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コーヒーの香りが広がるなか、筆がキャンバスを走る音が響きます。「どんどん変わっていくのね」「きっとバラよ、バラ!」。本格コーヒーを飲みながら絵の完成を楽しむライブペインティングが、浜松市中区の高齢者住宅で開かれました。
リアルタイムで描かれる
浜松市中区にあるサービス付き⾼齢者向け住宅「おおるり富塚」。明るい日差しが差し込む⾷堂で、浜松市を拠点に活動するアーティストの林満里奈さんが、キャンバスをひろげます。コーヒーの香りも漂ってきました。
おおるり富塚で初めて開催する「アートカフェ」の始まりです。林さんは、会社員として勤務する傍ら、年に数回市内での作品展示やキッズアート等の創作活動をしています。ライブペインティングの経験はありますが、高齢者施設では初めてです。
林満里奈さん:
福祉、飲食、アートという違う業種が掛け合わさって生まれる新しい文化を、みなさんにぜひ感じてほしいです。きょうは絵が完成するまでの過程を楽しんでください
「謎解きみたいで面白い」
「どんどん絵が変わっていくのよ。それがすごく楽しい」と話すのは、かつて日本画や水墨画を学んでいた入居者の女性です。一度部屋に帰ったものの、絵の完成を見届けたくて再び食堂に戻ってきました。
入居者の女性:
最後がどんなふうになるのか気になって。完成した絵がどうしても見たいの
別の入居者の男性は「謎解きみたいで面白い」と話します。いろいろな美術館に行く機会があったものの、作品の意味がわからないことが多かったそうですが、きょうは絵を描く過程が見られたことで、作品の意味が分かりとても楽しかったと笑顔で語ってくれました。
バリスタがいれる本格コーヒー
コーヒーも「飲みやすくておいしい」と大好評。用意された3種類のうち、一番人気はミルクコーヒーで、早々に売り切れました。
バリスタを務めるのは、磐田市にある「coffee echoU」の久野裕太郎さんです。
自分でブレンドした豆を使ったオリジナルのコーヒーを、注文に応じてその場でいれます。久野さんも、高齢者施設でコーヒーを提供するのは初めてでした。
バリスタ・久野裕太郎さん:
コーヒーを通じて感じてきたことを皆さんに伝え、お役に立ちたい
この日はコーヒーだけでなく、2種類のスイーツも提供されました。
落ち着いた音楽が流れる空間は、まるで本物のカフェのようです。
観客の反応で作品が変化
ゆったりとカフェタイムを楽しんでいる間に、約2時間でバラと川をイメージした作品、2枚が完成しました。
林満里奈さん:
最初は植物をモチーフにした抽象画を描くつもりでしたが、聞こえてくるみなさんの声を聴いて、具象的な作品にした方が良いと思い、途中で変えました。描いている時間はいつも以上にドキドキしました
「一体何が描かれるの」「川じゃないかしら」。入居者の会話は盛り上がり、花が描かれているとわかると歓声があがりました。アーティストと観客が一体となり、作品ができあがった瞬間でした。
林満里奈さん:
きょうの経験は今後の作品作りの勉強になりました。想像以上に楽しかったです
「いい一日だった」と思える暮らしを提供
施設を運営する塚本絢也さんは、これまでにもバーテンダーを招き、入居者にお酒を楽しんでもらう試みを行いました。不動産業という異業種から介護の世界に⾶び込んだ経歴の持ち主です。
おおるり富塚・塚本絢也 統括マネージャー:
月に数回、地域のグルメ店のシェフに来てもらうイベントや、今回のような非日常のイベントを行っています。地域の企業と入居者をつなぐ取り組みを進めていて、地域の方々とのご縁で、成り立っています。今回は若者が楽しむようなオシャレなイベントを高齢者施設で開催するという挑戦でした
おおるり富塚は、地域と連携する「未来マチプロジェクト」として、高齢者施設の“常識を覆す”取り組みに挑戦してきました。
塚本絢也さん:
入居すると生活が制限されると思われますが、ここでは「入所前にできたことが当たり前にできる暮らし」を掲げています。ただ一日を終えるのではなく、夜、寝る前に「いい 一日だった」と思える暮らしを提供すること。その積み重ねが豊かな暮らしにつながっていくのだと思います
完成した絵は、入居者と一緒に選んだ額縁に入れて、食堂に飾られました。「きょうのイベントを思い出すきっかけができて楽しい」と入居者が笑顔で話します。
次はいったいどんなユニークな催しが企画されるのでしょうか。常識にとらわれず「暮らしの豊かさ」をあきらめない思いが、施設を明るく楽しく演出します。
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