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「いつでも遊びに来て」と言われたので訪ねると、なぜか迷惑そう。日本人の本音と建前に悩んだ外国人教授が、日本で矛盾を感じたときにどう対処すればいいのか行き着いた考え方とは。
テレビ静岡で5月21日に放送されたテレビ寺子屋では、京都外国語大学教授のジェフ・バーグランドさんが、日本人とアメリカ人の考え方の違いを例に、矛盾との付き合い方について語りました。
「いつでも家に来て」 日本人の本音と建前
京都外国語大学教授・ジェフ・バーグランドさん:
「矛盾」とは何なのか、どう付き合ったらいいのか、「矛盾と共に生きる」というテーマでお話しします。
私が日本の矛盾の中で特に大変だと感じたのが、「本音」と「建前」です。
同志社大学に留学してすぐの頃、先生が京都を案内してくれました。バスに乗って街を一周していると、突然先生が、「向こうの青い瓦屋根の家が見えますか?私の家です」と言い、横に座っていた私に「いつでも遊びに来て」と言ったのです。
私の下宿がその近くで、後日散歩していると、青い瓦屋根の家に出くわしました。
「いつでも遊びに来て」と言われていたので、約束せずに突然訪ねました。「どうぞ上がってください」と言う先生の顔は、何だかうれしそうではありません。それでも私は家に上がりました。
専門的な話を聞いてあれこれ質問している間に、気付くと夕食の時間です。奥様が出てきて「夕食を一緒にいかがですか」と言うのですが、やはり一緒に食べてほしくなさそうな顔でした。でも、アメリカ人は「言葉」を信じます。
夕食を一緒に食べて下宿に帰りこのことを友人に話すと、「先生が『遊びに来て』と言ったのも、奥様が『夕食をご一緒に』と言ったのも建前。日本人は本音と建前があるから、言葉に出すことが本音とは限らない」と。
来日して間もない自分には、すごく大きな矛盾に感じました。
矛盾と戦うか、受け入れるか
私たちは生活の中で矛盾を感じたとき、どう解消したらよいのでしょうか。
いろいろな考え方がありますが、アメリカ人は「矛」の考え方なんです。「言葉」を使って矛盾をなくしていこうとします。職場や家族との間で矛盾を感じた時は、それを言葉にして、戦って、矛盾がなくなるようにする。
一方、日本人は言葉で人間同士の矛盾をなくしていこうというのではなくて、「盾」のように矛盾を受け入れる心が育つように思います。
日本の生活が長くなると、「日本式が好きだな。盾のように、矛盾を心の中に収めていこう」と思うようになりました。
でも、「矛」を出さないといけないこともあるのではないでしょうか。言葉にしてしっかりと矛盾を解消するということも大事だと思います。
「矛盾」と共に生きる
アメリカの神学者、ラインホールド・ニーバーの言葉「The Serenity Prayer(穏やかさの祈り)」を紹介します。
~神様 変えることのできるものについては 変えるだけの勇気を与えてください
変えることのできないものについて 受け入れる穏やかな心を与えてください
そして
変えることのできるものと変えることのできないもの
その区別がつく知恵を与えてください~
私は日本に来てからの生活が長くなり、結婚して50年が過ぎました。「矛」のように妻と言葉で戦って矛盾をなくしていこうというところから、言葉を使わず、ほとんど心の中に収めていく「盾」のような生活になりました。
でも、いまでも変えることができるものがあれば、変えないといけないという気持ちになります。
変えることができるものとできないもの、区別がつく知恵が欲しいですね。「盾」を使ったり「矛」を使ったりして、がんばって「矛盾」と共に生きていってください。
ジェフ・バーグランド:1949年米国生まれ。高校教師歴22年と、大学の指導では20年以上のキャリアを誇る。50年以上京都に住み、京都国際観光大使も務める。専門は観光と異文化コミュニケーション。
※この記事はテレビ静岡で2023年5月21日に放送された「テレビ寺子屋」をもとに作成しています。