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五輪シンクロナイズドスイミングのメダリスト・武田美保さん。その経験を生かし、現在は指導者としても活躍しています。ただ、選手時代と異なる環境に「一方通行で空回り」してしまった苦い経験があります。
テレビ静岡で9月15日に放送されたテレビ寺子屋では、アーティスティックスイミングの指導者として活躍する武田美保さんが、指導者としての葛藤を語りました。
指導者としてのキャリア
スポーツ 教育コメンテーター・武田美保さん:
21年間のシンクロナイズドスイミング(現:アーティスティックスイミング)の選手としての経験を子供たちに伝えたいと、結婚を機に移り住んだ三重県のクラブで指導者の道に進みました。
そこから13年ほどキャリアを積んできましたが、まだ選手の時ほど「こうだったら勝てるのではないか」という確固たるものがつかめず、日々葛藤を抱え思い悩みながら歩んでいます。
浮力が働く水の中でまっすぐの倒立姿勢を保つことは、反復練習以外では獲得できません。毎日コーチから客観的に「足の甲の方に倒れてしまっているよ」などと修正を受け、覚えていくのです。ですから基礎練習にものすごく時間がかかります。
そうやってひとつずつ進んだ結果、2022年度の日本代表選考会で私の教え子が選出され、「教えている選手が日本代表にまで来られたことは、しっかり自分の力にするといいよ」と恩師の井村雅代先生からも声をかけていただき、嬉しく思いました。でも、以前は私の中ですごく迷いが生じる経験もありました。
自分の価値観を押し付けて空回り
シンクロ選手として本当に素晴らしい泳力と体格を持っている選手に出会い、「絶対にものにしてあげたい」というおこがましい思いが出てきました。周りからも「絶対に日本代表まで育て上げて」と思われているに違いないと勝手にプレッシャーを感じていました。
「どうやったら発奮してくれるのか」、「早く成長させてあげたい」とたくさん力を注いだのですが、私の指導があまりに一方通行で空回りしていると感じていました。
私は負けず嫌いで、絶対に同世代の選手には勝ちたいという悔しい思いが原動力になってきていて、その経験をその子にも当てはめてしまっていました。
ですから発破をかける時、「ライバルに置いていかれてしまっていることに対してどう思う?」と聞いたら、「あの子はあの子で頑張っていて、私は私で前の自分を上回っているから十分だ」という返答があり、愕然(がくぜん)としたのです。
私は自分の尺度で、一番良しとする価値観を押し付けてしまっていたのだと思い、指導者としての自分を見つめ直す機会になりました。
コーチングとティーチング
指導の際よく言われる「コーチング」と「ティーチング」には、それぞれ向いている時期があるそうです。ルールをまだよく知らずに、モチベーションが湧いていない時にはティーチング、先生が教える方式が向いているそうです。
一方でコーチングは、「本当にうまくなりたい」、「日本代表として活躍したい」などと選手の心が整った時に、同じ目的地に連れていく、一緒に並走するということだそうです。
私は指導者としてまだまだ未熟ですが、選手としての経験が本当に長かったので、試合前にどの練習で自信をつけることができたか、どういう心の持ち方で試合に臨むと必ずいい結果が出たなど、経験値がたくさんあります。
これからも試行錯誤し、新ルールなどもしっかり学び、選手の目標を聞き、「コーチング」を徹底して心掛けながらまい進していきたいと思っています。
武田美保:1976年京都府生まれ。7歳でシンクロを始める。日本選手権7連覇、2001年の世界水泳で金。五輪に3度出場し、銀・銅5つのメダルを獲得。現在は三重県を拠点に指導者としても活動。
※この記事は9月15日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。
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