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11月7日、厚生労働省は製薬企業24社に対して、せき止め薬やたんを切る去痰(きょたん)薬について増産を要請しました。このうち8社には10月にも要請しています。
ジェネリック薬品メーカーの製造での不正に端を発した日本国内の薬不足の問題は、まだ解消の目途はたっていないようです。
こうした中、県内では早くもインフルエンザが流行の兆しを見せています。
これから寒い時期に向かいカゼなどの感染症のリスクが高まる中、「薬がない」事態に備えどうしたら良いのか専門家を交えて考えていきます。
薬剤師も驚く深刻な薬不足
暦の上では立冬ですが、11月に入っても比較的暖かな日が続いています。ところが冬に流行するインフルエンザが静岡県内ではすでに注意報レベルに達しており、例年より早い時期の流行となっています。こうした中、医療現場では薬不足が深刻な状況となっているようです。
この話題について、県感染症管理センター・後藤幹生センター長と元牧之原市長で総務省地域力創造アドバイザー・西原茂樹さんのお二人をお迎えしてお伝えします。
県中部、西部で調剤薬局を展開しているフラワー薬局では、2年前から薬不足が深刻となっているそうです。
フラワー薬局・矢元和樹 薬剤師:
咳止め・痰切り、カゼの時に使う熱を下げる薬が全般的になくて、解熱・鎮痛の薬もまったく入荷がない状態
現在は咳止めや痰切り、解熱鎮痛薬のほか、抗生物資や胃薬、血圧の薬なども不足しているといいます。
フラワー薬局・矢元和樹 薬剤師:
どうしても対処が難しい場合は、処方の変更を医師にお願いすることもたびたびあります。薬剤師になって数十年経ちますが、ここまで多くの種類の薬がここまで入ってこない状況は完全に初めて
フラワー薬局では、近隣の薬局から融通してもらったり、国の窓口に相談し薬を取り置きしてもらうなどして対応しているものの。それでも足りず必要な量は回って来ないそうです。
患者側も不安を感じています。
男性利用者:
現時点でも薬がなくなると焦る。もし買えないとなると不安
女性利用者:
すごい不安ですね。飲み続けないといけない薬なので、なくなったらどうしようって。ジェネリックを使っているので、そうでないと薬代も高くなると負担になる
フラワー薬局・矢元和樹 薬剤師:
一番問題になっている咳止めや痰切り薬は全く見通しは立たない。これからインフルエンザや新型コロナが流行る季節になるので、それを考えるとどうしようかなという状況
インフルエンザが季節外れの流行
現場の声としては 咳止めや痰切り、解熱剤などカゼの時に使う薬のほか、抗生物質なども足りていないという深刻な状況を伝えるものでした。
ここで流行の兆しが見えるインフルエンザについて、新型コロナ前の2019年と2023年を比較してみます。
例年は冬に流行するものが2023年は夏頃から流行が始まっています。西部はすでに警報レベルに達しており、県全体では10月に注意報となっています。
ーこれは例年と比べて異例なことなのでしょうか?
県感染症管理センター・後藤幹生センター長:
例年より2ヵ月以上早く立ち上がり注意報になっています。コロナ禍の3年余りの間については、ほとんどインフルエンザは流行していませんでした。コロナの検疫が徹底され南半球のインフルエンザが秋口に入って来なかったことと、マスク対策をしっかりとしていたことが理由です。
県内では例年30万人ほどがインフルエンザにかかりますので、3年分、100万人ほど免疫がない人が増え、主に若い方を中心にかかっていなかった方が順番にかかってきている感じです。
ー改めて今年のインフルエンザの特徴は?
県感染症管理センター・後藤幹生センター長:
夏休みの時期にいったん収束し 休み明けの2学期が始まるタイミングから感染者が増えてきています。
11月時点の1医療機関当たりの患者数は20人台で、例年のピーク60~70人台に比べればまだ低く、大きな脅威となっていません。懸念されるのは大きなピークを迎えずダラダラと流行が長引くおそれはあります。
なぜ薬が不足が起きている?
インフルエンザの流行が懸念される中、薬不足の問題も気がかりです。そこで、そもそもなぜこのような薬が不足の事態が起きているのかを整理します。
県薬剤師会によると、発端は2020年のジェネリック医薬品メーカーでの不正発覚だそうです。その後、複数のメーカーで次々と製造での不正が発覚し行政処分を受けたため、薬の出荷が停止してしまいました。
他のメーカーで生産調整が行われたものの、増産には他の薬の生産ラインを止める必要があるため、様々な薬で出荷調整や供給不足が連鎖的に発生しまったということです。
そして、こうした中で新型コロナやインフルエンザなどの感染症に対する薬の需要が増加したため、更に事態は悪化してしまったようです。
今後の薬の供給の見通しは?
そして、気になる今後の薬の供給の見通しについてですが、10月18日に武見敬三厚生労働相は「国民に必要な医薬品を確実にお届けできるよう、今後ともあらゆる手立てを講じる」と発言しました。
そして11月7日には製薬会社を省内に呼び、改めて安定供給に向けた対応を要請した上で次のように発言しています
武見敬三 厚生労働相:
さらに増産に向けた投資を行っていただくための支援を(経済対策に)盛り込みました。国民に必要な医薬品を確実に届けられるよう、あらゆる手立てを講じて今後とも役割を果たしていく
厚生労働相 自らが製薬会社に要請してるわけですが、取材した薬局によれば「薬の卸売業者の話では年内は絶望的」という状況だそうです。
総務省地域力創造アドバイザー・西原茂樹さん:
国が国民に必要な医薬品を確実に届けられるようあらゆる手立てを講じるなんて言うことは無かったから、それだけ深刻な事態なんでしょうね。実際、多くの皆さんも不安だと思いますよ
ーどうしたらいいんでしょうか?
県感染症管理センター・後藤幹生センター長:
現状不足が問題となっている咳止め、痰切りの薬はインフルエンザの主な症状(発熱、痛み、だるさ等)に対応するものではありません。インフルエンザは解熱剤の供給があれば問題ないと思います。
そもそも咳止め・痰切りの薬は症状を緩和する薬で、ウイルスを減らす効果はありませんので、その点を踏まえて本当に必要な人に処方されるようシェアする意識が必要かと。
それから子供に関して言えば、痰を出すために咳をしますので、強い薬で咳を止めると痰がのどに詰まってしまうおそれもあります。
また、1歳以上であればハチミツを1サジなめることで咳止めの効果があることが証明されていますから覚えておいてください
薬不足を実感したことがありますか?というアンケートを実施したところ「ある」33%
、「ない」66%という結果でした。
実際に薬を必要とする状況にならないと実感しないでしょうから「ある」という方が少ない結果になっています。一方で「ある」という方は実体験からのお答えということが伺えます。
総務省地域力創造アドバイザー・西原茂樹さん:
薬不足でこれまでのものと違う薬が処方される場合もあるようだけど、医師と薬剤師の処方を信じることが大切だね。それと市販薬と併用してうまくやっていければいいんだけどね
これから寒くなって空気も乾燥する季節になり、心配な感染症も多くなってきますので確認していきましょう。
季節の変わり目で「カゼ」はもちろん「インフルエンザ」「ノロウイルス」「溶連菌咽頭炎」など多くの感染症に注意が必要です。
インフルエンザ対策に予防接種を
注意しなければならない感染症が多いうえに薬不足という状況を踏まえれば、例年以上に感染症対策をしっかりとやる必要がありそうです。
具体的には「ワクチン接種」「咳エチケット」「室内は十分な換気を」「こまめな手洗い」そして「十分な栄養と睡眠」といった基本的なことを心掛けましょう。
ー改めて感染症対策として注意すべき点は
県感染症管理センター・後藤幹生センター長:
流行が上昇傾向にあるインフルエンザについてはワクチン接種が一番重要です。万一、インフルエンザに罹患しても軽症化できます。ワクチンは十分に生産されていますので是非ワクチン接種をしてください
薬不足の問題は出来るだけ早い改善が望まれる一方で、私たちも薬が不足している状況を認識し、ワクチン接種などの対応策をきちんと実行するよう努めていきたいと思います。
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