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美しい自然環境と伝統技能。千年以上にわたり受け継がれてきた静岡のレガシー、富士山世界遺産・三保松原と伝統和紙を、千年先の未来へと引き継いでいきたいという思いが生んだ異色のコラボレーション。松の落ち葉に新たな価値をまとわせ未来へ向かう歩みが始まる。
千年の歴史が生んだ新しい和紙
静岡県伊豆市修善寺。この地域では、千年以上前から、和紙が作られてきたと伝えられている。一枚一枚、職人の手で丁寧に作られているのが伝統的な和紙「修善寺紙(しゅぜんじがみ)」。
原料を育てるところから製造するまで、すべて人の手で行われている。この工房で2023年新しい和紙が誕生した。
本谷育美アナウンサー:
これが完成した「みほのまつがみ」です。和紙の中にポツポツポツと松が入り込んでいますよ。表面を触ってみますとボコボコと凹凸があります。入り込んでいるという感じがしますね
すき込まれているのは松の葉だ。この和紙には、未来に向けたある願いが込められている。
世界遺産の”大敵” 松の落ち葉
静岡市清水区三保。海岸の三保松原は世界文化遺産・富士山の構成資産の1つだ。2023年6月、世界遺産登録から10周年を迎えた。この10年で周辺は整備され、大勢の観光客が訪れるようになった。
和紙にすき込まれていたのが、ここ三保松原の松の落ち葉だ。落ち葉は放置しておくと松が枯れてしまう原因になってしまう。
三保松原では美しい景観を千年先まで残してゆこうという思いのもと ボランティア団体が定期的に松の落ち葉の清掃や雑草を抜く保全活動を行い松林の景観を維持しているが、新型コロナの影響もあり、この10年間でボランティアの数は激減した。
三保松原3ringsプロジェクト 海野健多郎 専務理事:
2013年に世界遺産になって当時はこぞって保全活動をしていたのですが、だんだん人数が減ってきてしまった。松原は、落ち松葉をかかないと劣化してしまい松林自体が枯れてしまうので、毎週 人の手を入れて保全活動を続けていく必要がある
世界遺産と伝統和紙がコラボ
こうした現状や保全活動の必要性を知ってもらい、三保松原の景観を後世まで守っていきたい。そんな思いから生まれたのが、枯れた松葉をすきこんだ和紙だ。三保松原(みほのまつばら)にちなんで、「みほのまつがみ」と名付けられた。
集めた松の落ち葉の活用を検討していた団体のメンバーが紙にすき込むことを思い付き、伝統和紙の職人に相談したことがきっかけとなった。
修善寺紙 紙谷和紙工房・舛田拓人さん:
どうしても松の葉が硬くて厚みがあるものだったので、普通に和紙に入れると異物になってしまう。紙をすくとき、乾かすときに紙を破いてしまうことがあるので、そこをどう紙になじませて形にしていくかが一番苦労した
試作を重ねること約1年。松の葉が使われていることが一目でわかるよう、粗く砕いたものを使うことにした。
修善寺紙 紙谷和紙工房・舛田拓人さん:
紙自体に深い歴史があって、一説には平安時代から使われているといわれている紙なので、静岡の伝統的なところに共感してくれる人や、三保松原を残していきたいという思いに共感してくれる人に使ってほしい
未来へ紡ぐ 託した思い
世界遺産の松と伝統的な修善寺紙が組み合わさった「みほのまつがみ」。廃棄されてきた松の落ち葉に新たな価値が加えられ、2023年6月から折り紙とカードとして販売されている。折り紙は3300円(5枚入り)、カードは2750円(5枚入り)だ。今後は名刺の作成も検討している。
三保松原3ringsプロジェクト・ 海野健多郎 専務理事:
静岡市 唯一の世界遺産構成資産である三保松原が盛り上がることは、静岡市全体が盛り上がることにつながると思って、そういう信念でこの活動を続けている
世界遺産登録から10年を迎えた三保松原。その美しい景観を千年先まで守り続けたい。
「みほのまつがみ」がその思いを伝えていく一助となりそうだ。