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2023年12月定例会で東アジア文化都市事業に関連した“レガシー施設”構想の白紙化を明言した静岡県の川勝平太 知事。しかし、この構想に代わって県東部・伊豆地域の文化発信拠点の設置を思い描いていることが判明した。
県議会の決議受け知事肝いり構想は白紙
「三島市内における東アジア文化都市の継承拠点の件はいったん立ち止まることにし、白紙と致します」
2023年12月6日。川勝知事は県議会の本会議で、自身が打ち出した東アジア文化都市事業の“レガシー施設”構想について白紙化を明言した。
この問題は遡ること2カ月。10月に行われた経済界との懇談の席で、川勝知事が三島市にある国有地を指し、「発展的継承センターを置く」「国の土地を譲ってもらおうと詰めの段階に入っている」「買わないで定期借地で借りる」などと発言したことに端を発する。
なぜなら、川勝知事が言及した“レガシー施設”は予算化されていないばかりか、県議会に諮ってもいない事業で、さらに県議会・総務委員会が県当局や土地の所有者である国に対してヒアリングを行ったところ、「詰めの段階」にも至っていないことが発覚。
このため、県議会は「知事の発言は不用意であることが明らかになった」と指摘した上で「何も決まっていないことを『詰めの段階』などとする発言が、県議会や県当局はもとより、関係する多方面に混乱をもたらしたことは事実」として、発言の速やかな訂正と今後は軽率・不用意な発言を慎むよう全会一致で決議し、これに対する川勝知事の意思表示として冒頭の発言につながった。
知事が諦めきれない“三島の国有地”
ところが、川勝知事は件の国有地について、強い思い入れがあるようだ。
“レガシー施設”構想の白紙表明から約2週間後の12月下旬。川勝知事はスポーツ・文化観光部の幹部たちを前に、“ある考え”を打ち明ける。
それが、三島市の国有地に県東部・伊豆地域の「文化発信拠点」を置きたいという“新たな構想”だ。
ただ、肝いりだった“レガシー施設”構想を白紙化せざるを得なかった状況を踏まえてか、県が主導するのではなく、市町の力を“借りる”ことを想定しているという。
どういうことなのか?関係者によれば、まず県東部・伊豆地域の市や町から「文化発信拠点」の設置や支援を県に要望してもらう。そして、それに“応える”形で県が共同で施設を整備するというのが川勝知事の描く座組でありアイデアだ。
何が違う?「推進拠点」と「発信拠点」
ここで気になるのが2023年9月末をもって閉館したヴァンジ彫刻庭園美術館(長泉町)の存在だ。
ヴァンジ美術館の運営法人は2021年10月、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう経営難などを理由に施設や土地の無償譲渡を県に申し出ていて、紆余曲折あったものの、県は跡地の取得を前提とした維持管理費などの関連経費を2023年12月補正予算案に盛り込み、県議会で可決されている。
これにより県は今後、ヴァンジ美術館の跡地を県東部・伊豆地域の「文化推進拠点」として、具体的な活用策や文化力向上を図るための利用計画などについて検討していく方針だ。
しかし、ヴァンジ美術館の跡地と三島市の国有地は距離にして10キロと離れておらず、川勝知事の新たな構想が“本気”であるとすれば、県民が長引く円安や物価高に苦しむ中で「文化推進拠点」と「文化発信拠点」の両方が本当に“至近距離”に必要なのか、県議会で議論が紛糾するのは間違いない。
総務省が1月30日に発表した2023年の住民基本台帳に基づく人口移動報告によれば、静岡県は転出者が転入者を上回る“転出超過”が6154人と47都道府県の中でワースト7位を記録。人口流出は全国で共通した地方都市の課題であり、静岡県も1994年の“転入超過”を最後に“転出超過”が続いているが、2014年から2023年までの10年間の転出超過数の平均は5473人と、前の10年の平均値(2882人)と比べて倍近くなるなど深刻さは度合いを増している。
なにより、2009年に“ハコモノ行政”の見直しなどを掲げ初当選し、県議会での初めての質問戦で「施設が県民に利用され、県民満足度の高い施設であるかどうかという意味で、県民目線に立った費用対効果を評価したい」と答弁していたのは、ほかならぬ川勝知事である。
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