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【掛川・阿波々神社】謎多き山へようこそ「地獄の穴」もある粟ヶ岳の神域

静岡・掛川市の粟ヶ岳にある阿波々神社(あわわじんじゃ)には「鐘をつくと地獄行き」という恐い伝説があり、「地獄の穴」まであります。怖いけれど知ったら行きたくなること間違いなしの神社でした!

※地獄にまつわる伝説は神仏習合だった時代のものです。

【画像】粟ヶ岳で出会ったカモシカなど記事中に掲載していない画像も!

「茶」の文字の山

掛川市の東山地区にあり、ヒノキの立木で作られた「茶」の文字が遠くからでも見える山が粟ヶ岳です。

昔は海からでも見えるので漁師の目印とされていたそうです。

山頂には阿波々神社があり、片道約1~2時間のハイキングコースを歩くか、車でも行くことができます。

ヒノキの立木でつくった「茶」の文字

ここに“地獄の入口”があったと知らずに登っている人も現代では多いようですが、昔の人達は地獄とつながっていると知っていても、こぞって登りに来ていたそう。

粟ヶ岳と地獄とのつながりを、宮司に聞いてみたいと思います。

奈良時代から続く女神様の神社

阿波々神社(掛川市初馬)

阿波々神社の歴史は古く、最古の記録によると奈良時代、天平8年(西暦736年)創建と伝えられています。平安時代の法典・延喜式神明帳にも載っています。

神社は戦国時代に兵火に焼かれ記録はほとんど残っていませんが、人から人に伝えられてきた伝説や逸話が残っています。そんな貴重な情報を持っているのが、若森家の16代目宮司となる若森幸雄さん。いわば“粟ヶ岳の神域の案内人”です。

宮司の若森幸雄さん

祭られているのは阿波比賣命(あわひめのみこと)という女神で、主に生産、子授、安産成就の神として信仰されています。

主祭神が阿波比賣命なのは、県内では阿波々神社のみという、貴重な神社でもあります。

鐘をついたら地獄行き!?

粟ヶ岳は、歌川広重の東海道五十三次の中山峠から見た浮世絵に登場します。

松尾芭蕉の句碑も境内にあり、文化人も題材にするほど有名な山でした。他にも石川依平という掛川出身の歌人の歌碑があります。

阿波々神社・若森幸雄 宮司:
鐘の話は歌舞伎の演目にもなっています。それくらい昔の人々にとって有名な話であったかもしれません

境内にある松尾芭蕉の句碑

宮司が言う「鐘」こそが、山と地獄とを結びつける伝説です。

かつて粟ヶ岳には、阿波々神社の他に「観音寺」というお寺がすぐそばにありました。今は廃寺となりましたが、そのお寺が所有していた鐘が地獄にまつわる伝説に出てくる「無間の鐘」です。

無間の鐘が埋められているという井戸への案内板

「無間の鐘」は、本殿裏にある「無間の井戸」に埋められていると言われています。

この鐘をつくと今世では大富豪になり、一方で死後は無間地獄に落ちると言われています。

鐘を見て見たい、ついてみたいと思うかもしれませんが、昔の住職が山頂にあった井戸に投げ入れ、その鐘を埋めてしまいました。なので、今は鐘を見ることもつくこともできません。

しかし、鐘が埋められたという井戸の跡は見ることができます。しかも井戸の穴はのぞけるし、お賽銭を落としてしまったら鐘に当たってしまうのではないかと少し不安になります。

鐘が井戸に埋められた理由は、あまりにもこの鐘をつきたくて昼夜問わず登ってくる人たちが多く、足を滑らせ転げて命を落とす人も少なくなく、見かねた住職が鐘をつけないようにしたと言われています。

住職からしたら、人々の煩悩を落ち着かせるにはこうするしかなかったかもしれませんね。

この伝説は江戸時代に旧東海道を行き交う人々に知れ渡っていた話だそうで、鐘が埋められたのはそれよりもずっと前ということになります。それにしても地獄に落ちてもいいから今世で幸せになりたいとは、どんなご時世だったのでしょうか。この説話は「遠州七不思議」の一つとされています。

指さした真っ暗な隙間は「地獄の入口」

ここからがさらにドキドキ、宮司に案内され本殿を下り森の中へ。3分くらい歩くと木々の間に巨大な岩がいつくかあります。

その巨大な岩と岩の隙間が「地獄の入口」だと神仏習合時代は信じられていました。

指した先には地獄を想像してしまう真っ暗な穴が

その隙間は、宮司が教えてくれなければ気づかなそうです。のぞき込むと奥は暗くて見えずドキドキ、地獄を想像してしまいます。

静まり返った森の中、背の高い木々と巨大な岩。やはりここは別世界かもしれないと思いました。

地獄の穴のそばには石の鳥居があります。木が生い茂っているので少しわかりづらいですが、上には磐座(いわくら・信仰の対象となる岩)の跡があります。

磐座跡前の鳥居

本殿ができる前は磐座がご神体だったため、鳥居の奥は神域として立ち入り禁止でした。

現在は本殿があるため鳥居の中に入れますが、ここは磐座の跡という特別な場所なので、今も鳥居が立っています。

お願いごとはほどほどに

今では無間の井戸はパワースポットとなっています。絵馬に願い事を書いたら、井戸の周囲にかけることができます。

お願いごとをするのも少し恐い気持ちになっていましたが、伝説になるくらいパワーがあるので、そのパワーをほどほどに、控えめにもらえばいいと若森宮司は言います。

阿波々神社・若森幸雄 宮司:
そもそも地獄の存在は、仏教の考え方。悪いことや仏道に反したことをしたら地獄に落ちますが、神道にはその考え方はありません。人が悪いと言うより、悪いものが付いていたという考え方です。悪いことをしたら付いた「穢れ」を清めれば、正しい人間に戻れます。ただ悪事を重ねた場合は、元に戻すのは簡単ではないと思われます

無間の井戸の周囲は絵馬がかけられる

絵馬に描かれた「鷽鳥(ウソドリ)」は春に粟々岳で見られる小鳥です。鷽鳥の大群が太宰府天満宮の災難を救った故事から災難・凶事を嘘にして良きことに取りかえる神事を「ウソ替神事」と言います。

絵馬は「悪しきこと ウソのごとくに トリかえん」と韻を踏みながら穢れを払ってくれます。

阿波々神社の絵馬

本殿の裏には、八重垣神社、白羽神社、八王子神社のご分霊があります。

八重垣神社には、ヤマタノオロチの退治で有名な素戔嗚尊(すさのおのみこと)と櫛稲田姫(くしなだひめ)の夫婦の神が縁結びの神として主に祭られています。恋愛成就の祈願はぜひここへ。

阿波々神社・若森幸雄 宮司:
白羽神社は漁業繁栄など漁師からの信仰が厚い神社で、海から見て目印となる粟ヶ岳にも御分霊があります。八王子神社は八つの神様の祠ですが、資料が残っておらず謎も多いです。いずれにしても八百万の神様をあがめる日本では、祠がなくても木や岩など、それぞれに神が宿っていると考えています。もちろん道中の森の中にも神が宿っています

恐さと不思議なパワーが同居する山

お守りもお忘れなく

粟ヶ岳へは国道一号線バイパス沿いの「道の駅 掛川」から北に向かい、お茶などの販売施設「東山いっぷく処」そばから山頂に登ることができます。

車道は長くて狭くてくねくねです。すれ違いは運転初心者や大型車だと大変かもしれません。

東山いっぷく処のそばを通らない道は危険なので、避けた方がほうがいいでしょう。

そして筆者も遭遇しましたが、たまにカモシカなど野生動物に遭遇することも。ハイキングコースで登る方は、森林浴と茶畑の絶景を楽しんでください。

地獄の中でも最も悪い事をした人が行くと言われる「無間地獄」。まだまだ謎が多いので、また調べたいと思います!

■施設名 阿波々神社
■場所  静岡県掛川市初馬5419
■問合せ 0537-27-1089
■社務時間 10:00~16:00

【詳しく見る】阿波々神社のホームページ

取材/麻衣子

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静岡生まれ静岡育ち。 学芸員目指して勉強中。神社仏閣巡りが好き。 主に静岡県中部エリアの情報発信をしていきます。
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