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少子化が進む中、「子持ち様」という言葉に象徴される子育て世代への風当たりが強まっています。しかし、子育ての有無で争うのではなく、多様な生き方を認め合うことが大切だと専門家は言います。

テレビ静岡で2025年11月23日に放送されたテレビ寺子屋では、恵泉女学園大学の学長・大日向雅美さんが、誰もが生きやすい社会づくりについて語りました。
負担が「子育てのしづらさ」につながる
恵泉女学園大学 学長・大日向雅美さん:
いま、少子化が急速に進んでおり、昨年(2024年)の出生数・合計特殊出生率はともに過去最低となりました。第一次ベビーブームの時と比べて、出生数は約1/4にまで減少しています。

少子化が進んでいる理由のひとつが、人々のライフスタイルが大きく変化し、子育てがしづらい社会になったことです。
具体的には、子育ては長期間で、特に生まれてから数年間は夜泣きなどがあり、心理的、身体的な負担が大きいこと。働く女性や共働きが増えていて、仕事と子育てをバランスよくやるということが大変になっている。そして、子育てに関する経済的な負担も大きくなっています。

「子持ち様」という言葉が生まれる背景
そのようなことから、日本の社会は子供に、あるいは子供が育つことに対してやさしくないと言われています。
それを端的に表しているのが「子持ち様」という言葉です。子育て世代に対して主に職場で、「早く帰れて、休めていいね」そんな批判めいた思いを込めた言葉です。
では、そういった言葉をささやく人には、どんな思いがあるのでしょうか。みなさん、子育てを応援したいと思う気持ちはあるんです。

一方で、休む人がいると業務負担は増えますし、親や家族の介護をしている方、病気で通院しながら働いている方もいます。そうすると「どうして子育て中の人だけ優遇されるのか、不公平だ」という気持ちを持つ方もいるわけです。
子育て中の親が抱える複雑な気持ち
そんな風潮の中で、子育て中の親はどんな思いでいるのでしょうか。

多くの人が共通して言うのは「こんなはずじゃなかった」。子供が生まれれば幸せだと思っていたけれど、一人の時間もなく心身ともに追い込まれる。
育休が明けて職場に戻っても、子供のことで呼び出されたり、休んだりすると「仕事も、子育ても中途半端だ」と自分を責めてしまう。
また「迷惑だと思われているのではないか」と思うと、素直に助けを求めることや、感謝の言葉を伝えることができなくなる。そんな複雑な気持ちを抱えています。
多様な生き方を認め合う社会へ

「子育てをしているかいないか」で争っていても問題は解決しません。人が10人いれば、生き方も家族のあり方も違うわけですから、一番大事なのは、多様な生き方をみんなが理解し認め合うことです。
言葉を換えれば、すべての人が生きやすい社会。誰一人取り残さない、取り残されない社会を作っていくことが大切です。
では、「子持ち様」批判という現状をふまえ、私たちにできることはなんでしょうか。
職場では、多様化するライフスタイルに寄り添い、公平感を持てる環境をマネジメントしてほしいと思います。プライバシーに気をつけながら、働く人たちがお互いの「状況共有」をすることも大切です。

また、家庭や職場、社会で、「男女共同参画の一層の推進」が必要です。仕事は男性、家事は女性、といったジェンダーにとらわれず、夫婦で協力してバランスをとってほしいと思います。
そして最後に、地域のあり方です。「支え、支えられて、お互い様」。これは、私が子育てで大変だったときに、助けてくれたご近所の方の言葉です。
子育てが終わったら、今度は自分たちが次の子育て世代を支えていく。一人一人が抱えている大変さに対して、自分ができることをする。そうやって「地域共生社会」を皆さんと一緒に作っていけたらと思います。

大日向雅美:1950年生まれ。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。2016年、恵泉女学院大学学長に。専門は発達心理学。母親の育児ストレスや育児不安を研究。子育てひろばの施設長も務める。
※この記事は2025年11月23日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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