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チベット出身女性が日本の大学院で経験した「壁」 支えてくれた仲間【テレビ寺子屋】

人生は困難と挫折の連続。故郷チベットで子供の教育活動をしている遊牧民出身の女性が、日本の大学院に入り壁にぶつかりました。不登校気味になった女性を励ましてくれたのは、共に学ぶ仲間でした。

2月11日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋

2月11日に放送されたテレビ寺子屋では、チベット声楽家のバイマーヤンジンさんが、いま通っている大学院で壁にぶつかり、不登校気味になった経験を語りました。

貧しい遊牧民の家に生まれて

チベット声楽家・バイマーヤンジンさん:
私はいま大学院に通い「教育社会学」について学んでいます。これまで故郷のチベットで学校を建設し、奨学金支援をしてきました。しかし、住んでいる場所や経済状況、親の価値観などによって学校に通えない子はまだいっぱいいます。

馬に乗り7時間かけて始業式にやってきたチベットの子供たち(画像提供:バイマーヤンジンさん)
馬に乗り7時間かけて始業式にやってきたチベットの子供たち(画像提供:バイマーヤンジンさん)

そういう子供たちにも教育の機会を届けるためには社会や教育制度を変えることが必要で、そのための知識を身につけたいと思いました。

私はチベット奥地の草原地帯の生まれで、親は遊牧民で字が読めません。

チベットの両親と(画像提供:バイマーヤンジンさん)
チベットの両親と(画像提供:バイマーヤンジンさん)

本当に貧しく苦労しましたが、家族のおかげで私は学校に通うことができました。一生懸命努力して、立てた目標はずっと達成してきました。努力は絶対に報われると強く信じています。

想像していなかった「壁」

勉強することが大好きで、結婚を機に来日してからも「日本の大学でもう一度勉強したい」とずっと思っていました。その夢を実現するためいくつかの大学を訪ねると、外国人は日本語能力試験の証明書が必要で、さらに英語力も大事だと言われました。

30年ぶりに英語の勉強をし、英検2級に挑むも人生で初めて試験に失敗しました。日本語能力試験1級もいろいろあって3年かかってしまいましたが、なんとか大学院に研究生として入学することができたのです。

とても嬉しく「これから夢いっぱいに頑張ろう」と思ったら、そこには想像もしない壁が立ちはだかっていました。

私の研究計画を見た教授から「ヤンジンさん、『勉強』と『研究』の違いは分かっていますか?」と聞かれたのです。私はわけがわからず、頭が真っ白になりました。他の人にも見てもらったら、「論文に『情』はいりません。これはこうだと証明するものです」と言われました。

一生懸命情熱を込めて書いたのに、「情」はいらないなんて。志も自尊心もボロボロになりかけました。

不登校時に励ましてくれた仲間

「30年間の社会経験があっても、学問の世界は論述や知識がなければなにも役に立たない。もうやめておこうかな」と思い、しばらく不登校気味になってしまったのです。

でも同じ研究室に年齢が近い女性がいて、ありがたいことに毎日のように連絡があり、「私も最初は大変だった、一緒に頑張ろう」と励ましてくれました。

勇気を振り絞って大学に行くと、教室に入った瞬間に彼女が、「ヤンジンさん来てくれた、よかった」と言って、私の手を握り涙を流して喜んでくれました。私を待っていてくれる人がいる、共に学ぶ仲間がいる。私も涙があふれ、そこからまた頑張るようになりました。

いまはまだ知識を学ぶよりも、人として修業をしているような気がしていますが、それでもちょっとずつ自分が成長していくのを感じると嬉しく思います。「困難」と「挫折」が人間にとってどれほど大切なものかが分かりました。

学び続けることで人間は成長し、いろんな目線で物事を見られるようになります。困難に直面している子供たちの心境を少しでも理解できるようになり、優しく応援できたらいいなと思っています。

バイマーヤンジンさんとチベットの子供(画像提供:バイマーヤンジンさん)
バイマーヤンジンさんとチベットの子供(画像提供:バイマーヤンジンさん)

チベット・アムド地方出身。名前はチベット語で「蓮の花にのった音楽の神様」の意味。中国国立四川音楽大学卒業。1994年来日後、全国でコンサートや講演を行い、チベットの学校建設にも力を注いでいる。

※この記事は2月11日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。

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