目次
親も子も思い出があり、処分しにくい子供服をひな人形にするサービスを静岡市の老舗人形店が始めた。子供と一緒に作ることで成長しても親子でずっと語り合えるかもしれない。魅力的なサービスとはどのようなものなのだろうか。
思い出の服をひな人形に
静岡市葵区にある老舗人形店「人形工房 左京」。
1923年からひな人形や節句人形の製作・販売を続け、2023年で創業100年を迎えたこの歴史ある人形工房が、2024年から新しく「きおくひとえ」というひな人形の製作を始めることにした。子供の頃の記憶を込めた十二単(じゅうにひとえ)ならぬ、“記憶ひとえ”だ。
「きおくひとえ」のひな人形は伝統的な人形と何が違うのか?
そのヒントは衣装にある。人形の衣装をよく見てみると”かわいらしいクマ”柄も…。
大きくなって使えなくなった子供服や、少し汚れていて譲ることもできず、捨てるのも もったいない服を使い、新しいひな人形を作るサービスだ。
生まれた時に着ていたおくるみやお気に入りで毎日のように着ていたベビー服など、親も子もたくさんの思い出があり、処分しにくい服をひな人形に生まれ変わらせる。
子供と一緒に作る
2024年1月、横浜市に住む家族が「きおくひとえ」のサービスの体験に訪れていた。
4歳と5歳になった2人の娘たちにひな人形を贈ろうと、子供たちの成長とともに着られなくなった子供服 約20着を持参した。
母親は「これは私も娘も大好きなブランドの洋服で、赤ちゃんの頃からずっと着ていてすごく思い入れがあります」と話してくれた。
家族と人形職人が服の色合いや素材を見ながら、生地を使う場所や重ねる順番を話し合って決めていく。店で展示されていた紫とピンクのひな人形を子供たちがとても気に入っていたことも取り入れる。子供たちがお揃いで着ていた花柄のブラウスや家族旅行で着たチェック柄のワンピースなどを選んだほか、大好きな虹色のチュニックも入れてみることに。
オプションで人形の顔も好きなものを選ぶことができる。
サービスを体験した客:
ただ購入するだけではなく、子供と一緒に作る過程があるので絶対に思い出に残り、将来一緒に「この時に着た服だね」と語り合えて愛着が湧くと思う。それが一番魅力的だと思いました
職人が感じる責任感
ひな人形を製作している工房では、選んだ子供服はまず衣装の型通りに裁断していく。
柄物はどの部分を活かすのか、職人のセンスが光る。
そして、裁断した生地はワラでできた芯に1枚ずつ丁寧に織り込まれていく。
人形職人見習い・高田ひかるさん:
(子供服を)触るとすごくフワフワしていて、一方で生地の量が限られているのでいつもより生地を扱う責任感をより強く感じます
老舗の人形工房がこのサービスを始めた背景には近年の人形業界をめぐる厳しい状況がある。経済産業省によると、節句人形とひな人形の出荷額は2002年には約128億円だったが、2022年は約77億円にまで減少している。
人形工房 左京の望月琢矢 専務は「少子化や生活の多様化で、ひな人形が毎年少しずつ皆さんの生活の中から遠ざかってしまっている」と厳しい状況を嘆く。
廃棄できないモノをさらに良いモノに
こうした中、左京はファッションの流行に合わせたモダンな衣装の製作など新しい取り組みにも力を入れていて、今回はそこにSDGsの要素も取り入れようと子供服の再利用に乗り出した。
人形工房 左京・望月琢矢 専務:
廃棄できないが、その人にはとても価値のあるものを「アップサイクル」という形でさらに良いものに完成させる。ひな人形を作っている者のSDGsに対する最適解の1つになったと思います
横浜から来た家族のために出来上がったひな人形は計10着の子供服を使い、お雛様とお内裏様の色合いを合わせ、虹色のグラデーションも自然に溶け込んだ優しい仕上がりとなった。
伝統を残しつつ子供への思いを形としても残せる新しい時代のひな人形は人形業界に新たな風を吹き込むだろう。
「きおくひとえ」は事前の申し込みが必要で、受付期間は2月20日から3月10日まで「人形工房 左京」のホームページで申し込みができる。価格は25万円(税込)。30組限定の抽選販売で、製作期間は約4カ月から6カ月程度とのことだ。
【もっと見る! ひな人形の記事】