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静岡県伊豆半島の人気観光地で、空室があるのに予約を断わっている宿泊施設が少なくないという。伊東市の市長も「お客様はあふれるほど来ているのに、もったいない状況が続いている」と嘆く。原因をさぐると、新型コロナの後遺症ともいうべき実情が見えてくる。
空室はあるが予約を断る
静岡県内を代表する観光地・伊豆。週末ともなれば大勢の人が訪れ、観光を楽しんでいる。しかし、観光客を受け入れる宿泊施設は人手不足に悩まされている。
熱海温泉ホテル旅館協同組合によると、熱海市内の宿泊施設は「人手不足で、なかなか毎日すべての部屋を利用することができない」という。新型コロナの5類移行などで宿泊客が増える一方で、宿泊施設は人手が足りず、部屋は空いているが稼働できていない状況だ。
市内を訪れる観光客の約7割が宿泊する熱海市。宿泊客数は2018年度(平成30年度)に309万人を記録したが、新型コロナの影響で2020年度(令和2年度)は150万人と半減した。
その後、宿泊客数が増え2022年度(令和4年度)は249万人まで回復したが、2023年度(令和5年度)が元の300万人に戻るかは疑問だ。
というのも、2022年度の年末(2022年10~12月)は行政の旅行支援もあって予約が増加し、従業員はほとんど休みなく働いたが、宿泊客数はコロナ以前の同時期に比べ9割に留まった。フル回転でも9割止まりというのであれば、2023年度の見通しも300万人の9割の約270万人に留まる計算だ。
コロナ禍での人員調整が影響している。辞めていったスタッフは既に他の仕事に就いていて、戻ってくるのは難しい。
熱海温泉ホテル旅館協同組合
森田金清 理事長:
お客さんの予約申し込みは来るにも関わらず、予約を止めるという状況が発生しているホテルや旅館も少なくない。熱海のホテル旅館業界の人手不足は大変厳しい。多くの旅館やホテルが人を募集しても、なかなか思い通りに集まらない状況
シニアや子育てママが短時間だけ勤務
宿泊施設の仕事は多岐にわたる。フロントや調理、配膳や清掃など様々だ。1人のスタッフが掛け持ちをする事も多く負担となっている。
そこで熱海市は、仕事を細かく分けることで少ない日数で短い時間だけ働くことができる「プチ勤務」の導入に向けた検討を始めた。
熱海市観光経済課・笹田修司 特命専門監は「労働力がないと思われたところでも、シニアや子育て中のママの隙間時間を使うことで、宿のルーティンの仕事を抽出して、それをそういった方とマッチングをして、既存の従業員の負担を減らして、従業員が本来やるべき仕事に注力できる」と狙いを話す。
ライフスタイルに合わせて数時間だけ働く「プチ勤務」。就労のハードルを下げて人手を確保すれば、従業員の負担軽減にもつながるというわけだ。
50代以下の女性が意欲 宿も期待
プチ勤務の導入を見据え、熱海市は2023年8月に市民を対象にアンケート調査をした。
アンケートの結果「宿泊施設で働いてみたい」「条件が合致すれば働いても良い」と答えた人が約6割いて、中でも50代以下の女性の就労意欲が高いことがわかった。
また、1日4~5時間・週3日前後の仕事を希望する人が多いこともわかった。
「プチ勤務」の導入に期待が持てる結果となり、宿泊施設も歓迎している。
宿泊施設側は「今までに仕事を細分化することがなかったので、新しい取り組みだと思う。上手くいけばいい」「分担制にして、今いる社員の仕事の負担を少しでも減らせればいい。応募が少しでも多く来てくれたらありがたい」「(アンケート調査で)データで示されたのが、非常に大きい。どの部分に対してどういう施策を行っていくか、非常に貴重なヒントをいただくことができた」と、市の新たな取り組みに期待する。
熱海市は現在 宿泊施設と協力し「プチ勤務」の求人を行う実証実験に取り組んでいる。
熱海市観光経済課
笹田修司 特命専門監:
実際、他の宿で働いている人がダブルワークで違う宿で働くケースがある。熱海市から他の市町に行ってサービス業以外で働いる方が、土日の休みを利用して宿で働くことも出てきていると聞く。いろいろな望みは出てきているのでは
市長「もったいない状況」
そして、隣の伊東市も単発の仕事を探す公式サイト「伊東マッチボックス」が12月15日にグランドオープンした。サイトには「1日単位・短時間から柔軟に働ける伊東市内の求人をたくさん掲載中!面接や履歴書不要、すぐお給料がもらえて便利。空いた時間や副業にぴったり!」と説明がある
12月18日の新着サイトをのぞいてみると、宿泊施設がいずれも1日単位で「清掃・片付け/10~14時/4000円」「ベッドメイキング/10~14時/4800円」「洗い場/8時~10時30分/2500円」「ホール業務/19~21時/2600円」「受付・フロント/13~17時/ 5400円」と単発の仕事を募集していた。いずれも初心者OKだ。
伊東市の小野達也 市長は「新しい雇用主と就労希望者をつなぐことを、積極的にやっていきたい」と話す。
伊東市・小野達也 市長:
お客様は相当にあふれるほど来ていただいておりますが、もうマックス。“オーバーツーリズム”は伊東でも起きておりまして、本当にもったいないというような状況が続いておりますので、なんとか(宿泊施設と)働く方をつないでいきたい
旅行需要の拡大にともなう宿泊施設の人手不足。
短時間のプチ勤務が、柔軟な働き方を求める人たちの就労を促し、人手不足解消につながるのか注目される。
宿泊施設のスタッフが集まり すべての部屋が稼働できるようになれば、宿も宿泊する人もプチ勤務をした人も、みんなが満足すると思うのだが…。
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