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静岡県沼津市の県道脇でごみ当番をしていた親子がひき逃げされ死亡した事件は、逮捕された男のトラックの側面の扉が衝突したとみられている。
逮捕の有力な手掛かりになったのは、現場から1kmほど手前に設置されていた防犯カメラだ。扉が開いた状態で走行する様子を鮮明にとらえていた。
死亡の親子は背中側を骨折
事件は静岡県沼津市松長の県道で発生した。2024年1月15日午前5時半頃、道路脇のごみ置き場で男女が折り重なるようにして倒れているのが見つかり、搬送先の病院で死亡が確認された。
2人は近く住む33歳の会社員の男性と59歳の母親で、この日は自治会のごみ当番で、ごみ置き場でカラス除けのネットを張るなどしていたとみられる。
息子は胸を、母親は頭を強く打ち、2人とも背中側を骨折していて、警察はひき逃げされ死亡したとみて捜査を始めた。
そして5日後の20日、近くに住む85歳の鮮魚商の男を逮捕した。
現場の1kmほど手前に設置された防犯カメラの映像が有力な手がかりになった。男のトラックが、左側面の扉が開いた状態で走行する様子が映っていた。
警察の調べに対し、男は「電柱とぶつかった」「人だとは思わなかった」などと容疑を否認しているという。
男は事件当日の午前5時半頃に沼津魚市場に来ていたが、市場関係者によると「普段と変わらない様子」だったそうだ。
直前に通った場所の防犯カメラに
防犯カメラに映ったトラックの扉の開き具合などを確認するため、警察は1月30日に容疑者を立ち会わせて、防犯カメラの設置場所で実況見分を行った。
男は事件当日の朝も自宅を出て、この場所を通って仕事先の沼津魚市場に向かっていた。
沼津警察署に押収されている男のトラックは午前10時45分頃に運び込まれた。
実況見分を取材した記者は、トラックを積んだトレーラーが目の前を通る時、左側面の扉が左右に揺れ「パタパタ」と鳴る音を聞いた。
扉は4カ所の金具でトラックとつながっていて、このうち2カ所は完全になくなっている。警察が押収した時に扉は外されていたというが、この日はフックなどでつるし、開き具合を確認できる状態にしてあった。
見分はバス以外を通行止めにして約2時間行われた。
当日映像をもとに開いた扉を再現
警察はトラックの近くにテントをはり、パソコンを持ち込んでいた。事件当日の早朝に撮影されたとみられる防犯カメラの映像を参考に扉の開き具合を再現していく。テントとトラックの間を何度も捜査員が往復する。
パソコン画面を上下2つに分け、下には事件当日の早朝とみられる映像が、上には実況見分のリアルタイム映像が映し出されていた。
運んできたトラックの扉を少しずつ動かしながら、角度が事件当日に撮影されたとみられる映像の角度と一致するように調整していく。
扉の開いた状態を再現した後は分度器で角度を測ったり、開いた扉の先端と車体との距離をメジャーで測ったりして開いた様子を記録する。
正午頃になると、85歳の鮮魚商が警察に付き添われ実況見分の現場に現れた。運転席に座り、捜査員の質問に答えていた。
男は「電柱とぶつかった」「人だとは思わなかった」などど、ひき逃げの容疑を否認しているという。
ひき逃げ事件があった時間帯の直後に沼津魚市場に現れた時は左側面の扉が壊れていて、市場関係者は「蝶番のビスが外れるほど壊れていた」と記憶している。この時も男は「来る途中でぶつけた」と説明し、平然としていたという。
何かと衝突した認識があるのなら、なぜその時に車を止めて、何と衝突したか確認しなかったのだろうか。
警察や自治会が再発防止策を検討
ひき逃げ事件の現場がある自治会では、事件の後、ごみ当番は自発光式のベストを着用することやごみ置き場に反射材のついたコーンを置くことを決めた。当番の準備の時刻を周りが明るくなる時間帯まで遅らせることも検討している。
こうした中、31日に警察や沼津市、地元自治会の役員などが現場を歩き、路側帯の狭さや交通量の多さを確認した。
「ごみ置き場を安全な場所に移転させるべき」「車の速度が速いので、スピードを落とさせる工夫があってもいい」などの意見があがっていた。
この県道では2014年から2024年1月までに、今回のひき逃げ事件も含め6件の死亡事故があり7人が死亡している。
市によると狭い路側帯に設けられた危険なごみ置き場は現場も含め周辺に17カ所あるという。
現場には2週間ほど経った1月下旬も亡くなった親子を悼む花が手向けられていた。
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