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「お兄ちゃんなんだから」、ついこんな叱り方をついしてしまいますが、児童文化研究家の吉岡たすくさんは「同じ親から生まれても違う人間」と語ります。
1977年の番組スタートから20年以上に渡って「テレビ寺子屋」のレギュラー講師を務めた児童文化研究家の吉岡たすくさん。小学校の教師経験を生かし、ユーモアを交えた優しい語り口で人気を集めました。
吉岡さんの温かいまなざしを通して語られる子供たちの姿はどれも魅力的で、子供っていいなあ、子供って面白いなあと思わせてくれます。
8月6日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋では、吉岡さんが出会ってきた「きょうだい」にまつわるエピソードをお届けしました。
末っ子と長男どっちがいい?
児童文化研究家・吉岡たすくさん:
学校の休み時間に、ノブヒコくんとミキオくんとヨシキくんという3人の男の子が話をしているのが私の耳に入ってきました。ノブヒコくんは男3人きょうだいの長男です。ミキオくんも3人きょうだいですが、兄・姉がいる末っ子。ヨシキくんは一人っ子です。
ノブヒコ:僕なあ、いつも考えてんねんけど、ミキオくんはいいなあ
ミキオ:なにがいいのよ?
ノブヒコ:兄ちゃんや姉ちゃんがあっていいなあ。僕、兄ちゃんや姉ちゃん欲しいと思う。一番上はイヤや
ミキオ:へえ、俺は一番上になりたいわ。なんで、一番下にならんといかんのや
ノブヒコ:一番上ゆうたらなんでもな、お母ちゃんが「兄ちゃんでしょ。あんたが悪いことしたら下のがみんなうつるんやから、ちゃんとしいや」って。なんでも俺よ。いっぺん下になりたいわ
ミキオ:それは違ってるよ。俺はいつも怒られてんねんで。「兄ちゃんみたいにちゃんとしたらどう?姉ちゃんみたいに整頓したらどう?あんただけできてない」。いつでも、兄ちゃん姉ちゃんと比べられて俺は怒られてばっかり。それともう一つなノブヒコくん、キミの持っているもの真っさらなものばっかりやないか。洋服かて、三輪車かて。俺の見てみ、みんな兄ちゃんの古やで。上になったほうが得やで、人間
自ら答えを見つけた子供たち
聞いていて面白かったですねえ。そうしたら、ヨシキくんが横から言いました。
ヨシキ:どっちでもええわい。俺は、兄ちゃんでも姉ちゃんでも弟でも妹でもいいんじゃ、もうひとりぐらいあったらいい
ノブヒコ&ミキオ:ウソ言え!俺ら、一人の方がずっとええわ。一人なら、三人で分けんでもええやない。なんでもしてもらえて、かわいがられて。ぜったい一人やで
ヨシキ:そんなことないって、俺の周りみんな大人やで。なんか言ったって聞いてくれへんもん。だから、きょうだいあったほうがええわ
すると、最後にノブヒコくんが言いました。
ノブヒコ:考えてみ、それぞれに「良い点」と「悪い点」がある
それを聞いて、私は吹き出したんです。
これは教える必要ないですね、結論を自分らで出している。ごちゃごちゃ言うけれども、それぞれに良い点と悪い点がある。それがわかったら、人の立場がわかるわけですからね。
「同じ親から生まれても違った人間」
私たちは怒るときに、「兄ちゃんらしくしなさい」とか、「兄ちゃんがちゃんとできてるのに、どうしてあなたはできないの」という言い方をします。これは余程気をつけないとね。こちらにしたら励ましているつもりなんです、「あんたは兄ちゃんだから」って。
でも、考えてみたら本人にしたら重荷になってくるわけですからね。こういう比較は、あまりきょうだいではやらない方がいいなと思います。
同じ親から生まれても、同じにはならないのです。違った人間なんですからね。
十人十色の魅力に気づいて
北村花絵アナウンサー:
きょうだい関係も十人十色。きょうだいのことは親も悩むことがありますが、子供自身もいろいろな思いを抱えながらがんばっているのだな、と気づかされます。
番組の中で、吉岡さんが「みかん」を例によく使う言葉があります。それは「早生(わせ)・旬・晩生(おくて)」です。
「どのみかんが良いとか悪いとかではない。早生は早生、晩生は晩生、それぞれの良さがある。人間にも、早生・旬・晩生がある。それぞれは優劣に関係ない」。
人間は、一人一人違っているのは当然なことです。きょうだいも同じじゃなくていい。その子の魅力に気づいてあげたいですね。
吉岡たすく:大阪で小学校の教諭・校長などを40年以上務める。幼児教育と童話を研究するかたわら執筆活動と全国各地での講演活動を続けた。番組開始当初からレギュラー講師を22年間務め、小学校教師の経験を元に独自の子育て論を展開。1998年に番組を降板し、2000年5月逝去。
※この記事は8月6日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。