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時には「対戦相手と飲むこともある」というラグビー。国籍がなくても代表になることができるラグビーの神髄はどこにあるのか、元ラグビー日本代表のキャプテンがラグビーのルーツからひもときます。
9月10日にテレビ静岡で放送されたテレビ寺子屋では、元ラグビー日本代表主将の廣瀬俊朗さんが、ラグビーの象徴する多様性について語りました。
ラグビーは国籍関係なく仲間
元ラグビー日本代表主将・廣瀬俊朗さん:
ラグビーは、民族フットボールのような形で始まったとされています。もとは村全体でひとつのボールを運んでいくような、ケンカみたいな形だったと考えられています。
イングランド各地でいろんなローカルルールの下で行われていて、これではなかなかうまくいかないということでイングランドのラグビー協会ができ、ルールを決めていったスポーツです。
その後、イギリスが侵略した地、ニュージーランドやオーストラリアなどでも、ラグビーはどんどん広まっていきました。その国に行ったイギリスの人たちも、その地の人たちと一緒に協力して代表になっていきたいと思うようになり、ラグビーは国籍よりもユニオン、協会主義になりました。
国籍を持っていなくても代表になれるというラグビーの成り立ちが、いまに至っているわけです。現在の世の中にとって必要な要素がたくさん入っていると思います。
多様性を生かすスポーツ
この「多国籍」ということもそうですが、ポジションもたくさんあって、あまり「ないもの」は見ず、「みんなが持っているものは何だろう、それをどうやって生かしていこう」と、すごく考えるスポーツでもあります。
チーム内は、身長など体格の差はもちろん性格も様々です。とても慎重な人もいるし、ピュアな人もいて、例えば海外の大きな選手にぶつかって行くことは冷静に考えたらイヤですよね。
でも「頼む!」と言ったら「分かった!まかせろ」と行ってくれます。こういう人がいないとうまくいきません。僕は行けないです。それぞれの良いところをどうミックスさせていくかというところが大事です。
それから観戦中、自分の横には南アフリカの人がいるかもしれません。みんなバラバラの席でみるんですよね。これもラグビーらしさです。
いいプレーをしたら、対戦チームにでも「おめでとう」と言ってくれる。一緒にその空間を良くしていこう、みんなで何かいいことしよう、楽しい試合を見ようという精神性も大事なことです。
ラグビーで学ぶ尊敬と団結
そして多様性という観点から最近の活動を考えると、ラグビーにもいろんなラグビーがあって、「車いすラグビー」、「デフラグビー(聴覚障がい者のラグビー)」、「ブラインドラグビー(視覚障がい者のラグビー)」など、これまでバラバラに活動してきましたが、一緒に活動した方がいいということになり「ワンラグビー」という団体を作りました。それぞれの活動をサポートしています。
具体的には、例えばイベントを開催して「ブラインドラグビー」を体験してもらいます。障がいの度合いはそれぞれ違うので、特殊なメガネをかけた状態でパス交換をしてみると、みんな普段よりコミュニケーションを取ったり優しくなったりします。
「なるほど、コミュニケーションってこうやって取ったらお互いのことをもっと理解できるんだ」と感じ視点が変わります。みんながいかにして楽しい人生を送るかということを啓もうできるような活動で、根本にある精神性「尊敬」も「団結」もラグビーを通して得られます。
民主主義のようなラグビー
ラグビーは、多様性を象徴するようなスポーツです。いろんな人がいる中で一つの目的のためにどうやって居場所を作っていくか。対戦相手とどうやって折り合いをつけていくかと、まさに民主主義みたいな感じです。
試合が終わった後も、コミュニケーションを取りながら対戦相手と飲んだりします。ノーサイドです。握手して楽しかったよねとなります。仮にケガをさせようと思ったらいくらでもできると思いますが、それはやらない。
相手へのリスペクトであり、ラグビーというスポーツに対しての愛、そういうものを持っている人たちがあれだけ激しいことをやっている、そこにみなさんの心を動かす何かがあるのかなという気がします。
廣瀬俊朗:1981年大阪府生まれ。5歳でラグビーを始め、北野高校を経て慶應義塾大学に進学。 2004年、東芝入社。中学から日本代表に至るまで全てのチームでキャプテンを務める。
※この記事は9月10日にテレビ静岡で放送された「テレビ寺子屋」をもとにしています。