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これまで数多くの国で生き物の調査をしてきた、“生物ハンター”加藤英明さん。加藤さんが研究者を目指すきっかけとなったのは、砂漠と化したアラル海でした。
7月16日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋では、静岡大学准教授の加藤英明さんが、研究者を目指すきっかけとなった出来事について語りました。
研究者を目指すきっかけとなった「中央アジア」
静岡大学准教授・加藤英明さん:
いままで50カ国、100地域以上で生き物の調査をしてきました。初めて海外に生き物を探しに行ったのは大学1年生、18歳の時です。
大きなリクガメを探しにアフリカに行ったのですが、見つかりませんでした。図鑑には「アフリカのこの地域に暮らしている」と書いてあり、実際に会えると思って行ってみてもなかなか会えない。
ライオンやシマウマも、なかなか見ることができないということを知ったのもその時でした。
いろいろ行った中で特に心に残っているのが「中央アジア」です。何度も出かけとても思い出深い場所で、研究者になりたいと志を強く持った地でもあります。
「カザフスタン」「ウズベキスタン」「トルクメニスタン」「タジキスタン」「キルギス」の5か国周辺のことを「中央アジア」と呼び、多くは、砂漠だったり山岳地帯だったり荒れ地が広がっている、そんな地域です。
姿を消した湖に衝撃
私は「ロシアリクガメ」というカメを探しに、エサとなる草が生える水辺がある場所を求め「アラル海」という湖に向かいました。
アラル海はとても大きくて、面積はなんと琵琶湖の100倍ほど。水がなみなみとあって、チョウザメやオオナマズなどいろんな生き物が暮らし漁業が盛んでした。
そこに近づくことはできたのですが、すでに湖ではありませんでした。農業用に水が必要になり、アラル海にそそぐ川から大量の水を取ってしまったため、流入量が減り、蒸発して水が干上がってしまったのです。
まだ湖は少しだけ残っていますが、塩分濃度が高くて生き物は住めない状態です。わずか50年で世界4位の大きさの湖がほぼ消えてしまったというのは衝撃です。
かつてそこにいた生き物たちは消え、いまはハリネズミやサソリなど砂漠の生き物たちが入りこんでいました。
調査で分かったロシアリクガメの実態
その後も調査を続け、砂漠に残された足跡を追って砂を掘り、やっとロシアリクガメを見つけることができました。
暑い環境、寒い環境でも生き残れる力強い生き物で、暑い環境が大好きだろうと考えていたのですが、朝や夕方だけ活動して、日中はできるだけ暑さを避けようとずっと砂の中に隠れていることが分かりました。
私たちの暮らす地球にはいろいろな環境があって、砂漠はなくてもいいのではないかと思われがちですが、実は多くの生き物たちが暮らしています。実際に行き、調べることで分かりました。
生き物たちと砂漠に暮らす人々との関わりもとても興味深かったです。例えば、ロシアリクガメが薬として利用されていたり、トカゲたちの進む方向によって水があるかどうかを推測したり、伝統的に生き物との関わりが受け継がれていました。
こうして研究者となった
ただ、新しい開発の波も近づいてきていて、例えばアラル海のように人間が大きく環境を変えてしまっている場所もあります。
そんな現状を目の当たりにして残念に感じ、まずこのアラル海に水を戻したいと思いました。
私たちが持つ大きな力を「生き物を守る、環境を守る」という方向に使っていければと強く感じて研究者を目指し、そして保全生物学を学んで生き物を守っていこうと思った私の原点の場所です。
いま残っている環境を、未来に残していきたいと思います。
加藤英明:1979年静岡県生まれ。農学博士。世界中のジャングルや砂漠を駆けめぐり生態系を調査。カメやトカゲの保全生態学的研究をしながら、学校や地域社会で環境教育活動を行っている。
※この記事は7月16日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。