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90代夫婦が土石流被災地で再出発 819日ぶりの自宅にも喜び控えめ 帰還第一陣は6世帯のみ 静岡

28人が死亡した静岡県熱海市の土石流災害は、2023年9月に立入禁止区域が解除された。90代の夫婦が819日ぶりに自宅に戻ったが「自分だけ手放しで喜ぶわけにはいかない」と喜びは控えめだ。被災124世帯のうち9月末までに戻れたのはわずか6世帯で、ほとんどが避難生活を続けている。

山津波が盛り上がって…自宅は半壊

引っ越しをする小松さん(2023年9月)

2023年9月29日、熱海市伊豆山の警戒区域にあった住宅で引っ越しが行われた。
この日から生まれ育った自宅で2年ぶりに生活を始めたのは、小松昭一さん(91)だ。

土石流で被災した小松さん宅(2021年7月)

自宅は土石流で柱や外壁が損傷し「半壊」と判定された。当時の様子を小松さんは「外に出たら上から山津波ですよ。ダーと盛り上がってきて、もう家のすぐそこまで来た」と振り返る。隣の家が土石流に押された影響で、小松さんの家も柱や外壁が損傷した。

土石流が流れ下った伊豆山地区(2021年7月)

2021年7月3日、熱海市伊豆山地区を襲った土石流は災害関連死も含め28人の命を奪い、小松さん宅など建物136棟が被害を受けた。土石流が流れ下った川の起点に違法に施された盛り土が、被害を大きくしたと指摘されている。

遺族や被災者は、盛り土をした土地の旧・現所有者に加え「違法な盛り土を規制できなかった」として静岡県と熱海市を相手取り、損害賠償を求める裁判を起こしている。遺族や被災者の多くが「人災」と思っている。

警戒区域は2023年9月1日に解除

土石流が流れ下った一帯は、崩落せずに残った盛り土が再び崩れるおそれがあるとして「警戒区域」に指定され立入禁止となった。
そして残土の撤去が完了し、川に新たな砂防ダムも整備され、災害から2年余り経った2023年9月1日に「警戒区域」は解除された。

819日ぶり「帰って来られて幸せ」

修繕を終えた小松さん宅

小松さんは被災直後から自宅に戻ることを希望してきた。
「先祖が残した家と墓がある。私は長男だから守っていかねばならない。伊豆山の土地に愛着もあるし、どうしても住まなければならない理由がある」と、元の場所での生活再建を強く希望する理由を話していた。

市営住宅での避難生活を終え、2023年9月に自宅へ戻った。自宅に戻れたのは発災から819日ぶりだ。まだ帰還できない人たちのことを思いやり、控えめに喜ぶ。

小松昭一さん:
まがりなりにも、家に帰ってこられたことは幸せですよ。まだ下の方の家は帰って来られないからね、家も建ってないし。だから自分だけ手放しに喜ぶわけにはいかないしね、でも自分個人としてはうれしいですね

2年不在で壁や家電がカビだらけ

2年不在でカビだらけ

引っ越しの3日前、小松さん夫婦は自宅の掃除に追われていた。2年以上留守にした自宅の壁や家電製品はカビだらけになっていたからだ。夫婦で懸命に拭き掃除をしたが冷蔵庫と洗濯機は買い替えなければならなかった。

洗濯機は買い替えた

念願の引っ越し当日、次々と荷物が運び込まれていく。
台所回りは妻・藤子さん(90)が担当だ。真新しい洗濯機に「今まで使っていたものより大きくて音も静か」と喜ぶ。

引っ越し初日の昼ごはんは野菜炒め。藤子さんが手際よく調理した。2年前の生活がようやく戻ってきた。しばらく片付けに追われる毎日だが、故郷に戻れた幸せを実感していた。

小松さんと妻・藤子さん

小松昭一さん:
自分が長年住んで育ったところですから、周りはどう変わろうと、やっぱり自分の家が残ったということは、それだけ心強いですよ。ここでゆっくりと暮らしたい。子供の時から飛び跳ねて遊んだところですからね

警戒区域だった地区

熱海市によると、警戒区域だった地域での生活再建を希望する41世帯のうち、自宅に戻ったのは2023年9月末までにわずか6世帯にとどまっている。電気や水道などが復旧していない地域が多いためで、市は12月1日までに復旧させる予定だ。

復旧の遅れが指摘されていて、宅地の復旧費用の補助制度は当初の予定より4カ月遅れて受付が始まった。土石流が流れ下った川の改修や新設予定の道路用地の買収は、2023年9月時点で4割に留まっている。

復旧遅れ帰還希望者は3割に減少

被災者を対象にした熱海市の調査

復旧・復興が遅くなればなるほど、被災地での生活再建が難しくなる傾向があるようだ。
熱海市が警戒区域に自宅があり避難生活を続けてきた124世帯に対して行った生活再建の意向調査が興味深い。

2022年6月~8月の調査では約半数にのぼる60世帯が現地での再建を希望していて、警戒区域外での再建を希望するのは51世帯、未定は13世帯だった。
しかし2023年9月の調査では、現地での再建の希望者が約3割となる41世帯まで減少し、区域外での再建の希望者は63世帯に、未定は20世帯に増えている。

被災地での生活再建をめざす人が減った理由として「川の改修や道路の新設などの復興が進んでいない」「避難者の高齢化」「買い物や通院など交通の便が悪い」などが指摘されている。

自宅から近隣を望む小松さん

先祖から受け継いだ土地に戻った小松さんも言う。「帰って来た喜びもさることながら、ほかの皆さんのこと、これからのことを考えると、昔の故郷が戻るのはいつになるのか、わかならいよね」と。

土石流で一変した故郷。戻る人、離れた人、さまざまな思いが交錯する被災地。迅速な復旧・復興へ行政の丁寧な説明が求められている。

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