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商店街に賑わいを取り戻そうと、若手経営者が現代アートに目をつけた。空き店舗を借りて芸術祭を開催し、街に来てもらうきっかけにする。
そして芸術祭の後も作品を残し、作品付きで空き店舗のテナントを募集する計画だ。富士山を望む街の“一石二鳥”を狙うアイデアは実を結ぶだろうか。
アートで集客 空き店舗も解消へ
静岡県三島市の商店街で2023年11月に開かれた「三島満願芸術祭」。市民や地元の商店街が企画・運営して、空き店舗を会場に2週間開かれた。
プロジェクトがスタートしたのは2023年5月。発起人は三島市に移住してきた山森達也さんだ。都内の企業に勤めながら三島市内でゲストハウスなや貸オフィスを経営している。
移住先に選んだ三島市の魅力を市外の人にも知ってもらいたいと思い、来てもらうきかっけとして選んだのがアートだった。
発起人の山森達也さんは「まずアートを見ていただき、その上で三島の街を見たり、三島の人とつながったりすることで三島を好きになっていただく。アートの力を使って、商店街のシャッターを開けていく、そこに新しい光を灯していく」とイベントの狙いを話す。
人を呼び込むだけが目的ではない。空き店舗が解消できればという願いも込める。
展示したアート作品は、芸術祭の後も空き店舗に残す。「アート付きの店舗」という付加価値をつけてテナントを募集する予定だ。
アート付きテナント募集に大家も興味
6月、会場となる空き店舗の物件探しが始まった。芸術祭が開かれる2週間に加えて、事前の準備の間も家賃なしで借りられる物件を探す。地元の商店街などの協力も得ながら物件を探すが、なかなか見つからない。
三島広小路振興組合・山本光弘 理事長は「空き店舗はあるが、空いているから貸してくれるかというと必ずしもそうでもない。もう(所有者が)年を取って貸したくないという人もいる」と空き店舗側の事情に理解を示す。
7月、元々たばこ店だった空き店舗を見せてもらうことになった。山森さんは何とか貸してもらえるよう、大家さんに思いを伝える。
山森さんは作品を展示するだけではなく、建物自体も見てもらいテナントとして入ってくれる可能性を不動産業者などと連携をしながら探ることも提案した。
大家さんの「喫茶店などとして活用したい」という思いとも重なって、貸してもらえることになった。
空き店舗を貸してくれる鈴木俊昭さんは「日曜日に子供と一緒に来て、音楽を聴いたり絵を見たりできれば憩いの場になる。そうした場所が三島市に求められていると思うので協力したい」と話す。
山森さんは「『この先こうなったらいいね』と三島市の未来について一緒に話ができた」と喜んだ。
市民も参加してアート制作
参加するアーティストも決まった。
空間全体を作品とする「インスタレーション」などを制作する辻梨絵子さん。集めた言葉からイメージを膨らませて絵画作品を作り出す古川諒子さん。そして、自らも出演しながら映像作品を発表している山本篤さんの3人だ。
三島市を訪れたアーティストたちは作品のイメージを膨らませるため街を散策した。
10月、ようやく会場となる3つの空き店舗が決まった。
アーティストたちのイメージもまとまり、市民が参加するワークショップ形式で作品作りが始まった。
空間全体を作品とする「インスタレーション」を制作する辻さんは、ビーズのカーテンを作ることに決めた。作品のモチーフに選んだのは、「三島から水辺越しに見た富士山」だ。
富士山を選んだ理由について、辻さんは「すごく生活になじんでいるシンボルのような存在で、皆さんが親しみを感じているとのことなので、三島の皆さんと富士山のポジティブな関係に興味がわいて、そこを探ってみたいと思った」と話す。
制作するビーズカーテンは、ビーズを横に160列、縦に160個使い、1m50cmほどの大きさになる。
使用するビーズは2万5600個だ。
さまざまな色のビーズを辻さんの指示した個数と順番で、ひとつひとつテグスに通していく。協力してくれる市民たちの気の遠くなるような作業が始まった。
画家の古川さんは、絵画のテーマとなる”フレーズ”をワークショップに参加した市民が集めた言葉から探す。
参加者は三島についての歴史書やガイドブック、それに自分たちの日記などから切り取って集めた言葉をつなぎ合わせていく。
参加者は「言葉を切り刻むというのが楽しそうで参加しました。どんな絵になるか期待しています」と作品の仕上がりに思いを馳せる。
古川さんは「自分一人では見つからない言葉や並べ方などを、三島に関する言葉を通して再発見できる。三島の魅力やひとりひとりが考えていることが伝わってきて、すごく楽しかった」と市民との触れ合いに手ごたえを感じていた。
映像作品の山本さんは、空き店舗のシャッターが再び開いて街の人が喜ぶことを「マジック(魔法)」としてとらえ映像化する。商店街を使って撮影し、総勢50人の市民がエキストラなどとして参加する。
山本さんはこれまで300ほどの映像作品を作ってきたが、山本さん自らが演じる作品が多いそうで「今回はこれだけの人数の皆さんと一緒にひとつの作品が作れるということで自分にとってもひとつのチャレンジ。緊張感を楽しみたい」と話す。
来場者「街の魅力に気づくきっかけに」
11月中旬、いよいよ芸術祭の開幕だ。
辻梨絵子さんの作品のタイトルは「富士麓くらし」だ。
会場で流れる制作風景の映像や富士山についての会話とリンクして、ビーズカーテンの富士山が様々な表情を見せる。
来場者:
この作品はぱっと見た感じだとビーズがつるされているだけだけど、光が当たった瞬間がすごくきれいで、夕日のシーンなどはキラキラしていて感動ですね
古川諒子さんの作品群には「大小さまざまな 三島に関する 三島の話」というタイトルがついた。
それぞれの作品のタイトルは、市民が日記やガイドブックから探した言葉がヒントになっている。
「富士の麓の雪が溶けて /水遊びで /ガラス屋は復活する」、「東京から三島に来て /40年以上前の広小路のミスドとか /に慣れ親しむことができます」などのタイトルが作品に添えられている。
ワークショップ参加者:
私の殴り書きの字が貼ってあって感慨深い。すごくうれしい
山本篤さんの映像作品のタイトルは「REPLACE-M.WALKERS」だ。
マイケル・ジャクソンのようなダンサーが商店街を歩き、軒先の植木に次々と水を与えていくと店に活気が戻るといった内容だ。エキストラの市民も熱演だ。
来場者:
まち全体で盛り上げようとしているのがすごく伝わってきて、三島の魅力に気づくひとつのいいきっかけになると思った
イベントを仕掛けた山森達也さんは「これから毎年続けていきたい。今年の3軒が来年は何軒になるかわからないが、三島の街の中にアートがストックされていくことで、三島が“アートの街”になれたら」と夢を語る。
アートの力で街に人を集め、空き店舗のシャッターも開ける。街の活性化に向けて新たな挑戦が始まった。
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