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和製英語と外来語の専門家・アン・クレシーニさんは25年以上日本に住み、日本国籍を取得しましたが、日本での子育てでは長女が生きづらさを感じていました。「外国人は英語を話す」、そんな無意識の偏見が人を傷つけることもあるのです。

テレビ静岡で2025年8月3日に放送されたテレビ寺子屋では、北九州市立大学准教授のアン・クレシーニさんが、「国際理解とアイデンティティ」をテーマに講演しました。
「日本語が上手ですね」に苦しんだ長女
北九州市立大学准教授・アン・クレシーニさん:
私は日本に住んで25年以上経ちますが、もともと日本が好きだったわけではなく、今の夫が日本で仕事をすることになったことがきっかけで来日しました。
でも、どんどん日本語や日本文化、日本の価値観が大好きになり、2023年に日本国籍を取得しました。申請はとても大変でしたが、日本人になった瞬間は間違いなく、人生で一番幸せな日でした。

最近では日本にも外国籍の住民や観光客が増えていて、どのように共に暮らしたらいいか改めて考える必要があります。
ここで大切なのが「アイデンティティ」です。この言葉の定義は「他人から推し量られたものではなく、自分自身という存在に対して自分で定義できる意識を保っているもの」つまり、自分自身で「Who am I? (私は何者か)」を決めることができるということです。
外国人や個性的な方、LGBTの方や障害のある方など、マイノリティ(=少数派)の立場に置かれると、自分のアイデンティティについて考える機会が多いのではないかと思います。

私には3人の娘がいますが、長女は特にアイデンティティについて悩みました。日本で生まれ育ち「自分のアイデンティティは日本人」だと思っているのに、見た目の違いから「日本語が上手ですね」と言われることが重なりました。
その度に自分が「日本人ではない」と言われているように感じ、日本が生きづらいと思うようになりました。アメリカへ留学し、そこでも言語や文化の壁に悩みましたが、今では自分らしさを少しずつ見つけています。
誰もが持っている「無意識の偏見」とは
どうしたら誰もが生きやすい社会にできるのか。そこには2つの条件があると思います。
1つめは「自分を受け入れる」こと。「みんなと違っていても、この自分でいい」と思える自己肯定感を持つ。

そして、2つめは「その自分をありのまま周りに受け入れてもらえる」こと。
それを妨げるのが「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」で、「社長は男性」「外国人は英語を話す」といったものです。この無意識の偏見は誰もが持っていて、気を付けないと「思い込み」や「決めつけ」につながり、悪気がなくても相手を傷つけてしまうことがあります。

例えば、私の娘に「日本語が上手ですね」と周りの人が言ったのはむしろ褒めていたのですが、娘はそう言われることで生きにくさを感じたのです。
見た目だけで「外国人だ」と判断しない
日本は本当に暮らしやすく、素晴らしい国だと思います。もう一歩踏み出し、周りの人への関心と敬意を持つことで、さらに多様な人たちが「暮らしやすく生きやすい」と感じられる社会を作ることができます。
見た目だけで「外国人だ」「英語を話すだろう」と判断せず、その人の背景や言葉、育ちに関心を持ち尊重する。違いを怖がるのではなく、受け入れて理解するという姿勢を大切にすることで、相手を知りたいという気持ちが伝わるはずです。

アン・クレシーニ:1974年米国生まれ。97年来日、2003年から大学の教壇に立つ。専門は和製英語と外来語。日本文化と日本語をこよなく愛する。2023年、日本国籍を取得。三姉妹の母。
※この記事は2025年8月3日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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