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2023年秋に沼津市議会を揺るがせた“タケノコ”騒動。本会議場での発言に端を発し出席停止を科された市議が、処分の取り消しを求めた不服申し立てで新たな主張を展開した。一方で、当初の説明からは変遷も見られる。
本会議の場で突如として…
「実は私の農地の中にも市の土地が存在している。その土地は現在、竹林として私が管理をして、そこから毎年、タケノコを掘って利益を得ている。販売したりしている」
これは2023年9月27日に開かれた沼津市議会の本会議における江本浩二 議員の発言で、すべてはここに端を発する。
自らの不適切行為を告白するかのような発言を重くみた議員全28人中22人は「当該発言の真偽や意図は定かではないが、そもそも地主の了承を得ず物を盗り、さらにこれを売り払うことは森林法、その他の法違反となる可能性もある」と指摘し、江本議員に対する懲罰動議を提出した。
これに対し江本議員は、当該市有地は自身が以前 市に売却した土地と説明した上で「正確に申し上げると私の畑の隣に市有地があるということ」と釈明。
さらに、「議員となって今まで16年以上、販売したことはない」「私は市有地のタケノコを販売したとは発言していない」と主張するとともに、「言葉が足りずに誤解を与えてしまった」と述べた。
陳謝を拒否して出席停止「懲罰は勲章」
こうした中、10月16日に開かれた本会議で懲罰動議が可決され、議場での陳謝文の朗読を命じられたものの、江本議員は「受け入れることは出来ない」と拒否。このため再び懲罰動議が出され、今度は陳謝よりも重い議会への出席停止処分(1日間)が科された。
江本議員によれば、陳謝の拒否は信念に基づいた行動であり後悔はないという。
だからなのか、退席を命じられたあと「懲罰は勲章だと思っている」とも口にしていた。
処分の取り消し求めて審決を申請
ところが3日後の10月19日。江本議員は、自らが科された懲罰には「正当な根拠はない」との思いから、川勝平太 知事に対し処分の取り消しを求めて“審決”を申請する意向を示し、「私の名誉を深く傷つけるとともに、住民から負託を受けた議員としての責務を果たすことが出来なくなった」と訴えた。
そして、11月1日には静岡県庁へと出向き審決の申請書を提出。
会見では、懲罰を科された根拠として議会の“品位”を汚したことが挙げられていることを受け、「品位についての定義が漠然・不明確で、品位とはどのようなことをもって定義されているのか、また、それがどの程度汚されたのかの説明・議論も欠落している」と疑問を呈し、「品位という漠然・不明確な概念を根拠として懲罰を科すことは、漠然性ゆえに無効の法理、過度の広汎性ゆえに無効の法理に該当し、表現の自由、議員の発言の自由を侵害する違法な議決」と強調した。
県は申請を受理 委員による審査続く
その後、申請は受理され、現在も県の自治紛争処理委員による審査が続いているが、2024年2月27日に行われたのが江本議員を招いての口頭意見陳述だ。
非公開での開催だったが、この席で江本議員は「タケノコを掘ることも含めて、竹林の管理は沼津市の了解のもとで行っていた」と話し、実際に当時の土地買収に携わった市の元職員にも同席してもらい「地権者全員を対象とした説明会の時に『工事が始まるまでは買収した土地に生えてくる樹木や竹などの伐採は元の地権者の判断で行ってほしい』と話し、理解を得たという。また個別契約の時に確約したこともある」と証言してもらったそうだ。ただ、このことは書面には残されていないことだという。
なぜ?時間の経過とともに発言は変遷
しかし、ここで疑問が浮かぶ。
そうであるならば、なぜ発言が問題視された当初から市の了解を得ている旨を主張しなかったのだろうか?
振り返ってみれば、江本議員は「市有地のタケノコを販売したとは発言していない」と言ったかと思えば、「タケノコについては山野草の類だと思っている。山野草を採取することについて罰する法律はない。だから森林窃盗罪ではない」と話すなど、発言に変遷が見られる。
また、懲罰動議が提出された際に「地主の了承を得ず物を盗り、さらにこれを売り払うことは森林法、その他の法違反となる可能性もある極めて不適切な行為」と糾弾されたことに対し、市の了解が得られていることを理由に「まったくの不当」と語気を強めたが、提案理由には続きがあり「本会議において不適切な行為を容認するかのごとく発言し、ひいては市民の道徳心の崩壊を引き起こすことにもつながりかねない」と記されている。つまり、議会側は発言そのものを咎めているのであって、タケノコ掘りや販売の“既遂”・“未遂”は問うていない。
審査結果がどのようなものになるかはわからないが、仮に不服申し立てが認められたとしても、反対に却下されたとしても、議会に混乱を招いた責任の一端が江本議員にあることは言うまでもないだろう。
ただ、江本議員は一連の騒動について「沼津市議会のパワハラ的構造。多数派による少数意見の封殺・抑圧ということ」との私見を述べている。
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