宿262-1
■営業時間 17:30~21:00(ラスト入店)
■定休日 日・月
■お問合せ 055-976-2515 (つがらない場合は090-8127-5759)
■駐車場 店舗裏に5台(6・7・9・10・11)
取材/髙橋麻子
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