目次
2023年の静岡県内の主なニュースを振り返る「2023静岡の軌跡」。2回目は土石流に襲われた熱海市の被災地のこの1年だ。立ち入りが制限されていた警戒区域が9月に約2年ぶりに解除されたが、自宅に戻ることができた世帯は2割にも満たない。進まぬ復旧に不満を募らせる被災者もいる。
発生2年半 98人が今も避難生活
2021年7月に発生した熱海市の土石流災害。
災害関連死を含め28人が犠牲になった。建物も全壊75棟を含む136棟が被害を受けた。
2023年9月。発生から2年2カ月ぶりに立ち入りを制限する警戒区域が解除された。
11月末までに10世帯21人が警戒区域内にあった自宅に戻った。しかし、55世帯98人は避難生活を続けている。自宅に戻ることができた世帯は2割にも満たない。
「帰らないといけない」
土石流によって自宅が全壊した徐浩予(じょ・こうよ)さん。今も避難生活を続けている1人だ。
被災直後からボランティア活動などに積極的に取り組み、2023年10月には熱海市内に中国の食品を扱う物産店を開業した。
いずれは旅館の開業も目指したいと話す徐さん。自宅があった伊豆山に戻ることを切望している。
徐浩予さん:
(自宅には)すぐは帰れない状態で避難生活続けます。あと1年か2年か3年か全然わからない。でも、絶対また戻りたい。あそこは私の第2の故郷だと思う。帰らないといけない気持ちがある
自宅は手放すが伊豆山に住み続ける
一方、削り節店を営む小澤昭治さんは40年以上暮らした自宅を手放す事を決めた。
あの日 小澤さんの家の前に土砂が押し寄せ道を塞がれた。家族5人で崖をよじ登って避難。よう壁を2段、3段と伝って神社の階段にたどり着き、5人で命からがら逃げたという。
土石流によって冷蔵庫に保管していた鰹節などの原料はすべて廃棄。警戒区域の中にある自宅は手入れができず、老朽化が急激に進んだ。
生まれも育ちも伊豆山の小澤さんはこの家を手放し、同じ伊豆山地区の古民家に引っ越すことを決断した。
小澤昭治さん:
私は伊豆山が好き。(地域で)いろいろな役を頼まれると引き受けて、いくつも役をやっている。伊豆山地区に住んでいたいという気持ちはずっと同じですね
進まぬ復旧に「なんか違う気がする」
戻り始めた住民がいる一方、被災地を流れる逢初川の改修や道路整備は進んでいない。
必要な用地買収は約5割に留まり、静岡県と熱海市はエリア別に説明会を開き理解を求めてきた。
被災者・田中公一さん:
もっと早い時期にこういう説明会をやってくれれば、(今頃は市と被災者の)話し合いができていると思うのだけど
被災者・川口勝美さん:
行政はお願いばかり。そうじゃなくて、こっち(被災者)がお願いしたいのだと。なんか違う気がする。こっちにしてみれば気持ちもついていかないし、先立つものはない。(市は)簡単に「本当に帰ってくる気があるのか」ということを平気で言うから、そうじゃないだろうと。その辺が不満に思いましたね
被災者からは、進まない復旧工事へのいら立ちや対応への不満も聞かれた。
市長「ようやくスタートライン」
今後について市長はどう考えているのだろうか。
熱海市・斎藤栄 市長:
2023年9月1日に警戒区域が解除されて、自由に出入りができるようになった。これから本格的な土木工事もようやくできるような段階になった。警戒区域解除が大きな要因だと思う。復興に向けての本格的なスタートラインにようやく立ったというのが、率直な所感です
土石流災害から間もなく2年半。用地買収や被災者の生活再建など課題は山積みだ。
変わらない被災地の風景を変えていくために、行政には迅速な実行力が求められている。
【もっと見る! 熱海土石流に関する記事】