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つらい時は「助けて」と言えるようになってほしい。それが子供にも大人にも伝わる絵本3冊を、作家の落合恵子さんが教えてくれました。ウクライナ民話や親を亡くしたゴリラの物語など、「分かち合い」とは何かを絵本が教えてくれます。
動物たちの“分かち合い” ・・・「てぶくろ ウクライナ民話」
作家・落合恵子さん:
自立することは大事だけれど、「自立」と「孤立」は別のものです。残念ながらいま私たちが生きている社会は、本当の意味で豊かとは言えません。つらい時や悲しい時にひとりでがんばり過ぎずに「助けて」と言い合える関係性について、絵本をテキストに考えてみます。
雪の森を散歩していたおじいさんが片方の手袋を落とします。森の動物たちが次から次へと手袋の中に入り暖を取ります。「いれて」と言われたら「どうぞ」と答える。満員でも「しかたがない」と入れてあげて、しばしの暖をみんなで分かち合います。
「てぶくろ」は分かち合うこと、そして助け合うことの大切さを教えてくれるお話です。
「てぶくろ ウクライナ民話」 絵:エウゲーニー・M・ラチョフ/訳:うちだりさこ(福音館書店)
親を失った悲しみを分かつ・・・「悲しみのゴリラ」
絵本の表紙のゴリラは手に一輪の花を持っています。そこだけポッと明かりが灯ったような黄色い花です。主人公の男の子は最愛の母親を亡くしました。母親がいなくなったことはわかっていても『死』の意味がよくわかりません。
父親も妻を失った悲しみに沈んでしまって、息子の淋しさをわかっていても抱きしめてあげることができません。ふたりのすれ違いの末に現れたのがゴリラです。
ゴリラは男の子に寄り添います。そして男の子は尋ねます。
「ママは、もう かえってこないんだよね?」
ゴリラは否定しません。
「そうだね。でも いつかは きみもわかるよ。ママはずっといっしょにいるんだって。」
ゴリラは男の子の心が作り出した架空の生き物です。喪失という悲しい現実、そして形を失っても心に残る思いをゴリラは優しい言葉で教えてくれます。
絵本では男の子と父親が抱き合い、そのふたりをゴリラが抱きしめています。ふたりは思い出を語り合えるようになりました。思い出を重ねた向こう側にあしたがやって来ます。
最後のページは父親と男の子が手をつないでいます。悲しみを分かち合った証です。それを確認したゴリラは静かに去っていきます。
「悲しみのゴリラ」 文:ジャッキー・アズーア・クレイマー/絵:シンディ・ダービー/訳:落合恵子(クレヨンハウス)
子供に“福祉”の意味を伝えるなら・・・「ひとりでがんばらない」
「福祉」とは、自分や家族や友だちを幸せにする仕組みです。「福祉」とは、困らないように、あるいは困っても大丈夫なように、相手を大切にする、そして自分を大切にする仕組みです。
いまの日本は子供の貧困率が7人に1人とも言われています。食べるものにさえ困っている子供がいます。私たちの社会はどこで福祉を置き去りにしてしまったのでしょうか?
どんなに一生懸命働いてもうまくいかないことが人生にはあります。貧しいのは本人の努力が足りないからだと目をそらしてしまうのではなく、あなたの周りを少しだけ見てみてください。自分の心の奥底を覗いてみてください。見方を少し変えると違う景色が見えてきます。
何かを置き去りにしていませんか?ひとりでがんばり過ぎていませんか?本当につらいときは「つらい」「助けて」と言える社会でありたいものです。
「大人は知らない・子どもは知りたい! ひとりでがんばらない! 子どもと考える福祉のはなし」著:藤田孝典(クレヨンハウス)
落合恵子:作家・クレヨンハウス主宰。1945年栃木県生まれ。執筆活動と並行して、子供の本の専門店クレヨンハウスなどを展開。総合育児・保育雑誌「月刊クーヨン」や、オーガニックマガジン「いいね」の発行人。
※この記事は2月19日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。