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静岡県富士宮市出身の雷鵬。体格を理由に、角界挑戦をためらっていたなかで背中を押したのが、宮城野親方(元横綱・白鵬)だった。社会人から角界入りした異例の力士が、家族や地元の期待を背に、夢の関取を目指し日々稽古に励んでいる。
◆武器は俊敏さや技のキレ
すばやい動きで相手の懐に入り、大きな力士を押し出す小兵力士。富士宮市出身の雷鵬、本名・渡邉晋太郎だ。
6つの階級がある大相撲で、現在は上から3つ目の「幕下」。身長168cm体重102kgと小柄だが、体格のハンデを補う俊敏さや、技のキレなどを得意としている。
宮城野部屋・雷鵬:
春場所やっと幕下で勝ち越せて、しかも5番勝てたので、確実に力はついているなと実感はわいていますね。体は小さいので大きい相手の懐に入っていく相撲、入れなくても、横から横から攻めて、下から下から攻めてという感じです
◆元横綱の勧誘 社会人から角界入り
地元で盛んな相撲に中学生からのめり込んでいった雷鵬。学生相撲の強豪校で腕を磨き、学生日本一、軽量級の日本代表と輝かしいキャリアを残した。
ただ、小柄な体格が角界挑戦を躊躇させ、卒業後は接骨院やいちご農家などで仕事をしながらアマチュア相撲に身を置いてきた。
しかし、そんな彼に転機が訪れる。
少年相撲の大会で知り合った元横綱の白鵬・現 宮城野親方から「自分の部屋で挑戦しないか?」と、まさかの勧誘があった。2021年夏、憧れの世界に飛び込んだ。
◆兄弟子の背中を追い成長
雷鵬が門を叩いた宮城野部屋は元幕内の炎鵬関など、「小兵力士が成功する部屋」としても知られている。
宮城野部屋・炎鵬関:
雷鵬はセンスがあるので、イチかバチかみたいな相撲が多かったんですが、最近は力もついてきて、しっかり自分の形になって勝ち切れるようになってきました
徐々に階級を上げ、一人前の証とされる十両まで目前に迫った雷鵬。その要因の1つが、兄弟子・炎鵬関の身の回りの世話をする「付け人」になった事だという。
宮城野部屋・雷鵬:
炎鵬関に付け人としてつかせていただいて、ほとんど吸収させてもらっています。アップも真似していて、本当に調子がよくなってきた
宮城野部屋・炎鵬関:
上下関係はあるんですけど、でも飲みに行ったりすれば全然、普通です
雷鵬:
お兄ちゃんみたいな感じですね
◆課題克服へ 死に物狂いで
優しい性格の雷鵬を、特に気にかけてきた炎鵬関。だからこそ、勝負師に足りない点も分かっていた。
宮城野部屋・炎鵬関:
勝たないと生きていけない世界なので、勝ちということに対してもっと貪欲に、必死になっていったら、もっと番付が上がるんじゃないかなと思います
”死に物狂いで戦う”、そう自問自答しながら、自らの弱さと向き合ってきた。
悩みはほかにもある。
幼い頃から食べる事が苦手だった。体重はパワーの源、食事も稽古と捉え、努力をしなければならない。
宮城野部屋・雷鵬:
一度にたくさんの量を食べられないので、回数を分けてうまく工夫をして、食べられるようにしたら、体重が少しずつ増えてきました。今も1日5食くらい意識して食べています
◆家族そして地元が応援
実家は富士山本宮浅間大社近くで呉服店を営んでいる。店には息子を思う母の姿があった。
雷鵬の母・渡邉 朱美さん:
4人きょうだいで、お姉ちゃんが2人、あの子(雷鵬)、その下に妹がいて。1人だけ男の子で女の子に囲まれて育ってきたので、とても気持ちが優しくて、繊細な子でした
大相撲の世界に進んだ時には驚いたものの、今は応援してくれる人たちに毎場所、番付表を届けに行くのが楽しみになっている。
雷鵬の母・渡邉 朱美さん:
今まで応援してくれたり、お世話してくれたりした人たちの気持ちをすごく大事に思って、感謝しながら自分の相撲が取れるようにがんばってほしいと思います
家族、そして地元の期待を背負う雷鵬。目指す十両まではあと少しだ。
◆「恩返し」誓い続く挑戦
宮城野部屋・雷鵬:
やっぱり大変な世界だし、体小さいし、死んじゃうんじゃないかと言って、そんなやわじゃないよと見せられれば良いと思っています。みんなで応援してくれているみたいで、テレビの前で、早く十両になって恩返ししたいです
勝ち越すと意気込んで挑んだ夏場所だったが結果は3勝4敗と負け越し。雷鵬は「悔しくてたまらない、7月場所は必ず勝ち越す」と誓っていた。
体格のハンデを乗り越え、小兵力士が大柄な力士を破る!そんな痛快な取り組みを心に描きながら、雷鵬の挑戦は続く。