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ピアノ教室で出会った自分の意思がない生徒。人生においても、自分で考えて決めることは大切です。子供たちに自分の考えを持ってもらうため、音楽教育家の樹原涼子さんは、あるアイデアを思いついたそうです。
テレビ静岡で6月25日に放送されたテレビ寺子屋では、音楽教育家の樹原涼子さんが、ピアノにおいても人生においても、自分の考えを持つことが大切だと語りました。
自分の意思がない生徒
音楽教育家・樹原涼子さん:
「自分の考えを持つと、人生は面白くなる」という話をします。
私がピアノのレッスンのときに心がけているのは、生徒が自分自身の演奏を聞いて、「どこが良かった、惜しかった」などと自分で評価しながら良くしていく手伝いをするということです。「カウンセリングレッスン」と呼んでいます。
ある時、レッスンの演奏後に生徒に自己評価を問いかけると、「良かったのか悪かったのか自分ではわからない、先生が言って」と言います。
私が「前の先生のところでは、そんなレッスンをしていたの?」と聞くと、「前は先生の言うとおりに弾けば、どんどんマルがもらえた。だから先生にも『こう弾いて』って言ってほしい」と答えました。
私は、「先生が思った通りに弾いても、うれしくないの。あなたが思ったように弾けるようお手伝いをするために、私はここにいるの」と言うと、「面倒くさい」と言うのです。
たかが曲だから「面倒くさい」で済むのかもしれませんが、それが人生だったらどうなるのかと思いました。
「先生や親の言ったとおりにしていれば楽かもしれないけれど、人間はいろいろなタイミングで大事なことを決めなきゃいけないの」と生徒に言いました。
「例えば自分の好きなこと、勉強したいこと、行きたい学校、結婚、就職も、何か岐路に立った時に自分はこう考える、これがやりたいという強い気持ちがないと越えていけないことがいっぱいあるのよ。言われたとおりにするからどうでもいいというのは、良くないと思う」と伝えたのですが、生徒は面倒くさいという表情のままでした。
物語をセットにした曲を作ると・・・
カウンセリングレッスンを重ね、その生徒は少しずつ自分らしい音楽を表現するようになっていきましたが、その後私は考えました。
自らが主人公になって、音楽や物語が動いていくシチュエーションを作ってあげたら、子供たちももっと音楽、そして人生を「我がこと」として、自分で考えて感じて決められるようになるのではないかと。
そこで、お話と音楽をセットにした組曲を作ることにしました。ピアノのレッスンの中にも物語を取り入れようと考えたわけです。
新しく手掛けた曲集の中にも、「主人公が迷う」「ドキドキしながらも一歩踏み出す」「恐怖に打ち勝つ」というような場面だったり、「思いがけないことが起こったときに自分がどんな対応をするか」ということを味わえる曲を作りました。
実際の発表会では6人が1曲ずつリレーをする形で演奏したのですが、子供たちはお話を読んで、その気持ちになってピアノに向かい、まさに主人公の心の音で奏でることができるようになったのです。
一人の演奏が終わったら、よく聴いていた次の子が受け取って次のお話の気持ちで演奏をして、見事なリレーがつながって大拍手でした。
自分の思いが伝わる「達成感」
みんなが協力し合い、一曲ずつに責任を持ってとても胸を張って演奏することができました。そのときの子供たちは、それまで見たことのないような誇らしい表情をしていました。
そういう達成感を味わえる、自分ががんばって表現したことで誰かに何かが伝わって手ごたえを感じることができたというのは、とても大きいことではないでしょうか。
これからも、子供たちのために物語や音楽をたくさん作っていきたいと思っています。
樹原涼子:熊本市生まれ。武蔵野音楽大学卒業。1991年より順次出版されたメソッド「ピアノランド」がベスト&ロングセラーに。作曲、執筆のかたわらセミナー、コンサートや音大での特別講義などを通じ、ピアノ教育界に新しい提案と実践を続けている。
※この記事は6月25日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。