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書家で詩人の相田みつをはどんな人生観で数々の感動を与える言葉を生み出していたのでしょうか。息子の一人さんは、書の道を歩むと決めた父の意志がわかる、漢字ばかりの“異色作”があると語ります。
テレビ静岡で4月21日に放送された「テレビ寺子屋」では相田みつをの長男で、相田みつを美術館館長の相田一人さんが父の生き方について語りました。
「目的」という言葉は使わない
相田みつを美術館館長・相田一人さん:
父・相田みつをが晩年に残した「人生の的」という書があります。
「ふたつあったらまようよ ひとつならまよいようがない 人生の的はひとつがいい」
父は、67年の生涯の中で多くの作品を残しました。その作品には「出逢い」や「自分」などくり返し出てくる言葉がある一方で、一回も出てこない言葉があります。「目的」や「目標」です。代わりに使ったのが、この「的」という言葉です。
なぜ「目的」とか「目標」を使わなかったのかと考えますと、父の青春時代の戦争体験が背景にあるような気がします。目的とか目標という言葉は、「頑張れ」とか「頑張ろう」という言葉と結びつきやすいですよね。
戦争中の日本は勝たなくちゃいけない、頑張らないといけないということで、いろんな標語や掛け声が飛び交っていたと思います。父はそういうものに強制的なニュアンスを感じて反発心があり、「的」という言葉しか使わなかったのではないかと考えています。
本当は進みたかった絵の道
「人生の的」という作品の最後は、「人生の的はひとつがいい」と、言い切っています。父がこういう断定的な言い方をする時は、全部自分に向けて書いている時です。
父は旧制中学時代、熱中したものがいろいろありました。ひとつは「短歌」です。そして「絵」。絵心があり、状況が許すならば絵画の道に進みたかったようです。
あともうひとつが「書」、その頃から自分なりに本格的に書を学んでいました。その他にもいろいろ熱中するものがあり、なかなか的がしぼり切れませんでした。でも、最終的には「書家・詩人」という独特な道を歩んだ、的をしぼりました。
その父が晩年に人生を振り返り、「ふたつあったら迷っちゃう、人生の的はやっぱりひとつじゃないとダメなんだ」と自分自身に言い聞かせているわけです。この作品はそんなに知られていませんが、意外と重要な作品なのではないかと思います。
父の人生観がわかる「異色作」
では、具体的に目指していた「父の人生の的」は一体何だったのか。ズバリこれだったのではないかという作品があります。相田みつをと言うと、ひらがな中心でどの言葉も優しく、誰でも読める文字なのですが、これは漢詩ではないかと思うぐらいちょっと異色の作品です。
「一生燃焼 一生感動 一生不悟」
父は、わかりにくい言葉かもしれないので、後ろから読んだ方が意味は取りやすいと言っていました。「一生不悟」というのは一生悟らずという意味だと思います。一生何かに感動し、一生自分の命を燃焼していければ、悟れなくたって自分はいいんだ。
つまり「生涯円熟なんかしなくたっていい」、その代わりに「常に見た人に感動と自分の命の燃焼を伝えられるような、そういうものを書き続けていきたい」という思いが父の中にはあったのではないかと、息子の私は考えています。
相田一人:1955年栃木県生まれ。相田みつをの長男。1996年から相田みつを美術館の館長を務める。全国各地での講演活動や執筆活動などを行う。2024年、相田みつを生誕100年を迎えた。
※この記事は4月21日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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