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【静岡県知事選】県が抱える懸案に対する考え方は?立候補予定者や支援体制について整理 投開票まで1カ月

静岡県庁

静岡県・川勝平太 知事の辞職に伴い、5月26日に投開票が行われる県知事選挙までちょうど1カ月となった。告示までは2週間を切り、構図もほぼ固まりつつある中、改めて立候補予定者や支援体制について整理する。

川勝知事との“因縁”を持つ大村慎一 氏

大村慎一 氏(60)

川勝知事が突如として辞意を表明してからわずか6日後の4月8日。

知事選への立候補を誰よりも早く表明したのが大村慎一 氏(60)だ。

静岡市出身の大村氏は静岡高校・東京大学を経て自治省(当時)に入省した元総務官僚で、静岡県庁への出向経験もある。

ただ、2010年1月から2011年12月には川勝知事のもとで副知事を務めていたことから、“傀儡”と揶揄する声も散見される。しかし、その指摘は当たらないだろう。

というのも、当時を知る県議会議員や県職員によれば、自らの言動や行動を諫める大村氏を煩わしく思った川勝知事が、副知事の任期を半分残した状態で総務省へと“返してしまった”というのが県庁内の公然の秘密として知られているからだ。

だからとも言うべきか、大村氏は8日の立候補表明の際に「私が取り組みたいのは“県政の立て直し”。その1点」と暗に川勝県政の“崩壊”を示唆した上で、「私が長年培ってきた地方行政での経験を、この状況での県政の立て直し・再構築に役立てることが出来るのではないか」と訴えた。

過去にも立候補を検討した鈴木康友 氏

鈴木康友 氏(66)

一方、大村氏の立候補表明から遅れること1週間。知事候補に名乗りを上げたのが鈴木康友 氏(66)だ。

鈴木氏は浜松市の出身で、浜松北高・慶應義塾大学を経て、松下政経塾に入塾。同期には野田佳彦 元首相などがおり、衆議院議員を2期務めた後、2007年には浜松市長に初当選。

以降、4期16年にわたって県下最大の都市を治めたが、知事選に関して鈴木氏の名前が取り沙汰されるのは、これが初めてではない。

遡ること3年。川勝知事が4期目を目指すことが明らかになる中、県西部の経済界の後押しを受ける形で鈴木氏も立候補に意欲を燃やした。

ところが、自身にとって最大の支援者である自動車メーカー・スズキの鈴木修 会長(当時)の理解が得られず、最後は異例の“不出馬”会見を開き「(浜松市長の)後継が空白のままで立候補することも考えられず、私はしっかり任期を全うし市長の責務を果たす」と述べている。

今回、川勝知事の辞職によって降ってわいたチャンスに、鈴木氏は「もう一度原点に立ち戻り『やります』の精神で県政の舵取りをしていきたい」と口にした。

地域事情も相まって支援体制は混沌

1947年に地方自治法が施行され、県知事が選挙で決められるようになって77年が経つ。この間、静岡では7人の知事が誕生しているものの、不思議なことに県庁所在地である静岡市と人口規模が最も大きい浜松市の出身者は1人もいない。

それだけに静岡市と浜松市の経済界にとっては“地元”から知事を誕生させるまたとない機会であり、静岡市の経済界は大村氏の、浜松市の経済界は鈴木氏の後ろ盾となっている。

だが、この状況が各政党・団体の判断を難しくさせた。

自民党県連は4月22日に開かれた総務会で大村氏への推薦を“全会一致”で決めたが、それを前に県内に67ある地域支部のうち、鈴木氏のお膝元である浜松中央支部と浜名支部から“自主投票”を念頭に「特殊事情を考慮して欲しい」と要望する声が出ていたのは事実だ。

だからこそ、城内実 県連会長は総務会の終了後、「組織なので一致団結して、決まった以上、大村氏の当選を期すべくしっかりと後援会活動をするのが組織としてのあるべき姿」と釘をさした。

にも関わらず、浜松中央支部に所属する市議団は4月23日に鈴木氏を支援することを決めたほか、浜名支部も自主投票とする方針を決定。

国政では自民党と連立政権を組む公明党の県本部も対応に苦慮している。

4月20日の幹事会では「地域や総支部の考えに差がある」ことから方針がまとまらず、24日に再度協議の場が設定された。

しかし、23日の夕方になって突如として「党内手続き日程の都合上」を理由に延期が決定。同日には磐田市や掛川市などを地盤とする自民党の宮澤博行 衆議院議員が自身の不祥事に関して責任を取る形で辞職願を提出していることから、何らかの影響があった可能性もある。

他方、野党も足並みがそろっているとは言いがたい。

立憲民主党県連と国民民主党県連を支援する連合静岡は、4月17日の執行委員会において“全会一致”で鈴木氏の推薦を決めたが、関係者によれば一部の労働組合は鈴木氏への推薦に否定的で、賛成は渋々だったという。

連合静岡の方針を受け、立憲民主党と国民民主党はいずれも鈴木氏への推薦を決めているが、立憲民主党県連の中には大村氏支持を主張した議員もいる。

また、連合静岡から推薦を得ている議員11人が所属し、これまで川勝知事を支えてきた県議会の第2会派・ふじのくに県民クラブは当初、大村氏支持を主張する意見と鈴木氏支持を主張する意見とで真っ二つに割れていた。

最終的には「地域主権に対する鈴木氏の考え方が会派の綱領に近かった」として、4月17日の議員総会を経て鈴木氏を支援することが決まったものの、最後まで大村氏への支援を望んだ議員が複数人いたほか、鈴木氏への支援について賛否を留保した議員もいたといい、ある所属議員は「会派の会長がスズキ労組の出身で、選対本部長が鈴木氏の元秘書なのだから、途中でどんな議論が行われようと最初から答えが決まっていたようなもの」と苦笑した。

このため、ふじのくに県民クラブでは会派として鈴木氏を支援するものの、「議員個々の活動を制限するものではない」という方針も伝えられているそうだ。

県が抱える懸案への考え方は?

このように双方ともに支援体制が固まっているように見えながら内実では混沌としている部分もある中、注目されるのがそれぞれの政策であるが、懸案となっている県の課題に目を向けると2人の考えに大きな差を感じない部分も多い。

例えば、いまだ静岡工区が着工に至っていないリニア中央新幹線については、いずれも“推進”の立場を明確にし、大村氏は「いま抱えている問題は点検・確認をして、大井川流域市町の意見を踏まえた上で前に進めていく」と、鈴木氏は「環境と両立し、いつまでも問題を引きずるのではなくゴールを定めて進める」と話している。

停止から13年が経とうとしている浜岡原子力発電所(御前崎市)の再稼働への考え方に関しても、大村氏が「県民の安全確保が議論のスタート」との見解を示せば、鈴木氏も「原子力規制委員会の判断を待つ」とのスタンスで、共に安全面を重要視する姿勢に変わりはない。

そうした中で両者の主張に明確な違いが見えたのが、県がドーム化も視野に建設を計画している浜松市の新野球場をめぐる問題だ。

大村氏は、浜松市営球場が老朽化していることから「新しくしたいという声は当然だと思う」と理解を示しつつ、「ドーム案をやみくもに進めるのではなく地域の要望や県の財政を踏まえて進めることが重要」を話す。

これに対し、鈴木氏は開放型ドームの推進を打ち出し、「ドーム化自体に費用がかかるのではなく、客席規模が影響する。開放型にして風を上手く取り込む形にすれば空調設備もいらなくなり、メンテナンス費もコストダウンできる」と私案を披露した。

さらに川勝県政の評価をめぐっても温度差があり、大村氏が対立と分断を生んだことを理由に「根本的に見直す」と口にした一方、鈴木氏は「発信力の高さ」を評価した上で産業政策に物足らなさを感じていたことを明らかにしている。

告示まで2週間…共産党も候補者擁立

森大介 氏(55)

こうした中、告示まで2週間となった4月25日。

共産党県委員会は知事選に向け党県委員長の森大介 氏(55)を公認候補として擁立すると発表した。

森氏は藤枝市出身で、党の機関紙「赤旗」の記者や党県書記長などを経て、山村糸子 前委員長の逝去に伴い、2024年4月から党県委員長に就いている。

会見では、立候補を決意した理由について「有権者の最大の関心事であるリニア建設の問題と浜岡原発の再稼働の問題で『ノー』の審判を下し、県民の命と暮らしを守り希望の持てる県政を実現したい」と説明し、「リニアと原発はいずれも政策的に破綻している。これらを国や大企業の言いなりで続けることは、県民の命と暮らし、そして将来を脅かす負の遺産となりかねない」と、リニア中央新幹線の建設反対や浜岡原発の再稼働反対などを軸に選挙戦を展開していく考えを明らかにした。

加えて浜松市の新野球場建設についても反対の立場をとり、大村氏・鈴木氏と主張の違いを明確にしている。

川勝知事が立候補を否定していることから、静岡にとっては15年ぶりとなる知事の交代。

1カ月後の5月26日はどのような結末が待っているだろうか。

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